溝口知実
第48回  投稿:2021.05.06 / 最終更新:2021.05.12

短期在留外国人に支給される「脱退一時金」の支給上限の引上げについて

こんにちは。社会保険労務士の溝口知実です。短期在留の外国人が日本の年金制度に加入後、日本の年金の受給資格を得ずに帰国する際には「脱退一時金」を請求すれば保険料が一部返金されることになっています。今年4月、年金法の改正により、脱退一時金の支給額の計算に用いる月数の上限の見直しが行われました(「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」)。今回は、脱退一時金の概要と改正の内容について述べたいと思います。

1.脱退一時金とは

日本の国籍を持たない外国人であっても、日本に滞在し就労している間は、原則として日本の年金制度に加入し、年金保険料を納付します(社会保障協定の適用がある場合などを除きます)。日本の老齢年金を受給するには原則10年以上保険料を納付する必要がありますが、10年未満の短期在留の外国人は、日本の年金の受給資格を得ることができず、保険料が掛け捨てになってしまいます。そのため、日本の年金の受給資格を得ずに帰国する場合は、日本の年金制度に加入していた期間に応じた脱退一時金を請求することにより、掛け捨てを防止することができます。脱退一時金の請求は帰国後2年以内に行う必要があります。

2.脱退一時金の制度見直しの内容

脱退一時金は、保険料の納付済期間が6か月以上ある場合に保険料の納付期間に応じ支給されます。2021年3月まではその支給上限は3年(36月)でしたが、2021年4月から5年(60月)に引上げとなりました。
見直しの背景としては、2019年4月に施行された改正出入国管理法により創設された「特的技能(1号)」の在留期間の上限が5年となったことや、3年から5年滞在した人の割合が外国人出国者全体の約16%に増加(脱退一時金制度が創設された1994年は5%)していること等が挙げられます。

3.脱退一時金の支給額

2021年4月分以降に厚生年金、国民年金の最終月がある場合の脱退一時金の支給額は下記の通りとなります。

【国民年金】
脱退一時金の計算式
=最後の保険料納付月が属する年度の保険料額(2021年度は16,610円)×1/2×支給月数

【厚生年金保険】
脱退一時金の計算式=平均標準報酬額×18.3%×1/2×支給月数

4.脱退一時金の請求についての注意事項

脱退一時金を受け取ると、それまでの日本の年金加入期間が受給資格期間にはカウントされなくなるため、請求にあたっては、将来日本の年金を受け取る可能性を考慮する必要があります。また、脱退一時金は、日本の老齢年金を受給するための資格期間が10年以上ある場合は請求することができません。
外国人労働者の雇入れや帰国の際には脱退一時金の支給や請求方法について十分な説明が必要です。本人からの請求が困難であれば、代理人が請求手続きを行うことも可能です。

脱退一時金の制度(日本年金機構HP)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html

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