派遣と請負・業務委託―適正な活用のための留意点
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。
前回は、労働者派遣法改正案の概要について述べましたが、派遣をめぐっては、形式上は請負あるいは業務委託としているものの、実態は派遣であるという状態、いわゆる偽装請負などの問題もはらんでいます。今回は、派遣と請負・業務委託の相違点と、適正な活用のための留意点について述べたいと思います。
請負・業務委託とは
「請負」とは、民法において「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」(民法第632条)と定義されています。つまり、請負は仕事の完成を目的とした契約であり、発注企業との請負契約に基づき、請負企業が注文を受けた業務を、請負企業の裁量と責任で請負企業の労働者を直接使用して仕事を完成させることをいいます。
「業務委託」とは、民法では明確に定義されていませんが、法律に関する内容を委託する「委任」、法律に関する内容以外を委託する「準委任」等の契約が該当します。業務委託と「請負」との違いは、必ずしも仕事の完成を目的としていない点です。
請負・業務委託とは、発注企業が請負企業の労働者を直接利用せず、請負企業との契約に基づき、間接的に利用するものです。そのため、労働者に対して直接指揮命令するのは労働者を雇用している請負企業であるという点が大きなポイントとなります。
発注企業が請負・業務委託を利用するメリットは、労働者と直接雇用契約を締結することなく、外部の労働力を利用することになるため、労働基準法等の労働法規の縛りに囚われず、契約内容の変更等が雇用契約に比較し容易であること、人件費を低額に抑えられること、労務管理の負担がないこと、などが挙げられます。
派遣との相違点
労働者派遣法は派遣を「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」(労働者派遣法第2条第1号)と定義しています。
請負・業務委託と派遣は、いずれも外部の労働力を利用しているという共通点はあるものの、請負・業務委託は請負企業が自社の雇用する労働者に直接指揮命令する形態であるのに対し、派遣は派遣先が自社と雇用関係にない労働者に指揮命令する形態です。
つまり、請負・業務委託は、労働者を雇用する請負企業が労働者に指揮命令するのに対し、派遣は労働者を雇用する派遣元(派遣会社)は労働者と雇用関係を締結するが、労働者と指揮命令関係(使用関係)にあるのは派遣先となります。
また、請負・業務委託と派遣では、労働者に対する労働基準法・労働安全衛生法等の適用が異なります。請負・業務委託は請負会社が労働者に責任を負いますが、派遣は派遣元・派遣先それぞれに責任を負う事項が定められています。
偽装請負とは
労働者派遣法では、労働者を派遣できる期間や派遣できる業務など、様々な規制があります。また、労働者に対する労働基準法・労働安全衛生法等の責任の所在が明確に区分されていること、社会保険の加入や有給休暇の取得などの負担を含め派遣料金が設定されること、等の理由により、派遣の規制を逃れるため、契約形態としては請負または業務委託としているものの、実態として発注会社が労働者に指揮命令を行う「派遣」である状態が顕在化し問題となりました。いわゆる「偽装請負」です。
偽装請負は労働者派遣法、職業安定法に違反するため、行政指導が強化され、平成24年の労働者派遣法の改正により、偽装請負に対する対処として、違法な状態が発生した時点で派遣先は労働者に対して労働契約の申込みをしたものとみなす、と規定されました。つまり、偽装請負を行った場合、派遣先(契約上は発注企業)は労働者への雇用義務が発生することとなりました。
適正な活用のために
請負・業務委託を適正に活用するために、厚生労働者は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)を示しています。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-01.pdf
紙面の都合上ここでは詳細は省略しますが、業務遂行、労働時間に関する指示、企業秩序の維持・確保等のための指示、業務処理に要する資金の調達等の基準を示し、この基準を満たさずに請負・業務委託を行う者は、その契約名称に関わらず、労働者派遣事業を行っている事業主と判断されます。
偽装請負を回避するためには、請負企業は請負業務の処理能力を有し労働者への指揮命令を行い、発注企業は請負業務の処理能力を有した信頼できる請負企業と契約し指揮命令は行わないことが前提です。労働者の就労実態が不適正な状態では派遣契約へ切り替えるか、適正な請負への業務内容の変更が必要となります。
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