大村康雄
第02回  投稿:2026.03.31 / 最終更新:2026.03.31

なぜ人事制度は形骸化するのか?①

— 人事制度が「評価のときだけ使われる」組織の共通点 —

評価制度や等級制度を整備し、評価面談や1on1も実施している。それでも「人事制度は評価のときだけ使われ、日常のマネジメントではほとんど話題に上らない」と感じている組織は珍しくありません。

普段の業務指示や部下育成では評価制度に触れない一方、評価時期になると突然制度が前面に出てくる状態に、違和感を覚える管理職や一般社員も多いのではないでしょうか。

前回のコラムでは、人事制度が行動変容につながらない背景に、制度と日常業務・意思決定が接続されていない「組織構造」の問題があることを整理しました。

本コラムでは、その続編として、数ある構造的課題の中でも特に多くの組織で見られる「人事制度が評価のときだけ使われる状態」に焦点を当て、その実態と背景を紐解いていきます。

筆者の考える「人事制度」と「評価制度」の定義を表す図
▲筆者の考える「人事制度」と「評価制度」の定義

人事制度が「評価のときだけ使われる」組織の典型的な状態

人事制度が「評価のときだけ使われる」組織でも、制度そのものがないわけではありません。評価制度や等級制度、行動指針は整備され、評価シートや運用ルールも存在しています。

しかし、それらが日常の業務やマネジメントの中で使われているかというと、答えは否であるケースがほとんどです。

典型的なのは、評価時期が近づいた瞬間にだけ制度が前面に出てくる状態です。評価面談や期末評価の直前になると、評価項目や行動基準が話題に上り、管理職も部下も「評価」を強く意識し始めます。

一方で、それ以外の期間、日々の業務指示や進捗管理、1on1の場面では、人事制度に基づいた言葉や判断基準がほとんど使われません。

具体的には、制度の中に部下へのエンパワーメントの項目があるのに、部下に仕事を任せられる余裕がないほど忙しかったり、チャレンジ精神が求められているのに失敗が許されない業務に従事していたりといった具合です。制度が「普段は使わないが、評価のときには必要になるもの」として扱われています。

この状態では、管理職にとって評価制度はマネジメントの道具ではなく、事務作業の一部になりがちです。評価シートを埋めるために過去を振り返り、「あのときはどうだったか」「この項目はどう評価すべきか」と後付けで整理するようになり、評価が日常の延長ではなく、切り離された特別なイベントとして処理されます。

その結果、部下にとっても評価は「普段の仕事とは別物」「最後にまとめて決まるもの」という認識になっていきます。

評価制度を想起させる画像

また、現場では、評価と日常行動のつながりが見えにくくなります。評価項目や行動基準は示されているものの、「日々のどの行動が、どの評価項目のどういう査定結果につながるのか」が実感として理解されていないためです。

普段は納期や売上、工数といった目の前の業務に追われ、評価の話は後回しになりがちです。結果として、上司側が評価項目と日常を振り返り、後付けで評価面談の場で初めて「こういう点を期待していた」「ここが評価に影響した」と伝えることも多く、部下は戸惑いを覚えます。

人事部門の立場から見ても、違和感が生じます。制度は説明しているはずなのに、現場では活用されていない。制度は存在しているが、日常業務を支える基準としては機能していない。

このように、「評価のときだけ制度が登場する」という状態そのものが、人事制度が形骸化している組織に共通する、非常に分かりやすいサインです。

なぜ評価制度は「日常」で使われなくなるのか

評価制度が日常のマネジメントで使われなくなる背景には、制度の内容以前に、現場の意思決定を支配している“別の論理”の存在があります。

日々の現場では、常に判断が求められています。その判断基準の多くは、「納期に間に合うか」「売上につながるか」「クレームにならないか」「チームの工数に余裕があるか」といった、短期的な業務リスクや成果に直結するものです。目の前に解決すべきタスクが山積みの状況で、育成や評価といった中長期的な視点を判断軸に据える余裕がないのは、ある意味自然な反応です。

一方で、評価制度や人事制度が本来担うべき役割は、単なる成果の判定ではなく、人材をどう育て、どの方向に行動を導くかを示すことにあります。主体性や成長、挑戦、チーム貢献といった評価項目は、まさに育成の観点から重要な要素です。

しかし現実には、育成に重要な評価項目を「今日・今週の業務判断でどう使えばよいのか」という形まで落とし込まれていないケースが多く見られます。

その結果、現場では「評価制度は、育成の観点では正しいことを言っているが、今すぐの業務判断には使えない」という扱いになり、育成と制度が切り離されたまま日常から遠ざかっていきます。

