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第88回 20年09月更新

コロナ感染と通勤災害

新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言は解除されましたが、まだまだ予断を許さない状況が続いています。しばらくは、感染リスクを可能な限り低くする対策を行い、ウイルスと共存することを考えていかなければなりません。
最近、よく質問を受けるのは、「仕事中や通勤中に新型コロナウイルスに感染してしまったら、労働災害や通勤災害として認定されるのか?」というものです。前回は、仕事中に新型コロナウイルスに感染した場合の労災認定について紹介をしたので、今回は通勤中に新型コロナウイルスに感染してしまった場合の考え方を説明していきます。

通勤災害とは

通勤災害とは、労働者が「通勤により被った怪我、病気、障害または死亡」を指します。通勤災害として認められるには、就業の場所と住居間を合理的な経路かつ方法で行っていることが必要になります。
就業の場所と住居間の移動は、次の3つのパターンがあります。

①住居と就業の場所との間の往復
もっとも一般的な通勤形態です。住居については、複数の住居がある場合でもそれぞれが住居と認められ、どちらの住居からであっても通勤になります。

②就業の場所から他の就業の場所への移動
アルバイト等で複数の仕事を掛け持ちしているケースでは、ひとつ目の仕事が終了し、次の仕事を行うために向かう移動も通勤として認められます。もし、通勤災害が発生してしまった場合の手続きは、移動先である事業所が行います。

③住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動
単身赴任のように、転勤先が遠方であるために自宅と新しい就業の場所(赴任先)との間を毎日往復することが困難なケースがあります。この場合は、次のいずれかの家族と別居しているのであらば、労働者の自宅と赴任先住居間の移動も通勤として認められることになります。

(1)配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)
(2)配偶者がない労働者の子
(3)配偶者および子がない労働者の父母または親族(要介護状態でかつ、当該労働者が介護していた父母または親族に限る)

合理的な経路及び方法とは?

次に、合理的な経路及び方法について解説していきたいと思います。合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
たとえば、保育園の送り迎えのために保育園を経由するルートは、基本的には通勤経路と認められます。もちろん、保育園を経由しないルートも通勤経路なので、往復で違うルートであったとしてもすべて通勤経路となります。
また、当日の交通事情により迂回する場合など、通勤のためにやむを得ずその日だけとった経路も合理的な経路となります。しかし、合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、通勤経路とはなりません。

次に、合理的な方法についてですが、運転免許を一度も取得したことの無い人が車を運転したり、泥酔して車や自転車を運転した場合は合理的な方法とは認められません。このような特殊なケースを除き、常識の範囲内であれば合理的な方法として認められます。

逸脱と中断

合理的な経路や方法で通勤をしていたとしても、逸脱や中断中の怪我や病気については通勤災害として認められません。
逸脱・中断とは、通勤の途中で就業や通勤と関係ない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係ない行為を行うことをいいます。しかし、通勤の途中で経路近くの公衆トイレを使用する場合や経路上の店でタバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。
逸脱や中断後に通常の通勤経路に戻ったとしても、その後は原則として通勤とはなりません。ただし、次に該当する場合は例外が設けられており、当初の経路に戻った後は再び通勤となります。

①日用品の購入その他これに準ずる行為
②職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③選挙権の行使その他これに準ずる行為
④病院又は診療所において診察や治療を受けることその他これに準ずる行為

ちなみに先ほどの保育園への送り迎えの場合は、保育園の敷地内は逸脱、中断ですが、敷地を出た後は再び通勤しているものと判断されます。

新型コロナウイルスと通勤災害

通勤中に怪我をしてしまった場合、就業の場所と住居間を合理的な経路及び方法で通勤をしていたかどうかを確認すれば通勤災害に該当するかどうかは判断できます。一方で、新型コロナウイルスの場合、通勤中に感染したのかどうかを判断することが極めて困難です。
そこで、厚生労働省は、感染が通勤災害に該当するかどうかの判断基準を公表しています。

①業務または通勤における感染機会や感染経路が明確に特定されている
②感染から発症までの潜伏期間や症状などに医学的な矛盾がない
③業務以外の感染源や感染機会が認められない

①の基準は、現実的には証明することが難しいと思われる方が多いと思います。満員電車の中で、感染機会や感染経路を明確に特定することはほぼ不可能です。ただ、感染機会や感染経路を100%証明できないからといって諦めてしまう必要はありません。通勤中の感染の確率が高いと考えるのであれば、通勤災害の申請をして労働基準監督署の判断を待つ方が良いでしょう。

申請を行う場合は、時間、経路、交通手段等の説明をしっかりとする必要がありますので、いざという時のために日々の行動を記録しておくようにしましょう。

著者プロフィール(川島孝一氏)

(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
1966年、東京都大田区生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事 ・管理業務に従事後、現職。クライアント先の人事制度、賃金制度、退職金制度 をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを担当し、複数社の社外人事 部長・労務顧問を兼任する。経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。

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