マイナンバー対策にもなる、電子申請(e-Gov)の活用
今、社会保険の手続きを電子申請(e-Gov)にしたいと考えている企業が増えてきています。理由はマイナンバーです。
平成28年1月から雇用保険に関する手続きにはマイナンバーの記載が必要となります。社会保険についても平成29年1月から開始する予定です。マイナンバーの安全管理措置を考慮すると、番号が記載された書類を社外に持ち出すのはできるだけ無くしたいと考えます。
また、ハローワーク等への郵送においても、書留郵便等で送付するよう指導されています。そうなると郵送コストも馬鹿になりません。
特定個人情報の安全管理対策、郵送コスト等を考慮すると、ある程度の規模の企業であれば、このタイミングで電子申請に切り替えようと考えるのも自然な流れです。
では、企業が独自に電子申請を開始するのは、簡単にできるものなのでしょうか?課題となるのは下記の3点です。
①電子申請に対応した業務ソフトがない
②電子証明書を取得する手間とコストがかかる
③始めるにあたっての準備や運用方法が分からない
これまでは上記のような課題から、なかなか一般企業に普及せず、一部の社会保険労務士が活用するに留まっているのが現状でした。しかし、最近は行政側の努力もあり、これら普及のネックとなっていた課題がクリアされつつあります。今後は、企業内での電子申請化はより一般的なものとなるでしょう。
①電子申請に対応した業務ソフトがない
業務ソフトが無くても電子申請は一応可能です。ただし、e-GovのWEB画面から申請データを入力する方法で、非常に使いにくく、従業員が多い企業にとっては全く実用的ではありません。「こんなの使うぐらいだったら、紙でやった方が断然早い」という事業主さんの声も多く聞いています。従って、e-Govの電子申請を利用するためには、現実問題としては専用の業務ソフトが必須と考えるべきでしょう。
今年に入ってから、e-Govは新たに「外部連携API申請」に対応するようになりました。業務ソフトから直接申請等の各種操作ができるようになり、使いにくかったe-GovのWEB画面を意識することがなくなる画期的な方法です。今後は間違いなくこの方法が主流になると思われますし、これに対応する業務ソフトが増えることで、電子申請の利用率もアップしていくことでしょう。
②電子証明書のコストがかかる
電子申請には、印鑑の代わりになる「電子証明書」というものが必要となります。法人名義のものを作成する必要があり、手間も費用もかかります。電子証明書を持っていない企業にとっては普及のハードルになっているものでした。
この課題について今後は解決することになります。マイナンバーの個人番号カードに付いている電子証明書を利用して会社の手続きができるようになります。個人番号カードは申請すれば無料で発行されますからコストはかかりません。法人名義の電子証明書を作成する手間もなくなります。
電子証明書は社長などの代表者のものでなくてもよく、例えば人事課長などの現場責任者の電子証明書でも可能です。個人のものを利用する際は「事業主が指定する者に係る電子証明書の利用届」を作成し電子申請に添付することになります。
「個人の電子証明書を使うのは・・」と抵抗感がある方もいるかも知れませんが、電子証明書をお持ちでない企業にとっては良い方法だと思います。
③始めるにあたっての準備や運用方法が分からない
当然ながら、システム対応、業務手順、操作方法などの観点でいくつかの準備が必要となります。マイナンバーの安全管理を踏まえて、そして業務効率化が図れるようにするにはやはりノウハウが必要です。電子申請、社会保険手続き、そしてシステム面での幅広い考慮が求められるため、これらに対するノウハウを持った企業、社会保険労務士に相談するのが良いでしょう。当事務所でも対応していますので、ご興味あればお問い合わせ下さい。
厚生労働省は「オンライン手続の利便性向上に向けた改善方針」(平成27年9月29日)の中で電子申請の利用率アップの計画を出しています。例えば雇用保険資格取得届については、平成26年度10.09%を平成28年度には20%にするという計画となっています。結構強気の計画ですね。普及が遅れている社会保険関係の利用率を上げるため、行政も本気になってきているように感じます。
しっかり活用すれば、安全管理面、業務効率面で非常に効果的な方法です。手続きの電子申請はまだまだ関係ない世界と考えておられた企業も、是非一度検討してみてはいかがでしょうか。
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