「GビズID」による電子申請、離職証明書のExcel提出が可能に
目次
2020年4月から社会保険の手続きに関して、「GビズID」認証による手続きが開始されました。これまでのe-Govによる電子申請とは異なる電子申請方式であり、日本年金機構からダウンロードできる届書作成プログラムを利用して、GビズID認証により申請が可能となります。
届書作成プログラムによる申請は、CSVデータによる連記式(一度の申請で複数名の申請を行う手続き方法)の申請です。そのため、2020年4月時点でGビズID方式に対応する手続き種類は、CSVデータに対応した以下の申請に限られています。
【社会保険】
資格取得届、資格喪失届、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届、被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者関係届
【雇用保険】
資格取得届、資格喪失届、転勤届、個人番号登録届
CSVデータによる連記式の欠点と今回の改善点
CSVデータによる連記式は便利な反面、大きな欠点がありました。それは、雇用保険の資格喪失届において、離職票ありの場合に対応できないという点です。離職票なしであればCSVデータの連記式による申請が可能ですが、離職票ありの場合には(e-Govを使えないのであれば)書面による申請を余儀なくされます。
離職証明書は記載する項目が多く、一人1行のCSVデータで表現するには、おそらく対応が難しかったことが理由だと想像します。しかし、多くの場合、離職票を希望されるため、実務面においては大きなデメリットです。
これに関して厚労省は、2020年4月1日のGビズID方式開始のタイミングで、離職票ありの場合にもCSVデータ方式を可能とし、離職証明書については、所定のExcelを添付することで電子申請が可能となるように対応しました。
実は少し前からこのような対応を行う情報は社労士会を通じて耳にしていましたが、正式に対応が公表された形です。電子申請率を上げるためという理由もあるのでしょうが、実務面を考慮した画期的な対応だと思います。
Excel添付による離職票の届出とは
所定のExcel様式が日本年金機構のホームページからダウンロード(下図)できますので、それに書面申請と同じように必要事項を入力し、ファイル名を「離職証明書_離職者氏名.xlsx」として一人1ファイルとして作成します。これをCSVデータと共に添付する形で送信します。届書作成プログラムの申請機能で添付可能なファイル数は10ファイルが上限のため、それを超える場合は、別申請として分けて届け出る必要があります。
厚労省所定の離職証明書Excel様式
(出典)日本年金機構ホームページ
https://www.nenkin.go.jp/denshibenri/program/download.html
離職票の手続きは、社会保険関係の手続きの中でも頻繁に発生し、かつ非常に手間のかかる書類です。e-Govの直接入力方式による申請においては当然対応しているものの、入力画面が細かく、実用面において効率的な活用が難しいものでした。これがExcel様式に対応するというのは、使いようによっては有効な手段となりそうです。
しかし、注意が必要なのは、このExcel様式は「届書作成プログラム」の電子申請機能を用いる場合にのみ利用できるという点です。書面による申請やe-Govを利用した申請においては、このExcel様式は利用できません。また、CD-Rなどの電子媒体にCSVデータを記録して郵送や持ち込みをする方法でも利用できません。
なお、今回のExcel様式による取り扱いは2020年4月から2021年3月までの暫定的な取扱いとなります。2021年4月以降は、CSV 形式届書ファイルに離職証明書の各項目を対応させた「雇用保険被保険者資格喪失届(連記式)離職票交付あり(仮称)」の新手続を開始し、申請機能を含む届書作成プログラム、仕様チェックプログラムに対応させる予定とのことですので、それ以降はそちらを利用することが既に案内されています。
CSVを作成する人事給与システムへの影響は?
CSVデータの仕様は従来から変わりませんので、人事給与システムが従来から対応している場合は、特にこのためのバージョンアップや改修は必要なく、そのまま利用できます。
データ項目には、「離職票交付希望の有無」がありますが、離職票交付希望ありの場合もなしの場合も一律に「無」と指定することとし、Excel添付があれば、ハローワーク側で「有」に修正する取扱いとなります。従って、人事給与システムからのデータ出力においては、全件「無」と指定することで、従来どおりのデータにて対応が可能ということになります。
まとめ
今回は暫定的な対応ということではありますが、電子申請義務化の対象となる企業においては、離職票も電子申請とする必要があるため、GビズID方式で離職票にExcelが利用できるようになるのは、対応方法の選択肢が広がることになり、良いニュースでしょう。
現在、e-Govは2020年9月末に向けたシステム更改を進めています。まだ詳細は公表されていませんが、e-GovにおいてもGビズIDによるログインを可能とすることがアナウンスされています。電子申請の義務化というと、一見、企業に負担がかかる変更が求められているように感じる企業も多いかもしれませんが、行政としてもそれに伴う各種の整備を進めています。新しい手続き方式を上手く活用し、企業における社会保険業務の効率化に取り組んでいくべきでしょう。
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