制度はあるのに、なぜ行動が変わらないのか?——人事施策が“形骸化”する組織で起きていること
目次
評価制度、育成制度、1on1、目標管理、スキル定義──多くの企業で人事制度や施策の整備は着実に進んでいます。その一方で、「制度は整っているはずなのに、現場の行動が変わらない」「評価や面談の時だけ制度が登場し、日常業務では意識されていない」といった違和感を抱える人事担当者や管理職は少なくありません。
制度そのものが間違っているわけでも、運用担当者の努力が足りていないわけでもない―
それでも人事施策が形骸化してしまう背景には、制度と現場の業務・判断が結びつかない“組織の構造的な断絶”が存在します。
本コラムでは、制度が機能しなくなる組織で何が起きているのかを整理し、行動変容につなげるための考え方を紐解いていきます。
人事制度が「導入」で止まる組織に共通する違和感
人事制度が「導入」で止まってしまう組織には、ある共通した違和感が存在します。
それは、制度が整備されているにもかかわらず、日々の現場での判断や行動の基準として使われていないことです。評価制度や等級制度、目標管理制度は存在し、説明資料やルールも整っています。しかし、実際の業務の進め方や部下への指示、優先順位の判断において、それらが参照される場面はほとんどありません。
このような組織では、人事制度が登場するタイミングが極端に限られています。評価面談や期末評価、昇格・昇給といった「評価に関わる場面」では制度が意識される一方で、日常のマネジメントや業務管理の中では話題に上りません。管理職にとって、制度が日常的に適用するものではなく、「評価の時期に確認する資料」になっているのです。
その結果、制度を用いて下された評価と現場の実感との間にズレが生まれます。評価項目や行動基準は定義されているものの、「普段の業務で何をどう変えれば評価につながるのか」が見えないため、部下へのフィードバックが抽象的になりがちです。「主体性を持ってほしい」「もっと成長してほしい」といった言葉は出てくるものの、具体的な行動改善には結びつきません。
さらに、人事部門と現場の距離感もこの違和感を助長します。人事部門は人事制度を説明しているつもりでも、現場の職員の「結局、平常時にいつ・どの業務で使えばいいのか分からない」という状態が続けば、制度が“存在している”にもかかわらず、“使われている実感がない”と感じてしまいます。この感覚こそが、制度が形骸化している組織に共通する違和感です。
なぜ人事施策は“行動”に結びつかないのか
では、なぜこのような違和感が生まれるのでしょうか。原因は制度そのものではなく、制度と日々の業務・判断が構造的に接続されていない点にあります。多くの企業では、人事制度は「設計され、説明された時点」で役割を終えてしまい、「日々どう使われるか」という具体的な施策が不足しています。
違和感が生まれる要因には次の4つが考えられます。

要因① 制度が使われるタイミングが、
評価や面談といった特定の場面に閉じてしまっている
制度が使われるのが評価時期に限られると、社員にとって制度は「結果を判定されるための仕組み」になります。日々の行動を選ぶ基準ではなく、後から評価される“ルール”として認識されるため、日常行動への影響力がなくなりがちです。
要因② 制度の「使い方」が設計されていない
管理職の立場で見る際に感じる違和感のひとつです。評価項目や行動指針は提示されていても、それを業務の中でどう活用するのか、どのタイミングで何を見てフィードバックすればよいのかまでは示されていないケースが多くあります。結果として、管理職は制度を理解したつもりでも、実務では従来通りの“感覚的なマネジメント”に戻ってしまいます。
要因③ 業務管理と人事制度が別物として設計されている
業務ではKPIや進捗管理が重視され、人事制度ではKPIや進捗管理に紐づいていない評価や育成の話がされることがよくあります。この2つが連動していないと、現場は「どちらを優先すべきか分からない」状態になります。最終的には、目の前の業務を回すことが最優先となり、人事施策は後回しにされていきます。
要因④ 行動変容を促す仕組みが、制度内に十分組み込まれていない
人事制度活用への行動が変わらない理由です。日常的なフィードバック、目標、各役職が果たすべき責任や役割と、人事制度に表現されている重視すべきことの連動が弱いままでは、1on1を実施していても単なる報告や雑談で終わります。行動が変わらないのは個人の意識の問題ではなく、行動が変わるように制度が設計されていないことが原因なのです。
制度があっても行動が変わらない組織の意思決定ルール
実際に、人事制度はあるが、現場にまで浸透していない状況下では、何が起こっているのでしょうか?
日々の現場での判断を見てみると、多くの場合、次のような基準で意思決定されています。
・納期に間に合うか
・売上に直結するか
・クレームにならないか
・上司に指摘されないか
・チームの工数に余裕があるか

