電子申請の本格普及か? e-Govが便利になるAPI仕様公開について
半年ほど前に、社会保険関係における電子申請の普及率が悪いというコラムを書きました。しかし、これからは本格的な普及になるかもしれません。
総務省が運営している電子申請システム(e-Gov)が外部連携APIの公開を行いました。2015年4月から運用が開始されることになります。今回は、これにより民間企業にどのような影響をもたらすのか、解説してみようと思います。
政府が運営している電子申請システム(e-Gov)は、専用のWebサイトにアクセスして手続きを行います。手続きの方法は「通常申請」と「一括申請」の二通りの方法があります。
「通常申請」とはWebブラウザの画面から申請書類を一項目ずつ手入力し、添付書類を一つずつアップロードするという方法です。
特別なソフトは不要というメリットはありますが、単票形式での入力作業のため手間のかかる申請方法です。
一方で「一括申請」とは、申請に必要なデータや添付ファイル、署名ファイルをひとつの圧縮ファイル(ZIP)にまとめて、それをe-Govにアップロードするだけで申請ができるものです。複数種類の申請や複数人の申請も一つの圧縮ファイルにまとめることが可能です。このZIPファイルを作るための仕様は政府が公開しており、民間のシステム会社がその仕様に沿ったデータを作成するためのソフトウェアを開発しています。
「通常申請」は手間がかかるため、大企業などでの大量手続きは現実的ではありません。また、「一括申請」は専用のソフトウェアが必要です。社労士向けのソフトには一括申請機能がありますが、一般企業が利用しているような給与計算ソフトにはそのような機能は通常存在せず、それが一般利用者の普及率向上の妨げになっていると考えられます。
さて、前述した「通常申請」と「一括申請」ですが、いずれもe-GovのWEBサイトにアクセスして申請処理を実行する必要があります。そして、手続きの進捗状況確認や電子公文書の取得などについてもe-Govのサイトから行います。私もe-Govを日々利用していますが、これがなかなか使い勝手が悪く、なんとか改善しないものかと以前から感じていました。
今回、この点に対して大きな改革がおこなわれることになりました。
総務省は外部連携APIを整備し、その仕様を公開することにしたのです(既に2014年10月27日に仕様が公開され、11月にはソフトウェア企業向けの説明会も予定されています)。
これにより電子申請の利用環境が大きく変わることが想定されます。
では、今回提供されることになった「外部連携API」とは、そもそも何でしょうか?
外部連携API とはe-GovのWEBサイトで行っていた各種の処理(申請、進捗状況確認、取下げ、公文書取得、等)が、そこを介さず、外部のソフトウェアから直接処理できるようにするためのプログラムの入り口といったものです。
(APIとはApplication Programming Interfaceのこと)
従って、このAPIに民間のソフトウェアが対応すれば、e-GovのWEBサイトを使わずとも、基本的な電子申請機能が一つのソフトウェアの中で完結できることになります。いわば、第三の申請方法ということです。社会保険の手続きに適した入力画面や管理画面を専用のソフトウェアで実現することができるため、社労士のみならず、大量処理を行う大企業などでも活用の可能性が広がることでしょう。
外部連携APIは2015年4月から開始予定です。そのタイミングに合わせて、民間のソフトウェアも対応を行ってくることと思います。
現在、電子申請に対応しているのは社労士向けのソフトウェアがほとんどですが、このAPIを活用することでソフトウェアの中だけで電子申請が完結できるのであれば、一般的な給与計算ソフトの中にも対応するものが出てくると思われます。
そうなれば、一般企業にとっては社会保険関係の電子申請はより一般的なものとなるでしょう。
実際に総務省はこの外部連携API公開について、企業からの利用促進を目標に掲げています。企業とe-Gov電子申請システムの間をつなぐソフトウェアなどの開発・提供を促すことができれば、確実に利用率は上がっていくと思います。将来的には、電子申請に対応できるかどうかが、給与システム導入時のポイントの一つになってくるかもしれませんね。
私自身、IT社労士として企業の効率化をシステム環境で実現できることは、正直わくわくするところです。
今後、民間のソフトウェア会社が電子申請にどのように対応してくるか、注目したいところです。
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