溝口知実
第76回  投稿:2026.09.08 / 最終更新:2026.09.04

2026年10月施行 カスタマーハラスメント対策が事業主の義務へ

労働施策総合推進法の改正により、今年10月1日から、カスタマーハラスメント(いわゆる「カスハラ」)を防止するための雇用管理上の措置が、すべての事業主の義務となります。

厚生労働省は2026年2月に「カスタマーハラスメント防止指針」を公布しており、事業主が講ずべき措置の具体的な内容も示されています。

今回は、改正のポイントと事業主が講じる対策について確認します。

1.職場におけるカスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントのイメージ画像

職場におけるカスタマーハラスメントとは、基本的には、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。


①顧客、取引の相手方、施設の利用者など「顧客等」による言動であって、

②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、

③労働者の就業環境が害されるもの

電話やSNS等のインターネット上において行われるものも含まれます。

なお、顧客等からの苦情の全てが職場におけるカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たりません。

一方で、社会通念上許容される範囲を超える行為は、カスタマーハラスメントに該当する可能性があります。例として、以下のようなものがあります。

言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの

・そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求
・契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
・対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
・不当な損害賠償要求

手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの

・身体的な攻撃(暴行、傷害等)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
・威圧的な言動
・継続的、執拗な言動
・拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

なお、障害者から労働者に対して、障害を理由とする差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨を意思表明すること自体は、職場におけるカスタマーハラスメントには当たりません。

2.2026年10月1日から事業主に求められる措置(義務)

カスハラ対策の義務化に伴い、事業主は以下の措置を必ず講じなければなりません。

①事業主の方針等の明確化、及びその周知・啓発

カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の事業主の方針を明確化し、労働者に周知・啓発します。

また、カスタマーハラスメントとは何か、カスタマーハラスメントが発生した場合の対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知します。対処の内容としては、例えば、管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ等、実態に即して具体化することが望まれます。

②相談体制の整備

相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること、及び、相談窓口担当者が、適切に対応できる体制を整備します。

相談対応窓口は、職場における他のハラスメント(パワハラ、セクハラ等)の相談窓口と一体的に設置をしても構いません。相談窓口の担当者には、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できる体制を整えておくことが求められます。

③カスタマーハラスメント発生後の迅速かつ適切な対応

カスタマーハラスメントが実際に発生した場合に、事実関係の迅速かつ正確な確認及び適切な対処として、次の対応が求められます。

・事実関係を迅速かつ正確に確認する
・被害を受けた労働者に必要な配慮を行う
・再発防止策を検討する

事案の内容や状況に応じ、行為者に対応する担当者の変更又は複数人で対応すること、被害者と行為者を引き離すための配置転換、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずることなど必要な配慮が求められます。

また、暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報することや、法的な手続が必要な場合には弁護士へ相談することも考えられます。

④抑止のための措置

カスタマーハラスメントを防止するため、特に悪質な行為への対応方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、その方針に沿って対応できる体制を整備すること。

⑤そのほか併せて講ずべき措置

上記①~④に挙げた措置以外に、相談者のプライバシーを守ること相談したことを理由として不利益な取扱いをしないことが「あわせて講ずべき措置」として求められます。

3.他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力(努力義務)

自社の労働者が、取引先等の他社の労働者にカスタマーハラスメントを行う場合もあり得ます。このため、他社から、自社の労働者の他社の労働者に対するカスタマーハラスメントの事実確認や再発防止といった他社の雇用管理上の措置の実施に関して必要な協力を求められた場合に、事業主はこれに応じるよう努めることとされています。

4.さいごに

カスハラ対策の意義は、事業主が、「顧客等からの正当な指摘や要望には誠実に対応する一方、労働者に対し過度な要求をしたりする迷惑行為には毅然として対応する」という区分けを明確にすることにあります。

つまり、顧客への適切な対応やサービスを維持しながら、労働者を守るための環境を整備することが求められています。実際にカスタマーハラスメントが発生した際に、個々の労働者に抱え込ませず、適切に対応できる体制を早い段階で整えておきましょう。

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