大村康雄
第06回  投稿:2026.07.28 / 最終更新:2026.07.30

1on1が形骸化する組織で起きていること

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近年、多くの企業で1on1ミーティングが導入されています。上司と部下が定期的に対話することで、信頼関係の構築や育成支援、離職防止につなげることが期待されています。

一方で、「雑談で終わっている」「1on1を実施すること自体が目的化している」「現場によって運用に差がある」といった課題も多く耳にします。こうした問題は、管理職個人のスキル不足だけで説明できるものではありません。

前回のコラムでは、育成施策が成果につながらない背景として、「育成」と「現場運用」が分断される構造を取り上げました。1on1も同様に、制度として導入するだけでは機能せず、組織としての設計や運用の考え方が伴わなければ形骸化していきます。

本コラムでは、1on1が形骸化する組織に共通する構造を整理しながら、本来の目的を果たすために必要な考え方を解説します。

なぜ1on1ミーティングは形骸化してしまうのか

なぜ?を強調する画像

1on1が機能しない組織では、いくつか共通した状態となっています。

パーソル総合研究所が2025年に発表した調査によると、直近半年間で1on1を経験した部下の割合は55.7%にとどまっています。また、上司・部下ともに約3人に1人が、「面談の効果が感じられない」「面談について学ぶ仕組みがない」と回答しています。

出典:パーソル総合研究所が2025年2月27日に発表した部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/1on1/

以上の結果からも、多くの企業で1on1の導入が進む一方で、実施状況と効果の実感の間に大きな差があることがうかがえます。

ここでは、1on1が機能しない組織で共通してみられる現象を4つ紹介します。

① 目的が共有されていない

1on1を「何のために行うのか」についての認識が、上司と部下の間で共有されていない状態です。

育成のための対話なのか、業務の進捗確認なのか、心理的なフォローなのか。

目的が曖昧なまま実施されると、上司は何を話せばいいか分からず、部下も何を期待されているのか分からないまま時間だけが過ぎてしまいます。

② 対話が上司主体になっている

1on1の時間の大半を上司が話してしまい、部下が自分の考えなどを話す時間がほとんど残らない状態です。本来は部下のための時間であるはずなのに、業務の進め方の指示や近況の確認に終始してしまいます。

また、上司によって話す内容にばらつきがあると、部下にとっては「呼ばれて話を聞かされる時間」になり、自分の考えや悩みを話す機会として機能しなくなります。

業務の都合で後回しにされ、形だけになる

「今週は忙しいから」という理由で1on1がキャンセルされたり、時間が短縮されたりすることが日常的に起きている状態です。こうして後回しや時間の短縮が重なると、いつの間にか「実施した」という事実だけが管理対象となり、内容や効果が問われなくなっていきます。

重要度の低い予定として扱われることが続くと、部下にとっても「結局は優先されない時間」という認識が定着し、本音で話そうという意欲が失われていきます。

評価面談との違いが曖昧になっている

1on1の場で評価の話ばかりをしてしまうと、部下は本音を話しづらくなります。評価面談は「結果を伝える場」であり、1on1は「日常的な対話を通じた成長支援の場」であるはずです。

この違いが現場で整理されていないと、1on1は事実上「簡易的な評価面談」になり、本来の機能を失います。

1on1の形骸化を生み出す組織側の構造

1対1で話す男女

ここまでに挙げた現象は、いずれも結果として表れている症状にすぎません。

なぜ、目的が正しく共有されず、上司ごとに運用差が生まれてしまうのか — その背景には、運用上のスキルの問題ではなく、以下の4つのような組織的な構造の問題があります。

対話の目的より実施率が重視される

「業務の都合で後回しにされ、形だけになる」現象の背景には、人事部門側の測定方法があります。
人事部門が1on1の実施状況をモニタリングする際、「実施した・していない」という数字だけを追っていると、現場はその数字を達成することを優先するようになります。実施率は本来、手段であって目的ではないはずですが、管理指標が現場の行動を左右してしまうのです。

② 管理職任せになっている

「対話が上司主体になっている」状態は、組織として支援体制を設計できていないことの表れです。1on1の進め方やテーマ設定が、各管理職の経験や個性に完全に委ねられている組織では、運用の質に大きな差が生まれます。

先述の調査でも、「面談について学ぶ仕組みがない」ことが上司と部下双方の課題として挙げられています。1on1は本来、組織として支援すべき仕組みであり、管理職個人のスキルに依存させてよいものではないことの裏付けと捉えることができます。

