エンゲージメント強化の鍵は経営戦略にあり
目次
1.社員が経営戦略から感じ取った負のメッセージ
「ソノダさん、先日、今年度の経営戦略の説明をした際に、
社員から『自分の仕事を通じて組織や社会に貢献ができるのか?』『この会社で働くことは、私自身の夢を叶える上で、あまり魅力的でないと感じた・・・』といった落胆の声を耳にしました。 経営戦略を理解してもらい、社員の心を繋ぎとめるには何をすればいいのでしょうか?」 |
これは私が顧問をつとめている会社の経営者からの話です。
この会社は、親会社の事業拡大に伴いグループ事業の一部機能を担う会社として設立されました。しかし、経営環境が激変する中で、会社の役割も設立当初より大きく変化したため、職場では日頃から以下のような、親会社や経営者に対する不安や不満の声があがるようになっていたのです。
「親会社の都合で仕事内容がどんどん変化していく。グループ経営の中で、当社は重要な役割を担っていると思っていたのに、なぜ組織を縮小したり、当社が活躍できる機会をグループ他社に譲ったりしなければならないのか。」
「私たちは、会社から何を期待されているのかわからなくなった。このままでは、自身のキャリア形成のために、同業他社への転職を検討しなければならない。」 |
つまり、社員たちは、日頃から経営者に対して不信感を抱いていたため、経営戦略について説明を受ければ受けるほど、「当社も、当社で働く私たちも、自身が期待しているほど、組織や社会にとって重要な存在ではない。」という卑小感にも似た負のメッセージを感じ取り、自身と会社の関係性に疑問を持ち始めていたのです。
2.経営戦略の理解なくしてエンゲージメントなし
そもそも、多くの企業において、「ビジョンや経営戦略を腹に落とし、自身の役割を具体的に理解して働いている社員」は、一握りにすぎません。現場で働く社員の多くは、日々のルーティンワークをこなし、顧客からの期待に応えることに精一杯で、企業のビジョンと自身の仕事がどのようにつながっているか考える余裕はありません。
ビジョンや経営戦略が目まぐるしく変化する経営環境において、大多数の社員は、経営戦略を理解することを諦め、自身の仕事と会社の戦略には直接的な関係がないと感じます。
私は、エンゲージメントを「社員にとって、会社の成功・不成功が、自身の成功・不成功と同一視する、情熱にあふれて仕事に取り組む関係性」であると定義しています。「会社の成功・不成功」とは、ビジョンや経営戦略が実現できるか否かということであり、「社員自身の成功・不成功」とは、キャリア形成や人生設計が実現できるか否かということです。
ビジョンや経営戦略に対する理解が進まなければ、社員自身の成功・不成功と同一視することができるか否か判断することはできるません。
ビジョンや経営戦略に対する理解がなければ、「会社と社員自身の目的を同一視し、互いに貢献し合うという関係性=エンゲージメント」が醸成されないことは明らかです。
【図表1】
3.ビジョン・経営戦略への理解を進める2つのポイント
ビジョンや経営戦略を策定・説明するときに、社員がそれらを理解し、「自身の仕事を通じて組織や社会への貢献ができそうだ」、「この会社で働くことは、私自身の夢を叶える上でとても魅力的だ」と感じるためには次の2つのポイントがあります。
ポイント1(策定段階):経営戦略の4つの柱を言語化する
① 財務的な目標(効果的な経営で高い収益性を目指すための目標を明示) |
社員が望む企業像とは、利益を生み、どのように社会(顧客)に貢献するかが明確で、会社や社員が持つ強みを発揮し続ける企業です。そうした企業像に対して社員は、「私たちだからこそできる仕事なのだ!」という誇りを感じるのです。
一方、私が顧問をつとめている会社の経営戦略では、グループ経営戦略から要請される事業計画(生産体制や業務品質のレベル、コスト水準)について具体的に明示されることはあっても、上述の4つの柱については、ほとんど言語化されていませんでした。
こうした事業計画の視点では「会社も、そこで働く社員も、グループ事業を遂行していく上で単なる歯車のひとつだ。社員はコストの1つであり、いつでも差し替えができる」というメッセージを発信しているに等しいのです。
ポイント2(説明段階):つながりを言語化する
① 戦略のつながりを明確にする(戦略マップの活用) |
まず、①と②について説明しましょう。
ビジョンや経営戦略を腹に落とし、具体的な自身の役割を理解している社員がひと握りなのは、全社的なビジョンや経営戦略と、社員が属する組織(例えば〇〇部、□□チームなど)の戦略や自身の役割との関連づけができていないからなのです。
「先日、部長から『今年は、〇〇部に所属する社員のITスキルを強化してくれ、売上目標は3割増しだ。』と指示されたので、その理由を訊ねたところ『全社的な目標だからだ。』と言われました。
ITスキルを強化して、通信販売部門を新設する戦略なのか、ブランドイメージを向上させる戦略なのか、よく理解できません。これでは、部下にしっかりと説明ができません。」 |
このように、現場へ経営戦略を落とし込む役割を担っている管理職でも、会社の戦略と社員が所属する組織の戦略との因果関係を把握できずに、社員へ説明をしているケースも多いのです。
私は、戦略間のつながりを明確にし、経営戦略を現場に落とし込むための資料として、「戦略マップ」の作成を提案しています。「戦略マップ」とは、ロバート・S・キャプランとデビット・ノートンが、1996年に提唱した、「バランス・スコア・カード(BSC)」の4つの視点(財務、顧客、内部プロセス、学習と成長)から定められた、様々な戦略間のつながりを示したものです。上述の部長説明を戦略マップで整理すると次のようになります。これなら社員に説明できそうですね。
「今年の売上高は対前年比で30%増とする⇄効果的な広告によって、顧客から当社が選ばれる仕組みを構築する⇄具体的にはインスタグラムなどのSNSから直接購買可能な仕組みを構築する⇄社員にはWebプロモーションスキルの習得を推奨したい。
ITやマーケティングキャリアを形成したい社員は新設部門への公募をするので、応募を検討しておいて欲しい。」 |
次に③について説明しましょう。
「戦略マップ」も作成して、いざ経営戦略説明会の開催時に社員が居眠りしてしまい、渾身の経営戦略も台無しということにならないようにしたいものです。
私は、文字だらけのスライドによる退屈なプレゼンテーションではなく、スライドに盛り込む内容を厳選して「戦略マップ」をスライドで表現する物語として構成した「社員の感情に訴えかける資料」を作成することをお勧めしています。その詳細な方法については、時期をあらためてご紹介したいと思います。
4.最後に
経営戦略への理解を深め、社員のキャリア形成や人生設計との摺り合わせを行うためには、社員の人事情報(役職、業務範囲、給与、勤務実績、キャリア形成など)を適切に把握する必要があります。そこで、クラウドサービス型の人事システムなどを導入して社員の成長支援に専念できる環境整備を検討することも経営者として大事なことです。
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