雇用調整助成金その2 雇用調整助成金の拡充(助成額上限の引上げ等)について
目次
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。前回のコラム「新型コロナウイルス感染拡大防止のための雇用調整助成金の特例措置について」では、4月時点での雇用調整助成金の特例措置の概要をお伝えしましたが、その後制度や運用の見直しが複数回行われ、6月12日に1日1人あたり8330円の助成額上限を15,000円とする拡充案を盛り込んだ「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律」が成立しました。今回は、雇用調整助成金の拡充の概要についてお伝えします。
1.緊急対応期間の延長
新型コロナウイルス感染症の感染の拡大防止のため、令和2年4月1日から6月30日までを雇用調整助成金の緊急対応期間とされていましたが、9月30日まで延長されることとなりました。
2.1人1日あたりの上限額の引き上げ
雇用調整助成金の1人1日あたりの助成額の上限額は従来8,330円でしたが、令和2年4月1日から9月30日までの期間の休業については、企業規模を問わず15,000円に引き上げられました。雇用調整助成金だけでなく、緊急雇用安定助成金(雇用保険未加入者対象)も対象です。
上限額の引き上げは4月1日にさかのぼって適用されます。既に支給決定済みの場合、差額(追加支給分)は後日(令和2年7月以降順次)支給され、申請済みの場合は差額(追加支給分)を含めて支給決定されます。会社は追加支給の手続きをする必要はありません。
さらに、支給申請が済んでいるが、過去の休業手当を見直し(増額し)、追加で休業手当の増額分を支給した場合にも、上限額の引き上げが適用されます。その場合は追加支給の手続きが必要となります。
なお、上限額の引き上げは4月1日にさかのぼって適用されますが、判定基礎期間に4月1日以降の日が1日でも含まれる場合には、3月31日以前の休業の上限額も15,000円の上限額が適用されます。判定基礎期間とは、休業実施した期間を区切った1か月のことをいいます。例えば賃金締切日が21日から翌月20日の会社で休業を3月21日から開始し4月1日以降も行った場合、判定基礎期間は3月21日から4月20日までとなりますが、3月21日の休業にさかのぼって15,000円の上限額が適用されます。
3.中小企業の助成率の引き上げ
解雇等をせず雇用の維持に努めた中小企業への助成率が10/10(100%)に拡充されました。
従来の中小企業における助成率は、下記の通りでした。
・解雇等があるとき・・・4/5
・解雇等がないとき・・・9/10
・休業要請を受け休業する等、一定の要件を満たす場合 10/10
・休業手当支払率が60%超の場合は超えている部分は10/10
見直し後は、4月1日以降以下の通りとなりました。
・解雇等があるとき・・・4/5(変更なし)
・解雇等がないとき・・・10/10(100%)
休業要請を受け休業する等の要件に関わらず、解雇等をしていない中小企業の助成率は100%となります。大企業の助成率は従来通り3/4のまま変更はありません。
上限額の引き上げや助成率の拡充により、会社の負担額が大幅に軽減されることとなりました。申請書類や添付書類も当初に比べると簡略化されわかりやすくなってきています。事業継続や従業員の雇用維持のため、適正に活用していきましょう。
-
第69回健康保険証の廃止とマイナ保険証への移行準備について
-
第68回令和7年4月施行 「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」の創設について
-
第67回令和7年4月1日施行 育児休業給付金延長申請手続きの厳格化について
-
第66回本年10月からの社会保険の適用拡大について
-
第65回令和6年4月施行 障害者法定雇用率の引上げと障害者雇用促進法の改正について
-
第64回キャリアアップ助成金「正社員化コース」の拡充について
-
第63回2023年9月改正「心理的負荷による精神障害の認定基準」について
-
第62回解雇の種類とその要件について
-
第61回自動車運転業務における時間外労働の上限規制の適用と2024年問題について
-
第60回令和6年4月施行 労働条件明示のルール変更及び裁量労働制の新たな手続きについて
-
