S-PAYCIALコラム
S-PAYCIAL-Column
著:川島孝一氏
第89回 20年09月更新
2020年も最低賃金の引き上げが行われる時期が来ました。雇用調整助成金や持続化給付金などの新型コロナウィルス関連の報道が多く、中央最低賃金審議会の「現行水準の維持が適当」との答申が出たことから、最低賃金の引き上げは行われないと考えている方が多いように感じます。
しかし、最低賃金額は厚労相の諮問機関である中央最低賃金審議会が決定するのでなく、この答申を受けて開催される都道府県ごとの最低賃金審議会が答申した金額により最終決定されます。
例年と違い、全都道府県で引き上げが行われるわけではないですが、ほとんどの都道府県では若干引き上げられます。都道府県別の表を最後に掲載していますので、確認をしてください。
今回は、最低賃金の基本的な考え方について見ていきたいと思います。
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が定めた「労働者に対して支払う賃金の最低限度の金額」のことをいいます。最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
地域別最低賃金は、産業や職種に関係なく都道府県内で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金です。一方で、特定(産業別)最低賃金は、「①特定地域内」の「②特定の産業」の「③基幹的労働者」に対して適用されます。
なお、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が同時に適用される場合には、高い方の金額が最低賃金になります。また、最低賃金が異なる地域をまたいで派遣される派遣社員の場合は、派遣先の事業所の最低賃金が適用されます。
毎年、最低賃金の見直しが秋(10月前後)に行われます。近年は、最低賃金の上昇率が大きいため、決定される金額が注目を浴びています。
最低賃金の引上げは、「働き方改革実行計画」において、「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1000円になることを目指す。」とされています。この「働き方改革実行計画」は新型コロナウイルスが発生する前の計画なので、来年以降も計画通りの上昇の可能性は低いと考えられます。
ただし、先日就任した菅首相も最低賃金の全国的な引き上げに前向きな姿勢をとっているので、引き上げのペースはさておき、今後も最低賃金の上昇が想定されます。
最低賃金の対象となる賃金は、実際に毎月支払われる賃金から次の6つを除いた金額が対象となります。
①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
②1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
④所定労働日以外の日に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤午後10時から午前5時までの間に対して支払われる割増賃金(深夜割増賃金など)
⑥精・皆勤手当、通勤手当、家族手当等
近年では、固定残業制度を導入している会社も増えています。固定残業制度を取り入れている会社の給与は、(1)基本時間部分と(2)固定残業部分に分けることができます。(2)の固定残業部分は、③の所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金に該当しますので最低賃金の計算には含まれません。
最低賃金の対象となるのは、「給与から固定残業部分を控除した金額=(1)の基本時間部分」です。総支給額が同じであれば、給与に含めている固定残業時間が増えれば増えるほど、最低賃金の計算上の時給単価は下がるということになります。
最低賃金は時間によって定められています。また、最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金から一部の賃金を控除したものが対象となることは先ほど説明したとおりです。
支払われる賃金が最低賃金以上となっているかどうかをチェックするには、最低賃金の対象となる賃金額と定められている最低賃金を比較します。支払っている賃金の形態(月給、時間給、日給等)により、チェック方法は変わります。
賃金体系 | チェック方法 |
① 時間給制 | 時間給≧最低賃金額 |
② 日給制 | 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額 |
③ 月給制 | 月給÷1カ月の所定労働時間≧最低賃金額 |
④ 出来高払い制その他の請負制によって定められた賃金 | 出来高払い制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払い制その他の請負制によって労働した総労働時間で除して時間当たりの金額に換算して最低賃金額と比較する。 |
2020年10月発効の都道府県別最低賃金は、以下のように決定しました。発効日と金額を確認してください。( )の部分は、これまでの最低賃金の金額となります。
なお、発効年月日が令和元年になっている都道府県は、今年の最低賃金の引き上げはありません。
都道府県名 | 最低賃金時間額【円】 | 発効年月日 | |
北海道 | 861 | (861) | 令和元年10月3日 |
青 森 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
岩 手 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
宮 城 | 825 | (824) | 令和2年10月1日 |
秋 田 | 792 | (790) | 令和2年10月1日 |
山 形 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
福 島 | 800 | (798) | 令和2年10月2日 |
茨 城 | 851 | (849) | 令和2年10月1日 |
栃 木 | 854 | (853) | 令和2年10月1日 |
群 馬 | 837 | (835) | 令和2年10月3日 |
埼 玉 | 928 | (926) | 令和2年10月1日 |
千 葉 | 925 | (923) | 令和2年10月1日 |
東 京 | 1,013 | (1,013) | 令和元年10月1日 |
神奈川 | 1,012 | (1,011) | 令和2年10月1日 |
新 潟 | 831 | (830) | 令和2年10月1日 |
富 山 | 849 | (848) | 令和2年10月1日 |
石 川 | 833 | (832) | 令和2年10月7日 |
福 井 | 830 | (829) | 令和2年10月2日 |
山 梨 | 838 | (837) | 令和2年10月9日 |
長 野 | 849 | (848) | 令和2年10月1日 |
岐 阜 | 852 | (851) | 令和2年10月1日 |
静 岡 | 885 | (885) | 令和元年10月4日 |
愛 知 | 927 | (926) | 令和2年10月1日 |
三 重 | 874 | (873) | 令和2年10月1日 |
滋 賀 | 868 | (866) | 令和2年10月1日 |
京 都 | 909 | (909) | 令和元年10月1日 |
大 阪 | 964 | (964) | 令和元年10月1日 |
兵 庫 | 900 | (899) | 令和2年10月1日 |
奈 良 | 838 | (837) | 令和2年10月1日 |
和歌山 | 831 | (830) | 令和2年10月1日 |
鳥 取 | 792 | (790) | 令和2年10月2日 |
島 根 | 792 | (790) | 令和2年10月1日 |
岡 山 | 834 | (833) | 令和2年10月3日 |
広 島 | 871 | (871) | 令和元年10月1日 |
山 口 | 829 | (829) | 令和元年10月5日 |
徳 島 | 796 | (793) | 令和2年10月4日 |
香 川 | 820 | (818) | 令和2年10月1日 |
愛 媛 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
高 知 | 792 | (790) | 令和2年10月3日 |
福 岡 | 842 | (841) | 令和2年10月1日 |
佐 賀 | 792 | (790) | 令和2年10月2日 |
長 崎 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
熊 本 | 793 | (790) | 令和2年10月1日 |
大 分 | 792 | (790) | 令和2年10月1日 |
宮 崎 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
鹿児島 | 793 | (790) | 令和2年10月3日 |
沖 縄 | 792 | (790) | 令和2年10月3日 |
今回の最低賃金の引き上げは、新型コロナウイルス対策の陰に隠れてしまってあまり報道されていません。また、最初に述べた通り、中央最低賃金審議会の答申が「最低賃金引き上げ見送りの方針」と報道されたため、誤解されている企業も多いようです。
引上げになっていることに気づかず、最低賃金を下回っていたということにならないように注意しましょう。
(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
1966年、東京都大田区生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事 ・管理業務に従事後、現職。クライアント先の人事制度、賃金制度、退職金制度 をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを担当し、複数社の社外人事 部長・労務顧問を兼任する。経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。