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第85回 20年05月更新

パワハラ防止法~その7

ここ数回にわたって、厚生労働省が作成する「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」のパワーハラスメント対策の具体的な対策手順(下の①から⑦)を順番に説明してきています。
前回のコラムでは、『⑥ 相談や解決の場を設置する』の内容を紹介しましたが、文字数の都合で途中までにとどめました。今回はその続きを説明したいと思います。

① トップのメッセージ
組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場から無くすべきであるということを明確に示す

② ルールを決める
就業規則に規定を定める、労使協定を締結する
予防・解決についての方針やガイドラインを作成する

③ 実態を把握する
従業員アンケートを実施する

④ 教育する
研修を実施する

⑤ 周知する
組織の方針や取組について周知・啓発を実施する

⑥ 相談や解決の場を設置する
企業内外に相談窓口を設置する。職場の対応責任者を決める
外部専門家と連携する

⑦ 再発防止のための取組
行為者に対する再発防止研修等を行う

この中の『⑥ 相談や解決の場を設置する』は、次の5段階で行います。

1)相談窓口での対応
2)事実関係の確認
3)行為者・相談者へのとるべき措置を検討
4)行為者・相談者へのフォロー
5)再発防止策の検討

前回は、「2)の事実関係の確認」まで解説をしました。今回は「3)行為者・相談者へのとるべき措置を検討」と、それに付随する就業規則の規定方法について説明をしていきたいと思います。

行為者・相談者へのとるべき措置を検討

相談者と行為者の双方から事実確認を行った後は、会社としての対応を検討する段階になります。
検討する際は、パワーハラスメントの定義、行動類型等と照らし合わせて多角的に行っていく必要があります。具体的に検討すべき事項は、以下のような点があげられます。

・相談者の被害の状況(身体的、精神的な被害の度合い)
・相談者、行為者、第三者への事実確認の結果
・相談者と行為者の人間関係
・当該行為の目的や動機
・当該行為が行われた時間や場所
・当該行為の程度(質)や頻度(量)
・相談者及び行為者のそれぞれの行動や発言に問題があったと考えられる点
・パワーハラスメントについての就業規則の規定内容
・パワーハラスメントについての裁判例

パワーハラスメントについての就業規則の規定内容や裁判例については、弁護士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。ここでの対応を誤ると、話がこじれる可能性があります。

事実確認と行為類型に照らし合わせた結果については、3つのパターンに分けることができます。

①パワーハラスメントがあったと判断することができる。
②パワーハラスメントがあったと判断することはできないが、何らかの対応をしなければ事態が悪化すると考えられる。
③パワーハラスメントの事実が確認できない。

残念ながら、パワーハラスメントがあったと判断できる場合については、行為者から相談者への謝罪、人事異動、懲戒処分等を行うことになります。
就業規則上の懲戒処分の種類には、一般的には、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。これらの懲戒処分を行うためには就業規則上に根拠が必要になります。

就業規則の記載方法

就業規則には、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」の2種類があります。絶対的必要記載事項とは、就業規則には必ず記載しなければならない事項ということです。相対的必要記載事項とは、定めるか否かは自由ですが、定めた場合には必ず記載しなければならない事項ということになります。
それぞれの内容については、以下を参照ください。

絶対的必要記載事項
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて交替で就業させる場合においては就業時転換に関する事項(育児・介護休業法に基づく育児休業、介護休業等も含まれます。)
②賃金(臨時の賃金等は除きます。)の決定、計算及び支払の方法、締切り及び支払時期、昇給に関する事項
③退職(解雇の事由を含みます。)に関する事項

相対的必要記載事項
①退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項
②臨時の賃金等(退職手当を除きます。)及び最低賃金額の定めをする場合には、これに関する事項
③労働者に食費、作業用品、その他の負担をさせる定めをする場合には、これに関する事項
④安全及び衛生に関する定めをする場合には、これに関する事項
⑤職業訓練に関する定めをする場合には、これに関する事項
⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合には、これに関する事項
⑦表彰及び制裁の定めをする場合には、その種類及び程度に関する事項
⑧以上のほか、当該事業場の労働者のすべてに適用をされる定めをする場合には、これに関する事項

懲戒処分は、相対的必要記載事項の⑦に該当します。そのため、就業規則に記載するかどうかは、法的には会社の自由ということになります。しかし、就業規則に記載がなければ「懲戒処分の定めそのものがない」ことになってしまい、処分できなくなることも考えられます。
「懲戒処分を行う際に就業規則を確認してみたら制裁に関する記載がなかった」というケースもありますので、事前にチェックをしておいた方がよいでしょう。
また、懲戒処分の記載があったとしても、パワーハラスメントが紐づいていない場合は、同様に処分が難しくなります。以下の就業規則例を参考に、パワハラに関する条文が盛り込まれているかもあわせて確認をしてみてください。

(パワーハラスメントの防止)
第〇条
1.職場または業務に関連する場所において、組織の規範や慣習、また職権を使って、いやがらせや強制(パワーハラスメント)に当たる行為をしてはならない。
2.パワーハラスメントを受けた場合は、社内に設置された相談窓口に相談すること。
3.パワーハラスメントに当たる行為を行った従業員は第〇条に定める懲戒処分の対象とする。

パワハラの事実が断定できない場合

「パワーハラスメントがあったと判断することはできないが、何らかの対応をしなければ事態が悪化すると考えられる場合」や「パワーハラスメントの事実が確認できない場合」であっても、そのまま何もしないことは避けなければなりません。
特に「パワーハラスメントがあったと判断することはできないが、何らかの対応をしなければ事態が悪化すると考えられる場合」は、行為者の行動や発言にどのような問題があったのか、どうするべきであったのかを明確にする必要があります。行動や発言にどのような問題があったのか具体的に明確にし、行為者に改善を促すことで、事態の悪化を防がなければなりません。
また、「パワーハラスメントの事実が確認できない場合」であっても、相談があった事実は変わりません。相談者の誤解に基づくものなのか、あるいは行為者に誤解されるような言動があったのかを慎重に検討し、「4)行為者・相談者へのフォロー」へとつなげていく必要があります。

 

今回は、行為者や相談者に対してとるべき措置の続きを紹介しました。パワハラは、判断や措置を誤ると、訴訟等の大きな問題に発展してしまうリスクがひそんでいます。
判断に迷うことがあれば、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談するようにしましょう。

著者プロフィール(川島孝一氏)

(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
1966年、東京都大田区生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事 ・管理業務に従事後、現職。クライアント先の人事制度、賃金制度、退職金制度 をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを担当し、複数社の社外人事 部長・労務顧問を兼任する。経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。

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