海外赴任者の社会保険
「仕事で海外に赴任することになったら、社会保険はどうなるのか?」
従業員を海外に赴任させる会社にとってみれば、ただでさえ生活環境面などで負担が重くなるわけですから、社会保険についてはご家族を含めて不利益が無いように対応してあげたいところです。
所得税については主に、非居住者となるかどうか、所得源泉地がどこかによって源泉徴収が必要かどうか決まりますが、社会保険に関しては非居住者といった概念はありません。
社会保険で求められるのは、国内の企業との雇用関係が継続しているかどうかといった点です。それぞれの保険制度毎に説明しましょう。
1.健康保険・厚生年金保険
海外赴任後も継続して加入できるかどうかは下記の2点です。
・出向元である国内企業と雇用関係が継続しているか
・国内企業から全部または一部の給与が支払われているか
通常は在籍出向(出向元である国内企業との雇用継続を残したままの出向)の形態が多いと思われますので雇用関係は継続することになるでしょう。注意すべきは給与の支払です。いくら雇用関係があったとしても、給与の全部(あるいは殆ど)を赴任先の企業が支払っている場合は実質的な雇用関係が無いと考えられ、加入はできなくなります。赴任先の現地通貨で支払われていても構いません。国内企業の給与規定に基づき支給されているものかどうかが重要になります。
2.介護保険
介護保険の被保険者は、原則として市区町村に居住する(国内に住所を保有する)、40歳以上の方が対象となります。
海外に赴任した場合、市区町村に居住しなくなるため、介護保険料を支払う必要はなくなります。但し、下記の手続きが必要となります。
①住民票を除票する
②「介護保険適用除外該当届」を提出する
なお、国内に被扶養者が残る場合で、その方が40歳以上65歳未満の場合、介護保険料の徴収が必要となるケースもあります。加入する健康保険の保険者に確認が必要です。
介護保険は健康保険とは違い、保険料の支払が不要になっても、何かあった時の介護サービス等が不利になることはありません。
3.雇用保険
国内企業との雇用関係があれば被保険者資格は継続できます。健康保険・厚生年金保険と違って、国内企業からの給与支払があるかどうかは問いません。特に手続きも不要です。
国内企業からの給与が仮にゼロであった場合、「賃金」はゼロということになるため、雇用保険料は発生しません。では、そのまま退職したら失業等給付の元になる賃金はどのように計算されるのか?これについては、受給要件の緩和措置があります。賃金の支払いを受けることができなかった日数を原則算定対象期間に加算した期間(最大限4年間)について被保険者期間を計算してくれる措置です。
4.労災保険
労災保険は、原則として、日本国内の事業所で働く労働者が対象のため、海外赴任者については適用除外となります。しかし、これについては「特別加入制度」が用意されています。業種に関係なく保険料率は一定で、加入する方の給与額に応じて保険料が決まります。個別に加入の手続きが必要となりますので、忘れないようにご注意下さい。
また、年度更新時には「海外派遣(第3種)特別加入者」としての申告となります。
各制度の加入要件を踏まえると下記のような形態となります。
・在籍出向として国内企業との雇用関係を継続する
・国内企業から全部または一部の給与を支払う(※)
・出国時に住民票は除票する
従業員が社会保険で不利益を受けないようにするためにも、各保険制度にきちんと加入(介護保険は適用除外)できるような制度・運用が必要だと考えます。
(※)負担内容によっては法人税法上、寄付金とみなされ損金算入が否認されるケースがあるため、その点も踏まえた検討が必要です。
-
第33回36協定届、就業規則届の手続き簡素化に向けた取り組み
-
第32回令和4年 育児休業の改正、システムへの影響は?
-
第31回社会保険手続きの押印廃止のまとめ
-
第30回e-Govがリニューアル、企業は積極的に活用できるか?
-
第29回健康保険組合への電子申請、義務化対象企業は早めに確認を
-
第28回子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得、システム対応の考慮点は?
-
第27回「GビズID」による電子申請、離職証明書のExcel提出が可能に
-
第26回2020年4月から始まる「GビズID」による社会保険電子申請とは
-
第25回電子申請の義務化、離職証明書は紙提出でもよい?
-
第24回就労証明書、まだ手書きで作成していますか?
-
第23回労働条件通知書・雇用契約書の電子化を企業はどう活用するか
-
第22回電子申請で提出すると離職票などの書類はどのように戻る?
-
第21回電子申請の義務化に向け、そろそろ検討を始めましょう
-
第20回社会保険手続における従業員の押印省略について
-
第19回電子申請が義務化? 企業はどのような準備が必要か
-
第18回【就業規則届・36協定届の電子申請のススメ】
-
第17回36協定の上限規制と勤務管理のポイント
-
第16回社会保険の適用拡大、ケース別のメリットとデメリット
-
第15回海外赴任者の社会保険
-
第14回また変わります!雇用保険のマイナンバーの取り扱い
-
第13回雇用保険のマイナンバー取り扱いについての留意点
-
第12回マイナンバー対策にもなる、電子申請(e-Gov)の活用
-
第11回年末調整におけるマイナンバー対応について
-
第10回マイナンバーの本人確認 現実的な運用とは
-
第09回有期労働者の無期転換ルールに特例ができました
-
第08回業務システムのマイナンバー対応チェックポイント
-
第07回正しくできていますか?外国人労働者の管理
-
第06回電子申請の本格普及か? e-Govが便利になるAPI仕様公開について
-
第05回氏名等の外字における行政の取り扱いについて
-
第04回1年半後に迫るマイナンバーの影響と対応(その2)
-
第03回1年半後に迫るマイナンバーの影響と対応(その1)
-
第02回社会保険の電子申請、なぜこんなに利用率が低いのか
-
第01回派遣社員はどんどん活用すべき!?