複数の事業主に雇用される65歳以上の雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
目次
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。複数の事業主に雇用される65歳以上の労働者が、本人の申出に基づき、雇用保険の高年齢被保険者となることができる「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が令和4年1月1日よりスタートします。
雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
従来の雇⽤保険制度は、主たる事業所での労働条件が週所定労働時間20時間以上かつ31⽇以上の雇⽤⾒込み等の適⽤要件を満たす場合に適⽤されます。複数の勤務先での労働時間を合算すると週20時間以上となっていても、各事業所で週20時間以上勤務の要件を満たさなければ雇用保険に加入することができません。
これに対し、雇⽤保険マルチジョブホルダー制度は、以下の要件を満たす場合、複数の勤務先の労働時間を通算することでき、労働者本人が自身の住所または居所を管轄するハローワークに申し出ることで、申出を行った⽇から特例的に雇⽤保険の被保険者(マルチ⾼年齢被保険者)となることができる制度です。
1.複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
2.2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること
3.2つの事業所のそれぞれの雇⽤⾒込みが31日以上であること
なお、3社以上で勤務している場合は、そのうち2社を労働者が加入時に選択します(選択した2社の労働時間を合計して週20時間以上であることが必要)。
「マルチ高年齢被保険者」が失業した場合には、一定の要件を満たせば、高年齢求職者給付金(被保険者であった期間に応じて基本手当日額の30日分又は50日分の一時金)を受給することができます。
2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも受給することができますが、3つ以上の事業所で勤務しており、1つの事業所を離職した日に、その他の2つの事業所で加入要件を満たす場合は、加入が必須となるため、高年齢求職者給付金を受給することはできません。
育児休業給付・介護休業給付・教育訓練給付等も対象になりますが、育児休業給付・介護休業給付は、適用を受ける2つの事業所で休業する場合に対象となります。
手続き方法
通常、雇用保険資格の取得・喪失手続は、事業主が行いますが、雇用保険マルチジョブホルダー制度は、マルチ高年齢被保険者としての適用を希望する本人が手続を行う必要があります。
手続に必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)は、事業主に記載を依頼して、適用を受ける2社の必要書類を揃えて住所または居所を管轄するハローワークに申し出ます。本人がハローワークに申出を行った⽇から被保険者となるため、申出日より前にさかのぼって被保険者となることはできません。また、マルチ⾼年齢被保険者となった⽇から雇⽤保険料の納付義務が発生します。
マルチジョブホルダーが離職した場合や、いずれか⼀⽅の事業所で週所定労働時間が5時間未満又は20時間以上となった場合、2つの事業所の週所定労働時間の合計が20時間未満となった場合等、マルチ高年齢被保険者の要件を満たさなくなったときは、事業主にマルチ喪失届や離職証明書の記載を依頼して、本人が住所または居所を管轄するハローワークに提出します。
事業主は、労働者から証明を求められた場合は、速やかにその証明を行わなければなりません。マルチ高年齢被保険者の資格取得日は、ハローワークに申出した日となりさかのぼって加入できないため、本人から記載依頼を受けた際には速やかに事業主記載事項を記入し、確認資料と併せて本人に交付しましょう。また、事業主は、マルチジョブホルダーが申出を行ったことを理由として、不利益な取扱いを⾏ってはいけません。
マルチジョブホルダー制度は65歳以上の労働者に限定して試行実施し、その効果等を施行後5年を目途に、改めて制度の在り方を検証することとしています。
-
第69回健康保険証の廃止とマイナ保険証への移行準備について
-
第68回令和7年4月施行 「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」の創設について
-
第67回令和7年4月1日施行 育児休業給付金延長申請手続きの厳格化について
-
第66回本年10月からの社会保険の適用拡大について
-
第65回令和6年4月施行 障害者法定雇用率の引上げと障害者雇用促進法の改正について
-
