大型倒産のかげに、粉飾決算あり!?
老舗の日用品メーカーS社が、経営に行き詰まり、民事再生法の適用を申請しました。使い捨てカイロや、保冷枕など、私たちに馴染みの深いヒット商品を製造販売していた会社です。報道によると、昨年3月期の売上は、約300億円、6億円の「事業再構築関連費用」を特別損失として計上したため、3億円の赤字だったようです。
うん?
ということは、経常利益は3億円の黒字だったはず。
300億円企業が、たった6億円の特別損失を計上しただけで、破たん??と思っていたら、どうやら粉飾していたらしい、というニュースが入ってきました。
その内容は次のとおりです。
2014年3月期の決算で、過去の粉飾分を修正すると、60億円の最終赤字になる見込みであること、自己資本比率もほぼO円になるみ通しとなった。そのため、材料の仕入先も取引に慎重になり、借入金の返済のメドがたたなくなったため、金融機関に返済猶予の申し入れをしていたとのことです。負債総額は、250億円。
ここから推測すると、粉飾前の自己資本比率は、19%ということになります。一般的に、自己資本比率が30%をきる会社は、財務状況が不安定だと言われています。19%はかろうじて金融機関の支援を受けられる、ギリギリのラインだったのでしょう。それが、いきなりの自己資本比率0%。金融機関が同社の決算内容には信ぴょう性がないと判断し、監査法人にデューデリジェンス(企業価値の調査)を依頼したのも、うなずける話です。
ちなみに、自己資本比率は、下記の算式で計算します。
自己資本比率=自己資本÷(自己資本+他人資本)
S社の粉飾内容は、明らかにされていませんが、一部メディアは、「売り上げや経費を操作して」、決算を粉飾していた疑いがあると報じています。
このように、順調にみえた会社が、ある日突然、破たんするという例は、ほかにもたくさんあります。往々にして、突然の破たん劇のかげには、「粉飾」の2文字が隠れていたりします。
昨年、人気だったテレビドラマ、「半沢直樹」のリアル版と言われた、バイオ企業のH社も、粉飾が原因で破たんしたと言われています。
H社は、最大で約280億円もの売上を架空計上し、20年以上にわたって、健全経営を装うのですが、それはある日突然に破綻します。H社に融資をしている銀行同士が、お互いに把握している数字を情報交換したからです。
なんと、メインのC銀行に提出していた決算書と、サブのS銀行に提出していた決算書の借入残高が違っていたのです。ついに粉飾決算が発覚し、両銀行は激怒。独自の技術力で、数々のヒット商品を開発し、世界的優良企業と言われたH社は、会社更生法の申請にまで追い込まれてしまうのです。
それにしても、会計とは、じつによくできたシステムです。ルールはたった一つしかありません。「借方と貸方があって、その貸借は必ず一致する」というだけの、単純な仕組みです。
しかし単純だからこそ、粉飾をすると、どんなに巧妙に隠しても、その歪みが、必ず決算書に現れてくるのです。
粉飾とは、架空の利益を増やすことです。架空の利益を増やすためには、次のいずれかの方法しかありません。
① 売上を増やす
② 経費を減らす
しかし、架空の売上を増やしたり、経費を減らしたりすると、必ず決算書の貸借が合わなくなるのです。複式簿記の片方をいじったら、もう一方にも架空の数字を計上しなければならないからです。
すると、そのしわ寄せは、次のどちらかに現れます。
① 資産を増やす
② 負債を減らす
H社は、在庫を水増ししたり、金融機関への借入金を実際より少なく見せたりすることで、粉飾の辻褄をあわせていたようです。粉飾の詳しい内容は、当時の役員が執筆した本に詳しく書かれています。その役員の経営者としての考え方には賛否両論あるとは思いますが、金融機関が一企業を追い込んでいく様子がリアルに描かれていて興味深い内容です。
この時は、メインのC銀行が、なぜ20数年にもわたって、粉飾決算を見抜けなかったのかも問題になりました。粉飾している会社を見抜くためには、次の点に注意して経営分析を行います。
① 売掛債権回転期間
これは、会社が、商品を売ってから、何ヵ月後に回収できるかという回収サイト(回収期間)を表す指標です。計算式は下記のとおりです。
売掛債権 ÷ (年商÷12)
売掛債権期間が、1.5とは、納品して45日後に入金されるという意味です。取引先との決済条件は、一度決めたら、通常は、簡単に変わりません。この回転期間が長くなるということは、多額の不良債権を処理していないか、架空売上を計上しているか、どちらかだということになります。
売掛債権期間の平均は、手形をつかうことの多い製造業で70日~110日です。小売業は28日です。(EDIUNET 業種平均ランキングより)
② 在庫回転期間
これは、商品を仕入れてから、どのくらいの日数または月数、売れずに社内に残っているかをみる指標です。計算式は下記のとおりです。
在庫(商品・製品・原材料・仕掛品など) ÷ (売上原価÷365)
数字が小さいほど、在庫の期間が短い(=よく売れている)ことを意味します。逆に数字が大きいということは、過剰在庫や滞留在庫、もしくは架空在庫が存在している可能性を示唆しています。
在庫回転期間も、業種によって異なりますが、製造業で30日~90日、小売業の平均値は18日が平均です。(EDIUNET 業種平均ランキングより)
ちなみにスティーブ・ジョブスが、アップルに復帰後、再建のために力を入れたのは、商品のアイテム数を減らし、在庫の回転期間を小さくすることでした。
経理スタッフの皆さんも、これを機会に自社の経営分析をしてみてはいかがでしょう?
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