【就業規則届・36協定届の電子申請のススメ】
目次
今年の就業規則届は電子申請にしませんか?
最近、顧問をさせていただいている企業の中でも、事業所が多くある企業には、そのようにお勧めしています。なぜなら電子申請により、大きな業務効率化が期待できるからです。
■これまで就業規則届等の電子申請が普及していなかった理由
e-Govでは就業規則届や36協定届の電子申請は、以前から対応していました。しかし、利用率はずっと低迷が続いています(平成27年、36協定:0.28%、就業規則:0.98%)。これは、電子申請を積極的に利用している社労士が、実質的に代行申請ができなかったことが大きな理由と考えられます。
社労士が事業主に代わって各種手続きの電子申請を行う場合、事業主印の代わりになる「提出代行証明書」を予め作成し、それをPDF等で添付することで、事業主の電子証明書を省略できます。
しかし、就業規則届等の労働基準法に基づく届出はその方法が利用できず、必ず事業主の電子証明書を添付する必要がありました。社労士がPCで電子申請するにあたり、事業主の電子証明書を添付することは運用上現実的ではありません。
この点について平成29年12月に改正され、他の電子申請と同様に「提出代行証明書」による事業主の電子証明書の省略が可能になり、社労士にとっての電子申請の利用の道が開けました。
また、一般企業においても、電子申請は身近に対応できるものではありませんでしたが、利用ソフトが対応して利便性が向上されると共に、電子申請の全体的な利用機運が高まっています。電子申請で効率化が図れるものは積極的に利用しようという企業が増えてきたように思います。
■就業規則届・36協定届の電子申請のメリット
まず、労働基準監督署に提出する行為を電子申請により行うということであり、書面を全く不要にするものではありません。
電子申請であっても、就業規則の意見書は必要となりますし、36協定も労使で書面により作成する必要があります。
電子申請にするメリットは、労働基準監督署に書面提出する際のコスト(提出書類の準備作業や郵送料など)を削減できる点です。
例えば、就業規則届であれば、就業規則本体を印刷する必要がないという点が大きなメリットでしょう。電子申請ではPDFやWord形式等で添付すればよく、印刷にかかる作業コストが削減できます。数箇所の事業所であれば良いですが、数百の事業所がある企業であれば、この書面準備の作業は大きな負担です。CD-R等での申請も可能ですが、これも媒体準備に手間がかかります。
36協定に関しては、労使協定という意味合いで書面は必要です。しかし、労働基準監督署に電子申請を行うにあたっては、内容をe-Gov画面に入力して申請するのみとなります(原本のスキャンデータは不要)。これにより、労働組合がある場合の本社一括届においては、書面提出であれば全事業所数分の作成・提出が必要になりますが、電子申請であれば社内保管用として1部作成するのみでよいということになります。
■就業規則届・36協定届の電子申請の今後の改善事項
①手続き完了後の電子公文書
電子申請を行うと、社会保険等の手続きでは、完了後に電子公文書が発行されます。しかし、就業規則届等では、電子公文書等の戻り書類がありません。単に電子申請が完了したというe-Gov上の履歴が残るのみとなります。
書面であれば労働基準監督署の受付印が押印されますが、電子申請の場合にはこれに代わるものがないということになります。
もちろん、電子申請が適切に完了していれば、手続きとして何ら問題はないのですが、目で見て分かりやすい「労働基準監督署の受付印」がないというのは若干不安に感じる事業主もいるかもしれません。
この点については、各所からの要望もあり、平成30年度にe-Govのシステム改修を行うとの情報もあります。今後は電子公文書の発行がなされるように変更されると思われます。
②36協定の本社一括届出(労働組合がない場合)
36協定における本社一括届出は、労働組合がある場合のみ認められていましたが、労働組合がない場合にも本社一括を可能とする計画があります(※)。平成30年3月に通達を出すという情報がありましたが、現時点ではまだ対応されていません。今後の改正に注目していきたいところです。
今回は就業規則や36協定を取り上げましたが、電子申請の利用率向上に向けた施策は今後も次々に実行されていく見込みです。働き方改革には生産性向上が不可欠です。身近な人事労務部門の生産性向上として電子申請の活用は、今後のキーワードの一つになるでしょう。是非ご参考にしていただければと思います。
(※)「社会保険・労働保険手続等の電子申請の利用促進に関する取組について」厚生労働省 2017年10月31日
-
第33回36協定届、就業規則届の手続き簡素化に向けた取り組み
-
第32回令和4年 育児休業の改正、システムへの影響は?
-
第31回社会保険手続きの押印廃止のまとめ
-
第30回e-Govがリニューアル、企業は積極的に活用できるか?
-
第29回健康保険組合への電子申請、義務化対象企業は早めに確認を
-
第28回子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得、システム対応の考慮点は?
-
第27回「GビズID」による電子申請、離職証明書のExcel提出が可能に
-
第26回2020年4月から始まる「GビズID」による社会保険電子申請とは
-
第25回電子申請の義務化、離職証明書は紙提出でもよい?
-
第24回就労証明書、まだ手書きで作成していますか?
-
第23回労働条件通知書・雇用契約書の電子化を企業はどう活用するか
-
第22回電子申請で提出すると離職票などの書類はどのように戻る?
-
第21回電子申請の義務化に向け、そろそろ検討を始めましょう
-
第20回社会保険手続における従業員の押印省略について
-
第19回電子申請が義務化? 企業はどのような準備が必要か
-
第18回【就業規則届・36協定届の電子申請のススメ】
-
第17回36協定の上限規制と勤務管理のポイント
-
第16回社会保険の適用拡大、ケース別のメリットとデメリット
-
第15回海外赴任者の社会保険
-
第14回また変わります!雇用保険のマイナンバーの取り扱い
-
第13回雇用保険のマイナンバー取り扱いについての留意点
-
第12回マイナンバー対策にもなる、電子申請(e-Gov)の活用
-
第11回年末調整におけるマイナンバー対応について
-
第10回マイナンバーの本人確認 現実的な運用とは
-
第09回有期労働者の無期転換ルールに特例ができました
-
第08回業務システムのマイナンバー対応チェックポイント
-
第07回正しくできていますか?外国人労働者の管理
-
第06回電子申請の本格普及か? e-Govが便利になるAPI仕様公開について
-
第05回氏名等の外字における行政の取り扱いについて
-
第04回1年半後に迫るマイナンバーの影響と対応(その2)
-
第03回1年半後に迫るマイナンバーの影響と対応(その1)
-
第02回社会保険の電子申請、なぜこんなに利用率が低いのか
-
第01回派遣社員はどんどん活用すべき!?