③ 面談内容が組織に蓄積されない

1on1で話された内容が、その場限りで終わってしまう組織は少なくありません。部下が抱えている課題やキャリアの希望が記録されず、人事や次の上司に引き継がれないため、せっかくの対話が組織の資産にならず、毎回ゼロから関係を作り直すことになります。

④ 育成や評価との接続が設計されていない

1on1で語られた成長課題や目標が、育成施策や評価制度と連動していない場合、対話はその場限りで終わってしまいます。1on1の内容が次の行動や育成支援、評価の材料につながる設計がなければ、部下にとって1on1は「話しても何も変わらない時間」になります。

1on1が形骸化すると何が起きるのか

1on1が形骸化した組織で起きる問題を想起させる画像(沈黙する男女)

1on1が機能しない状態が続くと、組織にはいくつかの問題が積み重なっていきます。

① 部下が本音を話さなくなる

「日常的な対話を通じた成長支援の場」であるはずの1on1での対話が、評価や管理の延長だと感じられると、部下は本音を話すことにリスクを感じるようになります。また、表面的な報告に終始する1on1が続くと、上司は部下の本質的な課題や悩みに気づけなくなります。

② 管理職の負担感だけが増える

1on1の効果が見えないまま実施だけを求められると、管理職にとっては「時間を取られるだけの業務」と受け止められやすくなります。育成や信頼構築という本来の意義を感じられないまま義務として続けることは、管理職自身のモチベーションが低下する要因になります。

③ 育成施策への不信感が生まれる

1on1が機能していない状態は、前回取り上げた「育成施策が成果に結びつかない」問題と直結しています。「1on1をやっても変わらない」という経験が積み重なると、他の育成施策に対しても期待が持てなくなり、施策全体への関与意欲が低下していきます。

④ 対話文化そのものが定着しなくなる

1on1が形だけのものとして扱われ続けると、組織には「対話をしても意味がない」という空気が広がります。これは、1on1という一つの制度の問題ではなく、組織内のコミュニケーション文化そのものを弱めてしまう、より大きな影響を及ぼす問題です。

1on1を機能させる組織に共通する考え方

1on1を単なる面談制度ではなく、育成や組織運営の仕組みとして機能させるためには、次の4つの考え方が必要です。

① 1on1の目的を明確にする

1on1で扱うテーマや目的を組織として定義することが出発点です。

たとえば、以下のうちどこに重点を置くのかを明確にします。
・業務確認
・育成
・キャリア支援
・心理的なフォロー

そうすることで、上司と部下が同じ前提で対話に入ることができます。

② 管理職だけに依存しない運用を設計する

1on1の質を管理職個人のスキルに委ねるのではなく、対話のテンプレートや質問例を、組織として用意することが有効です。経験の浅い管理職でも一定の質を保てる仕組みを整えることで、上司ごとの運用差を縮めることができます。

③ 育成や評価との関係を整理する

1on1で語られた成長課題が、育成施策や評価のプロセスとどうつながるのかを明示することが重要です。1on1の内容が次の行動や評価につながる実感があれば、部下にとって1on1での対話の意味は大きく変わります。

④ 継続的な振り返りができる仕組みを作る

1on1は一度きりの対話ではなく、継続的な積み重ねによって効果を発揮します。前回の対話内容を振り返り、その後の変化を確認するサイクルを設計することで、1on1は「その場で終わる会話」から「成長を支える対話」に変わります。

また、人事部門には、1on1の実施状況だけでなく、運用の質や内容の傾向を把握し、上司ごとのばらつきを可視化することも求められます。たとえば、人事システムやタレントマネジメントシステムなどを活用して、1on1の実施記録や振り返りの状況を可視化しておくことで、形骸化の兆候を早期に把握し、必要なサポートを管理職に提供できるようになります。

「1on1が形骸化する組織で起きていること」のまとめ

まとめを表す画像

1on1が形骸化する背景には、主に次のような複合的な要因があります。

・目的の共有不足
・管理職個人の経験やスキルへの依存
・対話内容の蓄積不足
・育成や評価施策との接続設計不足

これらは、管理職個人の対話力だけの問題ではなく、組織としての設計と支援の問題です。

1on1を「実施すること」自体を目的にせず、対話が育成や成果にどうつながるのかを起点に、設計し直すことが重要です。それが、1on1を形だけの制度から、組織の人材育成を支える仕組みへと変えていく第一歩になります。

次回は「納得感のある評価が機能しない組織の盲点」をテーマに、評価制度そのものではなく、評価が信頼されなくなる構造について掘り下げます。

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