野田宏明
第21回  投稿:2018.09.20 / 最終更新:2018.09.25

電子申請の義務化に向け、そろそろ検討を始めましょう

平成32年4月から社会保険、雇用保険の一部手続きにおいて、大法人は電子申請が義務化されることになるのは以前のコラムでも解説したとおりです。
あと1年半になりましたので、そろそろ企業の社会保険担当の方は具体的な対策について検討を始めていることではないでしょうか。

もしかしたら、「電子申請の方法は具体的に分からないが、電子証明書を準備して、e-GovというWebサイトを使えばとりあえず出来るんでしょ?」とお考えの担当者がいるかもしれません。しかし、それは少し甘い考えです。
確かにe-GovのWebサイトから通常申請という形で電子申請が可能ではありますが、大量の手続きが発生する大企業においては、到底実運用に耐え得るものではありません。書面手続きよりも多くの工数が係ることになるでしょう。
e-Govからの通常申請は、中小企業であまり手続きが頻繁に発生しない場合においては、初期費用が最も抑えられることも考慮すると有効かもしれません。しかし、義務化対象になる大企業においては、別の方法が求められます。

大企業が検討すべき電子申請の方式は?

電子申請には、現在のところ以下の3つの方式が存在しています。
①通常申請(e-GovのWebサイトから届の内容を画面入力する方法)
②一括申請(対応した民間ソフトから申請データを作成し、それをe-Govサイトにアップロードして申請する方式)
③API申請(対応した民間ソフトからe-Gov画面を介さず直接申請する方式)

このうち②については、既に平成32年秋頃に廃止することになっており、新規のユーザ登録についても平成30年末をもって終了するため、特別な事情が無い限り検討からは一旦外しておくべきでしょう。
従って、③のAPI申請を実施するための環境をいかに準備するかということになります。

API申請環境はどのように準備するのか?

まず確認・検討すべきは、どのソフトを利用してAPI申請環境を準備するかです。現在利用している人事給与ソフトがAPI申請に対応する予定があるかどうか、および対応時期について確認が必要です。ソフトや利用方法によっては、メーカーから新バージョンがリリースされても、その他の機能面への影響等により、すぐにバージョンアップできないケースもよくあります。
利用している人事給与ソフトでは対応できない(または機能的に不十分である)場合は、社会保険のAPI申請に対応した専用ソフトの利用が考えられます。もともと社会保険労務士向けに開発したものも多く、多機能な点は大きなメリットです。考慮点は人事給与ソフトとのデータ連携でしょう。
上記のいずれで対応するかによって準備期間も異なりますが、業務フローの再検討なども考慮し、1年程前から具体的な計画に入った方がよいと考えます。

(対応方法別のメリットと考慮事項)

方法 メリット 考慮しておく点
利用中の人事給与システムで対応 ・バージョンアップによる標準対応で特別な費用が発生しない(ソフトにより異なるケースもあり)
・同一システムのため手続きに必要な人事情報がそのまま利用できる
・API申請機能がどこまでの手続き種類に対応されるか?
・平成32年4月までにバージョンアップが可能か?
・電子申請による業務効率化が図れる機能設計になっているか?
電子申請の専用ソフトの導入で対応 ・API申請として多くの手続き種類に対応している
・社労士事務所向けの実績があるものなど、大量の手続きにおいても効率的な運用ができる機能設計
・別途発生するソフトの利用料は?
・既存の人事給与システムとのデータ連携が必要となるが、どのような手順となるのか?

※一般的な観点で記載しており、特定のソフトに対する記載ではありません

目的は業務の効率化とすべき

義務化になるため仕方なく電子申請に対応するのではなく、業務効率化の好機と捉え、人事労務部門の生産性向上に向けた業務改革を行うべきです。
そのためには、単なるツールの導入に留まらず、業務フローの再検討からきっちり計画することが肝要です。私は社労士法人として長く電子申請に携わっているからこそ言えますが、電子申請は上手く使えば非常に効率的な手法です。社労士の仕事が奪われるという論調も中にはありますが、電子化による定型業務の簡素化の流れは当然のものであり、これに限った話ではありません。企業として最適な手法は何なのか、そのためにはどのような準備が必要なのかを検討するべきでしょう。

今回の義務化対象の範囲に関わらず、業務効率化のための大きな視点での検討をお勧めします。

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