第64回キャリアアップ助成金「正社員化コース」の拡充について
-
第63回2023年9月改正「心理的負荷による精神障害の認定基準」について
-
第62回解雇の種類とその要件について
-
第61回自動車運転業務における時間外労働の上限規制の適用と2024年問題について
-
第60回令和6年4月施行 労働条件明示のルール変更及び裁量労働制の新たな手続きについて
-
第59回本年4月に中小企業に適用される月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引上げについて
-
第58回キャリアアップ助成金正社員化コース 令和4年10月からの変更点
-
第57回育児介護休業制度10月1日改正内容と社会保険料の免除について
-
第56回令和4年10月以降の地域別最低賃金額について
-
第55回複数の事業所で社会保険に加入する場合の取扱いについて
-
第54回令和4年10月 社会保険適用拡大に向けての企業の対応について
-
第53回令和4年4月 人事労務関連の法改正情報
-
第52回複数の事業主に雇用される65歳以上の雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
-
第51回脳・心臓疾患の労災認定基準の改定について
-
第50回本年6月に公布された改正育児・介護休業法の概要について
-
第49回夫婦共働きの場合の健康保険被扶養者認定基準の改定について
-
第48回短期在留外国人に支給される「脱退一時金」の支給上限の引上げについて
-
第47回障害者の法定雇用率の引上げと障害者雇用のための支援制度について
-
第46回新型コロナウイルスに感染した場合は労災保険の対象となるか
-
第45回「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定について
-
第44回雇用保険の被保険者期間算定方法の変更、基本手当の給付制限期間の短縮について
-
第43回雇用調整助成金その2 雇用調整助成金の拡充(助成額上限の引上げ等)について
-
第42回新型コロナウイルス感染拡大防止のための雇用調整助成金の特例措置について
-
第41回同一労働同一賃金の基本的考え方
-
第40回歩合給制運用の留意事項について
-
第39回パワハラ防止法成立~企業に義務付けられる防止対策~
-
第38回社会保障協定の概要について
-
第37回新在留資格「特定技能」の創設に伴う外国人雇用の今後
-
第36回副業・兼業を適正に運用するための留意点
-
第35回年次有給休暇の取得義務化に向けた対応策
-
第34回過労死ラインの長時間労働と働き方改革関連法
-
第33回健康保険の被扶養者認定の厳格化について
-
第32回夏休みの労務管理上の留意点について
-
第31回改正労働契約法と改正労働者派遣法による2018年問題とは
-
第30回割増賃金の計算を正しく行うための留意点
-
第29回年次有給休暇の基準日を設ける場合の留意点
-
第28回出向と転籍の相違点とその運用について
-
第27回平成29年10月改正の育児・介護休業法の概要について
-
第26回年金受給資格期間の短縮による外国人従業員への影響について
-
第25回就業規則に休職制度を規定する際の留意点
-
第24回定額残業代 運用上の留意点
-
第23回離職票作成をめぐるトラブルと留意点
-
第22回2017年の労働関連・社会保険関連の主な動きについて
-
第21回「夫に先立たれた9年間を幸せに生きる妻の本」人事担当者の方向け 活用のポイント
-
第20回長時間労働の抑制を目指す「勤務間インターバル規制」とは
-
第19回来年1月施行予定の介護休業制度の改正について
-
第18回雇用保険関連の法改正(保険料率の変更と高齢者の適用拡大)
-
第17回今後企業に求められる障害者雇用対策
-
第16回短時間労働者に対する社会保険の適用拡大について
-
第15回パワーハラスメントの防止策-コミュニケーション環境を整える
-
第14回一億総活躍社会―企業における影響は?
-
第13回女性活躍推進法の成立の背景と概要について
-
第12回二重派遣と偽装請負の問題点
-
第11回派遣と請負・業務委託―適正な活用のための留意点
-
第10回派遣労働の現状と労働者派遣法改正案の概要について
-
第09回雇用関係の助成金 申請のメリットと留意点
-
第08回育児期間中の短時間勤務 労務管理上のポイント
-
第07回「ワーク・ライフ・バランス」が経営戦略と言われる理由とは?
-
第06回労働者から労災請求された場合の会社の対応について
-
第05回労働時間の判断基準とは
-
第04回採用内定の法的な性格「始期付解約権留保付労働契約」とは
-
第03回人事担当者が知っておきたいマタニティハラスメントへの対応策
-
第02回高年齢者雇用活用の留意点
-
第01回職場における熱中症対策と労災認定