なぜ評価制度は「日常」で使われなくなるのかを想起させる画像

さらに、評価制度が「結果を判定する仕組み」としてのみ理解されている点も、育成に活かされなくなる要因です。

制度の登場が評価時期に限られていると、社員にとって評価制度は「日々の行動の指針」ではなく、「後から評価されるルール」になります。こうした認識が定着すると、「日々の行動をどう変えれば評価に紐づいた成長につながるのか」を考える機会そのものが失われていきます。

管理職側でも同様の問題が起きています。本来、評価制度は部下育成のための共通言語として使われるべきものですが、日常業務と結びついていない状態では、その活用は管理職個人の工夫や力量に委ねられます。評価項目を育成に使おうとすれば、指示の出し方やフィードバックの内容を制度と結びつけて整理する必要がありますが、それが想定された制度設計がなされていない以上、負担は管理職に集中します。

結果として、日常は業務優先で回し、育成や評価は評価の場でまとめて扱う、という運用に落ち着いてしまいます。

このように、評価制度が日常で使われなくなるのは、制度や育成の重要性が軽視されているからではありません。業務の論理と、人材を育てるための制度の論理が噛み合っていない構造の中で、評価制度における育成の視点そのものが「日常の判断に負ける存在」になっていることが、本質的な理由です。

管理職が評価制度を日常で使えなくなる、もう一つの理由

「管理職が評価制度を日常で使えなくなる、もう一つの理由」をイメージさせる画像

評価制度が日常のマネジメントで使われなくなる理由は、それだけではありません。もう一つ、多くの組織で見過ごされがちなのが、管理職の「ハラスメントに対する過度な恐れ」です。

近年、ハラスメントへの社会的な関心が高まる中で、管理職の意識も大きく変わりました。「強い言い方をすると問題になるのではないか」「評価や処遇の話を日常で出すのはNGなのではないか」といった不安を抱えながら、部下と向き合っている管理職は少なくありません。

その結果、本来は日常的に伝えるべき評価の観点や期待値を、あえて口にしないという選択が取られるようになります。

例えば、「この進め方を続けると、次の評価ではマイナスになる可能性がある」「この行動は評価上プラスに見ている」といったフィードバックは、本来であれば部下の業務改善や成長を促すための重要な情報です。しかし、こうした発言を「評価をちらつかせて圧をかけている」と受け取られることを恐れ、管理職は評価制度の話題を日常指導から切り離してしまいます。

その結果、1on1や日々の面談では当たり障りのない会話が中心となり、評価は評価面談の場で初めてまとめて伝えられる、という構図が生まれます。

ここで重要なのは、「評価の観点を伝えること自体がハラスメントなのではない」という点です。

問題となるのは、飲み会に来ないと次の人事査定を悪くするとか、自分の仕事を「人事査定を良くしてやるから」と部下に押し付けるなど、評価を不当に利用して威圧したり、人格を否定したりする行為であって、行動と評価の関係を事実として伝えることとは本質的に異なります。しかし、その線引きが組織として整理されていない場合、管理職は「触れない方が安全」という判断を取りがちです。

結果として、評価制度は「扱いが難しいもの」「日常で使うとリスクがあるもの」と認識され、評価の場に封じ込められていきます。評価制度が日常的に使われないのは、管理職が制度を軽視しているからではありません。むしろ、トラブルを避けたいという善意や慎重さが、制度の活用を妨げているケースも多いのです。

このように、ハラスメントへの理解不足や過度な恐れもまた、評価制度が日常から遠ざかる一因となっています。評価制度を本来の目的で機能させるためには、この管理職の心理的なブレーキが、組織の中でどのように生まれているのかを正しく捉える必要があります。

「人事制度が「評価のときだけ使われる」組織の共通点」のまとめ

「人事制度が「評価のときだけ使われる」組織の共通点」のまとめ

評価制度が「評価のときだけ使われる」状態は、制度が機能していないというよりも、組織の構造や管理職の不安によって“使えなくなっている”状態だと言えます。日常の意思決定は業務リスクや短期成果に支配され、さらにハラスメントへの過度な恐れが重なることで、評価制度は評価の場に閉じ込められてしまいます。

問題は制度の厳しさや設計の巧拙ではありません。評価制度を日常のマネジメントや業務判断にどう接続するかという組織設計の欠如こそが、本質的な課題です。

次回は、管理職が評価制度を「評価のため」ではなく、日常の指導や育成に使えるようにするために、組織としてどのような設計が必要なのかを具体的に掘り下げていきます。

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