36協定の上限規制と勤務管理のポイント
政府は「働き方改革」の目玉のひとつとして、残業時間の上限規制の導入を検討しています。まだ上限が何時間になるかなどの詳細は明らかになっていませんが、長時間労働の抑制に向けて本格的な検討が進められていくものと思います。
労働基準法では残業時間・休日労働に関する協定書(いわゆる36協定)を労使で締結することで、従業員に残業をさせることが可能になります。現在においても「月45時間」などの上限は設定されていますが、労使合意のもと特別条項を付けることで、特別な事情があればそれを超えて残業させることが可能となり、実質的に青天井というのが現状なのです。
先日も大手企業が100時間を超えるような協定になっていると話題になっていました。業種によっては納期逼迫やクレーム対応など様々な事情を考慮して、そのような時間を設定している企業も多いかと思います。
では、会社としては、リスクヘッジとして通常想定されるものよりも長時間の残業ができるようにした36協定を締結しておくべきなのでしょうか?
もちろんそのようなことはすべきではありません。過労死など健康面での問題があるからです。厚労省は過労死リスクのある残業時間のラインをおよそ80時間と想定しています。そして長時間残業抑制のため80時間を超える残業を行っていると疑われる事業場には、労働基準監督所が全事業場に対して立ち入り調査を行うという指針があります。実はこの立ち入り調査の基準時間は昨年度までは100時間でした。今年度に入ってから80時間に変更し、厳格化したという経緯があります。これにより想定される事業場はなんと年間2万事業所と推定されています。従業員の健康面や行政指導の状況を考えても、なるべく残業時間を抑制し、36協定もそれに見合ったものにすべきと言えます。
ところで、この80時間以上の残業が疑われる事業場かどうかは、何を元に把握しているかご存知でしょうか?
従業員からの通報なども含めて色々なきっかけがあるでしょうが、分かりやすい資料となるのは36協定です。特別条項付き36協定を締結しており、その上限時間が一定の時間を超えている場合などは、立ち入り調査等の候補としてピックアップされます。そうすると、実際の就労実績がどうなのかの自主点検表が労働局から送付され、会社は期日までに返信するということになります。その結果、実際に一定(例えば80時間超)の長時間残業があり、必要と認められる場合は監督署による立ち入り調査になるという流れです。(上記は一例です。労働局によって様々な判断基準があると思います)
ただ、36協定での判断に頼ると、36協定を正しく提出していない会社などはその調査対象から漏れることになります。「目を付けられないように36協定を正しく提出しない」なんてことが無いように、36協定提出の厳格化も合わせて実施すべきだと感じるところです。
前述の通り、既に長時間残業の抑制が求められる時代になってきています。では、企業はどのようにすればよいのでしょうか。36協定の上限時間を法律で規制されれば、守らざるを得なくなるのでしょうが、会社としては「じゃあどうやって?」ということを当然ながら考えなければなりません。
残業時間抑制のための施策はその企業により様々だとは思いますが、一つご提案するのは、人事労務部門が従業員全体の勤務状況を日々把握できる仕組みを構築することです。物理的に拠点が複数あり、従業員数が多い企業などはシステムを利用して実現すべきです。1ヵ月の勤怠を締めて初めて長時間対象者を把握するのではなく、日々の勤務の積み上げから、36協定を超える可能性のある従業員を自動的にアラート表示し、把握するのです。現場の管理者に任せるのは限界があります。システムを上手く利用し、人事総務部門がコントロールする仕組みを構築することがポイントだと考えます。
勤怠管理のソフトには前述のような機能が備わっていることが多いです。それをいかに自社に活用し運用できるかが重要です。
システム構築においては、導入する企業の側も、運用改革に対する高い意識が求められます。当たり前ですが、システムを稼動させることが目的ではありません。システムをツールとして上手に活用し、長時間残業対策に取り組んでいきましょう。
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