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第34回 16年02月更新

在宅勤務制度と事業場外労働の規程例

職業柄、さまざまな業種の経営者の方とお話しをさせていただく機会があります。
相談の内容は多岐にわたりますが、人に関する内容であれば、最近では「せっかく仕事ができて優秀な社員なのに育児や介護を理由に退職してしまう」などといった相談が多くなってきました。

このような悩みは、日本の企業全体が抱えている問題といっても言い過ぎではありません。優秀な社員が退職してしまうと、求人や採用後の教育に時間とコストがかかってしまいます。退職の理由が、会社としてどうすることもできない理由(夫の転勤等)であれば、割り切って新規の採用に注力していくこともできます。しかし、退職理由が育児や介護であるならば、話はまた違います。
退職後に会社が受けるさまざまなロスを考えると、育児や介護等と仕事が両立できる制度を整え、このような理由で退職する従業員をできるだけ減らす方が合理的です。

多様な働き方や、女性をもっと職場の中で活躍してもらう制度を導入しようという動きが今後さらに活発になっていくことは、世の中の流れをみても明らかです。
今回は、育児や介護と仕事が両立できる方法のひとつである「在宅勤務」について考えていきます。

<在宅勤務制度の労働時間>

これまでは「育児」や「介護」は、会社としてどうすることもできない退職理由のひとつでした。しかし、現代では、インターネット環境の普及によって多様な働き方が可能になりました。
「在宅勤務」制度は育児や介護をする方との相性は抜群です。ただし、労働時間の管理方法や他の従業員や上司とのコミュニケーションの取り方をしっかりと考えて、制度の導入とマネジメントを行っていく必要があります。

労働時間の具体的な管理方法ですが、労働基準法上、使用者は労働時間を適正に把握する義務があります。この「適正な把握」は、労働日ごとに、始業時間と終業時間を使用者が確認・記録をし、実際に何時間働いたかを確定することを指します。
在宅勤務制度では、会社にあるタイムカードを打刻することは不可能です。在宅勤務制度における労働時間の現実的な把握の方法には、次の2パターンが考えられます。

1)上司に、始業と終業時にメールを出してその日のスケジュールや実績を把握する。
2)事業場外労働に関するみなし労働時間制を導入する。

この「事業場外労働に関するみなし労働時間制」とは、労働時間を正確に把握することができない場合に、就業規則に定めるか、労使協定を結ぶことによって労働時間を決める制度です。

一般的には、営業職等の外勤の方に適用する制度ですが、在宅勤務であっても次の3つの条件を満たしていれば適用することができます。(京労発基第35号 平成16年2月5日)

1)当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
2)当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
3)当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

事業場外労働に関するみなし労働時間制を取り入れると、実際の作業時間にかかわらず、就業規則や労使協定で定めた時間を働いたものとしてみなす制度です。そのため、業務内容を把握して、作業の難易度や量をしっかりと検討しないと、実態と大きくかけ離れてしまう可能性があります。
在宅勤務に事業場外労働に関するみなし制度を導入する際は、みなし労働時間の設定が最も注意すべきポイントです。

<在宅勤務制度のリスク>

在宅勤務制度を導入する上で会社が注意をしなければならない点は、情報セキュリティの部分です。情報漏えいのリスクを全くの0%にすることは不可能ですし、会社で作業するよりはリスクが高いのは間違いないでしょう。

在宅勤務制度における情報セキュリティを高めるためには、ウィルスソフトの導入や業務専用のパソコンを貸与するなど、ハード面の対策はもちろんです。また、会社と同じ環境で業務を行うことができるクラウド等を準備することも考えられます。
しかし、いくら体制を万全に整えたとしても、万が一のリスクは残ります。在宅勤務制度では、在宅で行う業務を限定しておいた方が良いでしょう。
たとえば、人事に関連する業務や、今年から制度がスタートしたマイナンバーを取り扱う業務等は、在宅勤務で行うことは避けるべきです。

ただし、情報漏えいに関してあまりにもナーバスになりすぎてしまうと、在宅勤務をすることができる労働者がいなくなってしまう可能性もあります。在宅で可能な業務の切り分けを、しっかりと行っていく必要があります。

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事業場外労働に関するみなし労働時間制を導入する際の就業規則のサンプル条文です。みなし時間が法定労働時間(8時間)を超えないのであれば、労働基準監督署へ労使協定の提出をする必要はありません。

(事業場外勤務)
第○条
1.労働時間の規定にかかわらず、外勤、出張その他会社外で就業し、労働時間の算定が困難な場合は、所定労働時間労働したものとみ
なす。

2.前項の規定にかかわらず、労働時間の算定が困難な場合で会社と従業員代表者の間で協定が結ばれた場合には、協定で結ばれた時間
を労働したものとみなす。

著者プロフィール(川島孝一氏)

(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
1966年、東京都大田区生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事 ・管理業務に従事後、現職。クライアント先の人事制度、賃金制度、退職金制度 をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを担当し、複数社の社外人事 部長・労務顧問を兼任する。経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。

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