溝口知実
第38回 19年08月更新

社会保障協定の概要について

こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。2019年9月1日より「日中社会保障協定」が発効となります。社会保障協定とは、年金保険料の二重払い防止等を目的とした他国間と締結する協定であり、日本は他国との社会保障協定を順次発効しています。今回は、社会保障協定の概要について、お話します。

1.社会保障協定とは

外国に派遣される日本人や外国から日本に派遣される外国籍の人は、原則として、働いている国の社会保障制度に加入する必要がありますが、自国と相手国のそれぞれの社会保障制度に加入し二重に保険料を支払わなければならない「二重加入の問題」があります。また、年金を受給するためには一定期間年金制度に加入する必要がありますが、外国での加入期間が短く年金の受給資格を満たさない場合は保険料が掛け捨てになってしまうといった「年金受給資格の問題」もあります。

上記の問題を解決するため、社会保障協定は次のような役割があります。

(1)二重加入の防止
相手国への派遣の期間が5年を超えない見込みの場合、派遣期間中は相手国の社会保障の加入は免除され自国の社会保障制度のみ加入し、5年を超える見込みの場合には、相手国の年金制度のみ加入する

(2)年金加入期間の通算
年金受給のために必要とされる年金加入期間の要件を満たしやすくするために、両国の社会保障制度への加入期間を通算し、保険料の掛け捨てを防止することができる

2019年7月時点では、日本はドイツ、イギリス、韓国、アメリカ等22ヶ国と協定を署名済で、うち19ヶ国は発効しています。ただし、イギリス、韓国、イタリア及び2019年9月に発効予定の中国については、上記(1)「二重加入の防止」のみで、(2)「年金加入期間の通算」はされないことは注意が必要です。
また、社会保障制度の内容は協定相手国により異なります。詳細は日本年金機構HPよりご確認ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kaigaikyoju/shaho-kyotei/kyotei-gaiyou/20131220-02.html

2.事業主が行う手続き

日本から協定相手国に一時的に派遣され協定相手国の社会保障制度の加入が免除されるためには、日本年金機構より日本の社会保障制度に加入していることを証明する「適用証明書」の交付を受ける必要があり、事業主が年金事務所に申請手続きを行います。日本年金機構より適用証明書が交付されたら、派遣後に本人が協定相手国内の事業所に適用証明書を提出します。
また、当初の一時派遣期間の予定を延長する必要が生じた場合は、年金事務所に延長申請書を提出します。両国関係機関間で協議し延長申請が認められた場合には、新しい適用証明書が交付されます。

3.日中社会保障協定の注意事項

上述の通り、日中社会保障協定では(2)「年金加入期間の通算」はできません。
また、派遣期間の長さの見込みは必要なく、派遣開始日から5年間は派遣元国の年金制度のみに加入することとなります。
派遣期間が5年を超える場合については、申請に基づき、両国関係機関間で個別に判断の上、合意したときには、引き続き派遣元国の年金制度のみに加入することができます。ただし、その延長期間は原則として5年を超えないこととされています。
協定発効日前から中国に派遣されている人は、2019年9月1日の発効日に中国に派遣されたものとして取り扱われ、協定発効日以降の期間につき社会保障協定の適用申請ができます。適用証明書交付申請の受付開始は協定発効日の1ヶ月前の2019年8月1日ですが、適用証明書の発送は協定発効日以降順次となります。

4.社会保障協定と脱退一時金

社会保障協定における「年金加入期間の通算」により、日本と相手国との年金加入期間を通算し、年金の受給資格を得ることができます。一方で、日本の年金の受給資格を満たさず帰国した場合、日本の年金制度には「脱退一時金」という制度があります。脱退一時金は日本の公的年金保険料を納付した期間が6か月以上ある外国籍の人が帰国後日本年金機構に請求を行うことで加入期間等に応じて計算された一時金を受給できるものです。
脱退一時金の支給を受けると、その期間はリセットされ、年金加入期間として扱われなくなります。社会保障協定によって「年金加入期間の通算」が可能となっている相手国の人については、脱退一時金を受けてしまうと年金加入期間の通算ができなくなってしまうため、帰国前に十分説明しておく必要があります。

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