園田信二
第02回  投稿:2023.05.29 / 最終更新:2023.05.26

“魂(たましい)”の無い管理職が現場マネジメントに失敗する本当の理由

知識やノウハウだけではマネジメントはできない

 

「ソノダさん、現場課長の人事異動をしたのですが、どうも後任者の評判が良くないのです・・・」

 

顧問先の部長クラスの言葉です。当該の現場課長は、同じ社内に所属する社員のシフト勤務表を作成したり、業務遂行のために必須な資格やマニュアルの有効性を管理したりするのが主な業務です。

顧問先では、この数年の間に、こうした主業務をクラウドサービス型の人事システムを導入したことによって、業務が格段に効率化され、時間的な余裕が生まれました。そこで、日々のオペレーションを改善し、生産性と業務品質を更に高めるための活動に取り組むことが可能となりました。

具体的には、5S活動(職場の整理・整頓・清掃・清潔・躾)から始まり、業務動線の見直し、標準業務手順書(SOP:Standard Operating Procedures)の整備、PDCAサイクルを確実に回す仕組みの構築など、段階的にオペレーション改善を成功させてきたのです(図1参照)。

その結果、平時のオペレーションはもとより、有事(非常事態や緊急事態)にも、社員同士が協力し合い、機動的に対応できる現場の力が醸成されつつありました。

 

< 図1 >

 

ところが、段階的なオペレーション改善によって、現場の雰囲気も明るくなりつつあった矢先、現場課長の人事異動がきっかけとなり、ある変化が見えてきました。前任の現場課長が築き上げてきた、“社員同士が率先して助け合う信頼関係”が日を追うごとに希薄になってきて、“平時はもとより、有事にも機動的かつ互いに助け合う”ことが難しくなり、結果として業務が停滞するようになってきたというのです。

そこで、私から部長に、「前任の現場課長はどんな引き継ぎをしたのでしょうか?」とお聞きすると、「仕事の進め方は一通り説明していたようです。何より残念なのは、後任の現場課長は人事・労務には社内で一番明るいという評判の人材でしたから、様々な人事・労務問題が発生しやすい現場のマネジメントも、難なく対処できると期待していたのですが・・・」と落胆にも似た表情を浮かべていました。

このやり取りからわかるように、どれほど有能な人材を配置しても、人事・労務の知識や、オペレーション改善のためのノウハウに精通しているだけでは、“平時はもとより有事にも機動的かつ互いに助け合う”現場の力を持続することは、難しいのです。

 

仏作って魂入れず

実は、現場の力を持続・発展させるために、前任課長から後任課長への引き継ぎの際に、伝えておくべき「肝心なこと」があったのです。何だと思いますか?答えは次の言葉の中にあります。

それは・・・“仏作って魂入れず”という言葉です。

“仏作って魂入れず”とは、「せっかく仏像を作っても、その仏像に魂を入れなくては、ただの土や石と変わりはない。すなわち、物事をほとんど仕上げながら、最後の最後に、最も肝心なことが抜け落ちていること」という意味で使われる言い回しです。

“同じ現場=仏像”なのに、前任課長がマネジメントしていた時は、平時はもとより有事にも、機動的に力を発揮していたのに、“仏像”を譲り受けた後任課長になったら、その力が発揮できなくなったのは、その“仏像に込められた魂=何か肝心なこと”が、前任課長と後任課長との間で共有されず、“仏像”から抜け落ちてしまったからなのです。
それでは、前任課長が“仏像”に込めた”魂”とは何だったのでしょうか。後日ご本人にお聞きしたところ、「私が込めた“魂”は、“部下の成長を支援したいという使命感”です」ときっぱり答えられ、次のように語ってくれました。

 

本社の力と現場の力は両輪

なぜ現場の力を高める必要があるのか。経営ビジョンを達成し、競合他社を凌駕するためには、経営戦略を構想する本社の力と、その戦略を実行する現場の力が両輪となって、それぞれの役割を発揮する仕組みを作ることが肝要です。現場の力がなければ、経営戦略は実行に移されず、絵に書いた餅になる。だから現場の力を高める必要があるのです。

 

< 図2 >

 

会社の夢=社員の夢

それでは、現場の力とは何か。それは、社員一人ひとりが「社長ならどうするだろう?」と自問自答し、自律的に課題解決に当たることができる力なのです。
社員が自問自答するという意識(=経営参画意識)はどのように醸成されるのか。それは、社員が「経営戦略(=会社の夢)の実現が、社員自らの夢(=人生設計)の実現に繋がっている」と共感してこそ醸成されるのです。困難な局面に遭遇しても、自分もまた成長できると感じられたら、自分の課題として捉えて、何とか乗り越えようと頑張れるものです。

 

< 図3 >

 

マネジメントツールを伝授する

経営参画意識を持ちはじめた社員を前に、経営者や管理職が、「後は君たちで頑張ってくれ」と無関心な態度を取ったら、経営戦略実行のために必要な現場の力は生まれてきません。ここでようやく、意識を行動に変換するためのマネジメントツールが必要となってくるのです。どんなツールが、どんな課題解決に有効か理解し、それを部下に伝授するのは管理職の役割です。

この現場では、業務遂行に必要なマニュアルの更新が頻繁に行われていました。そのマニュアル(印刷物)は郵便で現場に届くのですが、現場の整理整頓が行き届いていないために、他の郵便物に紛れ、配布が遅れることで平時の業務すら滞るといった事象が頻発していました。
そこで「5S活動」というマネジメントツールを伝授して、まずは、そこから取り組んだのです。足元の業務ができていなければ、生産性の向上や品質改善などあり得ませんから。その結果、配布が遅れることは無くなり、自ら考え、知恵を出していけば、感謝もされるということで、改善の輪が広がって行きました。

 

< 図4 >

 

こうした地道な取り組みと成果が、社員の自信やキャリア形成(=成長)につながり、更には上司と部下の信頼感を高め、最終的に経営戦略(=会社の夢)の実現が、社員自らの夢(=人生設計)の実現につながるという確信につながっていくという好循環を生むのです。

 

“魂”を伝承しよう

いかがでしょうか。前任課長は、常日頃から、会社と共に部下自身も成長できたと実感できるように、業務を指示する度に、”魂(成長を願う使命感)”を込めて、マネジメントにあたってきたのです。

しかしこの前任課長は、後任課長には、この”魂”を伝承しなかったのです。まさか人事・労務のプロが、この“魂”をしん酌しないはずはないと踏んだのです。

同じ管理職だからといって、マネジメントに対して同じ考え方、同じ”魂”を持っているとは限りません。人事異動後に、前任課長の”魂”を吹き込まれて士気が高い部下と、“魂”を共有していない後任課長との間で、仕事の進め方に対する想いの相違が表面化し、お互いの不信感が芽生え、業務が遅滞してきたことは自然な成り行きだったのです。

仏作って魂入れず・・・“魂”を自分一人のものとせず、組織の中で、皆に伝承していくことがもっと肝要なのです。

クラウドサービス型の人事システムなどの導入によって、業務効率は格段に向上し、よりコアな業務改善に挑戦する企業も多いことでしょう。
そのような場合でも、「社長ならどうするだろう?」と自問自答し、機動的な課題解決力のある人材や組織を育てることが、他社を凌駕する競争力をつける上で大事だということを忘れてはなりません。

鈴与シンワート株式会社

鈴与シンワートが提供する管理部門の業務ソリューション「S-PAYCIAL」

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