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第92回 21年01月更新

同一労働同一賃金と最高裁判例

2021年4月1日から、これまでその適用を猶予されていた中小企業も、パートタイム労働者や有期雇用労働者に対しての「同一労働同一賃金」の対応が必要になります。ここ1年間では、これに関連する最高裁の判決も複数出ています。
今回は、同一労働同一賃金の考え方のおさらいと、最高裁における同一労働同一賃金の判例の一部を説明したいと思います。

なお、中小企業の範囲は、「資本金の額または出資の総額」か「常時使用する労働者の数」のいずれかが次の基準を満たしていることが要件です。労働者数は事業場単位ではなく、企業単位で考えますのでご注意ください。

業種 資本金の額、又は出資の総額  

 

 

または

常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他 3億円以下 300人以下

 

同一労働同一賃金の背景と定義

「同一労働同一賃金とはなにか?」について、あらためて確認してみましょう。
新聞やテレビなどの報道では、同一労働同一賃金という考え方は新しいものというイメージを持たれる方もいるようです。しかし、これは間違った認識です。
日本の雇用慣行では、年齢や勤続年数といった属人的な要素や、無期雇用や有期雇用といった契約形態で給与の金額を決定することが多く、パートタイム労働法や労働契約法などがあるにもかかわらず、正規雇用者と非正規雇用者の格差が問題になっていました。
日本の非正規雇用労働者の賃金水準は欧州諸国と比べて低い状況にあり、不合理な待遇差の解消による非正規雇用労働者の待遇改善は重要な政策課題と位置づけられています。そこで、パートタイム労働法の改正を行い、格差是正に向けて動き出したというわけです。

同一労働同一賃金とは、パート社員、契約社員、派遣労働者などについて、正社員と比較して不合理な待遇差を設けることを禁止するというルールです。これだけでは漠然としていますが、厚生労働省では、同一労働同一賃金ガイドラインを公表しています。
ガイドラインに記載されている内容は、正社員と非正規雇用労働者との間で待遇差がある場合にどのような場合が不合理な待遇になり、どのような場合が不合理な待遇にならないかという原則と具体例が記載されています。2021年4月1日に向けて一度、目を通しておいた方がよいでしょう。

判例について

昨年は、同一労働同一賃金に関する判例が多く出されました。具体的な判例を見ていく前に判断基準について確認をしたいと思います。正社員と非正社員の間の待遇差については、次の3つの考慮要素に照らして不合理かどうかを判断します。

①職務内容(=業務内容+責任の程度)
②職務内容・配置の変更範囲 (=「人材活用の仕組み・運用等」)
③その他の事情 (詳細解釈は示されていない)

①と②が正社員と同様の場合は、雇用形態が非正規社員であったとしても、正社員と同じ待遇が求められます。いわゆる「均等待遇」と呼ばれるものです。ここでのポイントは、どのような理由があったとしても同じ待遇をしなければならないのではなく、成果、能力、経験等によって生じる賃金差は許容されるという点です。

今回は、2020年10月15日に最高裁判決が出た判例に沿って解説したいと思います。この判例は、日本郵便事件と呼ばれています。
簡単に訴訟の内容を整理すると、「郵便の業務を担当する無期契約労働者に対しては扶養手当の支給をしている一方で、郵便の業務を担当する有期契約労働者に対しては扶養手当を支給していないことは不合理」として、会社を相手取って訴訟が起こされたというものです。
日本郵便事件はこれ以外にも年末年始手当、有給の病気休暇についても判決が出されていますが、今回はイメージしやすい扶養手当に絞ってみていきたいと思います。

裁判年月日:令和2年10月15日
事件番号: 令和1(受)794
事 件 名:地位確認等請求事件

①-1 業務内容
旧一般職及び地域基幹職(正社員)は、郵便外務事務、郵便内務事務等に幅広く従事すること、昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されている。新一般職(正社員)は、郵便外務事務、郵便内務事務等の標準的な業務に従事することが予定されており、昇任や昇格は予定されていない。
契約社員は、郵便外務事務又は郵便内務事務のうち、特定の業務のみに従事し,上記各事務について幅広く従事することは想定されておらず、昇任や昇格は予定されていない。

①-2 責任の内容
正社員の人事評価においては、業務の実績そのものに加え、部下の育成指導状況、組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研鑽、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。
時給制契約社員の人事評価においては、上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか、担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる。
月給制契約社員の人事評価においては、業務を適切に遂行していたかなどの観点によって業績が評価されるほか、上司の指示の理解、上司への伝達等の基本的事項や、他の期間雇用社員への助言等の観点により月給制契約社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。
他方、本件契約社員の人事評価においては,正社員とは異なり,組織全体に対する貢献によって業績が評価されることなどはない。

②職務内容・配置の変更範囲 (=「人材活用の仕組み・運用等」)
旧一般職を含む正社員には配転が予定されている。ただし、新一般職は、転居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性があるにとどまる。これに対し本件契約社員は、職場及び職務内容を限定して採用されており、正社員のような人事異動は行われず、個別の同意に基づき、雇用契約を締結し直している。

③その他の事情 (詳細解釈は示されていない)
有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。

このような状況で、以下のような判決が出されました。

「郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。もっとも、上記目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。
そうすると、正社員と本件契約社員との間に所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものというべきである。
したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で、本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。」

判例なので文章が読みにくいのですが、ポイントとしては、職務の内容等につき相応の相違があるとしても、結果的には不合理であるとされている点です。
要約すると、「継続的な勤務が見込める労働者に対して扶養手当を支給することは、会社の経営判断として尊重はするが、契約社員にも扶養親族がいる場合もあり、ある程度継続的な勤務が見込まれるので、扶養手当を契約社員にも支給すべきという判断に至った」となります。

 

正社員には扶養手当を支給して、契約社員には支給していないという会社は数多く存在します。最高裁で今回のような判断が出た以上、扶養手当はもちろんのこと、他の手当についても不合理でないかどうかを確認しておく必要があります。

著者プロフィール(川島孝一氏)

(有)アチーブコンサルティング代表取締役、(有)人事・労務チーフコンサル タント、社会保険労務士、中小企業福祉事業団幹事、日本経営システム学会会員。
1966年、東京都大田区生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、サービス業にて人事 ・管理業務に従事後、現職。クライアント先の人事制度、賃金制度、退職金制度 をはじめとする人事・労務の総合コンサルティングを担当し、複数社の社外人事 部長・労務顧問を兼任する。経営者の視点に立った論理的な手法に定評がある。

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