出国税は日本の税収不足を救えるか!?
7月1日から、「出国税」がスタートします。
「出国税」とは、海外に転居するときに、1億円以上の株式などの資産をもっていると、その株式を売ったものとみなされ、未実現のキャピタル・ゲインにかかる税金のことをいいます。
なーんだ、自分は金持ちでもないし、そもそも海外なんて縁がないから、関係ないや、などと思わないでくださいね。
私自身、ミャンマーに事務所をつくってからというもの、税の徴収力はイコール国力だということを肌身で、つくづく感じています。
国の収入源は、税金です。税金を徴収するシステムのない国は、発展することができないからです。日本の高齢化は、社会福祉にお金がかかるのと同時に、国民に税金を払う力がなくなっていくことに問題があります。税収が減れば、日本は衰退していくしかないのです。
「出国税」について説明する前に、国際課税の基本的な考え方について、説明しておきましょう。
世界中のどの国も、その国の自治を超えて、他の国で課税をすることはできません。そして、その国の課税権がどこまでおよぶのかを定義づける税法も、国によって異なります。日本の税法では、日本に国籍があるかどうかより、日本に住んでいるかいないか、生活の拠点が日本にあるか、収入の源がどこにあるかの方が、重要視されます。
そして、日本の居住者と認められれば、日本以外の国で稼いだ所得にも、日本の課税権がおよびます。これを全世界所得課税といいます。
反対に日本に国籍があっても、日本に住んでいなければ(非居住者と判定されれば)、日本の課税権はおよびません。日本を離れて、「他国」に移り住んだ人は、日本という国に税金を納める必要はなくなりますが、今度はその「他国」で、「他国」の法律にのっとって課税される、というわけです。
しかし世界には、タックスヘイブンと呼ばれる日本より税率が低いまたは税金のない国がたくさんあります。また国によっては、株式の売却益や配当金には課税しないとか、日本では当たり前の相続税や贈与税が存在しないなど、課税のルールはマチマチです。香港のように、全世界課税を採用せず、居住者であっても自国内の所得にしか課税しない(オンショア課税)国もあります。
これら国際間の税制のすき間をぬって、節税目的で日本を離れ、香港やシンガポール、マレーシアなど税の軽課国に移り住む人が増えているのを危惧した政府が、税の流出を防止するために作ったのが、「出国税」なのです。
具体的には、過去10年以内に5年超日本に住んでいた人が海外に転居する場合、株式などの有価証券や匿名組合契約の出資持分、または未決済のデリバティブ取引などを1億円以上持っていると、海外に出国する時点で、有価証券などの譲渡や決済が行われたものとみなして課税されるというものです。
これらの有価証券は、日本で稼いだお金で購入したものなのだから、その有価証券を売却して儲けたお金も、日本で払いなさいというわけです。
しかし「出国税」には、二つの問題があります。
一つ目は、実現した利益に課税するのが、課税の基本なのに、未実現の所得に課税するのですから、担税力がないという点です。これには納税猶予などの措置もありますが、担保が必要ですし、猶予を受けた株式を売却したときの処理などの仕組みも複雑です。
二つ目の問題は、海外に移住する人は、節税目的の人ばかりとは限らないという点です。
たとえば成功したベンチャーの担い手や、中小企業の二代目なら、所有している自社株の評価が1億円を超えるのは、そんなに珍しいことではありません。「出国税」は、そういう人が、海外進出するときの足かせになる可能性があります。
税制は、その国がどこに向かっているのか、国の戦略と密接な関係にあります。このままでは労働人口が減少し、税金の担い手が減り、結果として税収が減っていく流れを止めることはできません。税収不足を補うために消費税の10%アップは確実ですし、平成27年度から相続税も増税されています。
「出国税」という新しい税金をきっかけに、日本という国の将来像についてもっと議論すべき時なのではないでしょうか。
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