目の前に達成すべきタスクがある以上、現場の意思決定が「人事制度」ではなく「業務リスクと短期成果」によって決まっていくのは致し方ないことです。
一方で、人事制度が定義しているのは、
・主体性を発揮する
・チームワークを重視する
・顧客価値を高める行動をとる
といった、抽象的かつ中長期的に効果が出てくるものであることが多々あります。
ここで、現場の意思決定ルールと人事制度が、しっかり噛み合っていないという問題が生じます。その結果、現場では次のような現象が起きます。
・制度的には評価される行動が、業務的には「後回し」にされる
・育成よりも、目の前の成果が優先される
・挑戦よりも、失敗しない選択が選ばれる
つまり、人事制度が「正しい行動」を示していても、現場の意思決定の基準がそれを許さない構造になっているのです。この状態では、どれだけ制度を改善しても、行動は変わりません。
なぜなら、現場の意思決定の基準となっているのは、人事制度ではなく「業務の論理」だからです。
人事施策を機能させるためには、制度を整えることだけではなく、現場の意思決定の基準と人事制度をしっかりつなぎ込むことが不可欠なのです。
行動を変えるための設計ポイント
人事施策によって現場の行動が変わっている組織には、共通する特長があります。それは前述の通り制度を「どう作るか」だけでなく、制度を「どのように使われる前提で設計しているか」が明確であることです。
制度が機能している組織では、導入そのものをゴールにせず、日常業務や判断にどう組み込まれるかを起点に設計されています。

ポイント① 制度の目的が、経営と現場の双方で共有されていること
評価制度や育成施策は、何のために存在しているのか。単に公平に評価するためなのか、行動の方向性を揃えるためなのか、将来の人材像を育てるためなのか―この目的が曖昧なままでは、現場は制度を「従うもの」としてしか捉えられません。目的が共有されて初めて、制度は判断の拠り所になります。
ポイント② 管理職の役割に「制度を使う責任」が組み込まれていること
制度を運用する主体は人事部門ではなく、日常的に部下と向き合う管理職です。制度を理解するだけでなく、1on1の議事録に改善すべき人事制度項目を入れたり、業務日報にその日判断の役に立った人事制度項目を組み入れるなど、業務の中でどう活用するかまで定義されている組織では、制度は自然と使われます。逆に、この責任が曖昧なままでは、制度は形だけのものになります。
ポイント③ 人事の意図や人事制度内の言葉が、
現場で使いやすい言葉に翻訳されていること
人事制度で語られる抽象的な言葉を、そのまま現場に投げても行動は変わりません。「この評価項目は、日々のどの業務で、どんな判断につながるのか」まで具体化されて初めて、制度は実務に落とし込まれます。
現場の行動を変えるためのポイントを実務に落とし込むコツ
これまでのことを実務に落とすためには以下のようなコツがあります。
コツ① 制度を「評価の場」ではなく「日常の判断軸」に組み込むこと
業務の優先順位付けや指示の基準として、日頃から人事制度にまつわる言葉や判断基準を使うことで、行動と人事制度が自然と揃っていきます。
コツ② 人事の意図を管理職の業務単位まで具体化すること
1on1や進捗確認の場で、人事は管理職に何を見て、何を伝えてほしいのかをしっかり共有し、どのような効果を期待しているのかまで伝えておく必要があります。
コツ③ 業務設計と人事施策を同時に設計すること
人事制度を業務と切り離された制度にするのではなく、新しく業務を設計したらその業務でのパフォーマンスは人事制度でどのように評価できるのか、まで検証します。
「人事施策が“形骸化”する組織で起きていること」のまとめ
人事制度や施策が形骸化する原因は、制度の設計や担当者の努力不足ではありません。
多くの場合、制度が日常業務や意思決定と切り離されたまま運用されていることに本質的な問題があります。
制度を「導入すること」自体を目的にするのではなく、「制度がどのように使われ、現場の行動がどう変わるのか」を起点に設計し直すことが重要です。そのためには、人事の意図を現場の判断軸へと翻訳し、管理職の役割や業務プロセスに組み込む必要があります。
制度は整えるものではなく、使われてこそ意味を持つものです。
行動変容を生む人事施策とは、日常の業務の中で自然に機能する仕組みであることを、改めて見直すことが求められています。
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