第59回本年4月に中小企業に適用される月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引上げについて
-
第58回キャリアアップ助成金正社員化コース 令和4年10月からの変更点
-
第57回育児介護休業制度10月1日改正内容と社会保険料の免除について
-
第56回令和4年10月以降の地域別最低賃金額について
-
第55回複数の事業所で社会保険に加入する場合の取扱いについて
-
第54回令和4年10月 社会保険適用拡大に向けての企業の対応について
-
第53回令和4年4月 人事労務関連の法改正情報
-
第52回複数の事業主に雇用される65歳以上の雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
-
第51回脳・心臓疾患の労災認定基準の改定について
-
第50回本年6月に公布された改正育児・介護休業法の概要について
-
第49回夫婦共働きの場合の健康保険被扶養者認定基準の改定について
-
第48回短期在留外国人に支給される「脱退一時金」の支給上限の引上げについて
-
第47回障害者の法定雇用率の引上げと障害者雇用のための支援制度について
-
第46回新型コロナウイルスに感染した場合は労災保険の対象となるか
-
第45回「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定について
-
第44回雇用保険の被保険者期間算定方法の変更、基本手当の給付制限期間の短縮について
-
第43回雇用調整助成金その2 雇用調整助成金の拡充(助成額上限の引上げ等)について
-
第42回新型コロナウイルス感染拡大防止のための雇用調整助成金の特例措置について
-
第41回同一労働同一賃金の基本的考え方
-
第40回歩合給制運用の留意事項について
-
第39回パワハラ防止法成立~企業に義務付けられる防止対策~
-
第38回社会保障協定の概要について
-
第37回新在留資格「特定技能」の創設に伴う外国人雇用の今後
-
第36回副業・兼業を適正に運用するための留意点
-
第35回年次有給休暇の取得義務化に向けた対応策
-
第34回過労死ラインの長時間労働と働き方改革関連法
-
第33回健康保険の被扶養者認定の厳格化について
-
第32回夏休みの労務管理上の留意点について
-
第31回改正労働契約法と改正労働者派遣法による2018年問題とは
-
第30回割増賃金の計算を正しく行うための留意点
-
第29回年次有給休暇の基準日を設ける場合の留意点
-
第28回出向と転籍の相違点とその運用について
-
第27回平成29年10月改正の育児・介護休業法の概要について
-
第26回年金受給資格期間の短縮による外国人従業員への影響について
-
第25回就業規則に休職制度を規定する際の留意点
-
第24回定額残業代 運用上の留意点
-
第23回離職票作成をめぐるトラブルと留意点
-
第22回2017年の労働関連・社会保険関連の主な動きについて
-
第21回「夫に先立たれた9年間を幸せに生きる妻の本」人事担当者の方向け 活用のポイント
-
第20回長時間労働の抑制を目指す「勤務間インターバル規制」とは
-
第19回来年1月施行予定の介護休業制度の改正について
-
第18回雇用保険関連の法改正(保険料率の変更と高齢者の適用拡大)
-
第17回今後企業に求められる障害者雇用対策
-
第16回短時間労働者に対する社会保険の適用拡大について
-
第15回パワーハラスメントの防止策-コミュニケーション環境を整える
-
第14回一億総活躍社会―企業における影響は?
-
第13回女性活躍推進法の成立の背景と概要について
-
第12回二重派遣と偽装請負の問題点
-
第11回派遣と請負・業務委託―適正な活用のための留意点
-
第10回派遣労働の現状と労働者派遣法改正案の概要について
-
第09回雇用関係の助成金 申請のメリットと留意点
-
第08回育児期間中の短時間勤務 労務管理上のポイント
-
第07回「ワーク・ライフ・バランス」が経営戦略と言われる理由とは?
-
第06回労働者から労災請求された場合の会社の対応について
-
第05回労働時間の判断基準とは
-
第04回採用内定の法的な性格「始期付解約権留保付労働契約」とは
-
第03回人事担当者が知っておきたいマタニティハラスメントへの対応策
-
第02回高年齢者雇用活用の留意点
-
第01回職場における熱中症対策と労災認定