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第04回 14年11月更新

採用内定の法的な性格「始期付解約権留保付労働契約」とは

こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。
10月1日の内定式を終え、内定者研修を実施されている企業も多いのではないでしょうか。
人事担当者の方の中からは、採用選考時にはよい人材だと思って採用したが、内定式、内定者研修等で学生に再会し研修態度等を見ると、採用を誤ったかもしれない・・・と後悔しているという意見も伺います。
かといって、内定を取り消しできるかというと、簡単にはいきません。
今回は、採用内定と内定取消について考えてみたいと思います。

採用内定とは、応募者が企業から正式な内定通知を受け、両者間で採用・入社の意思を確認した段階で、「始期付解約権留保付労働契約」が成立する、との考え方が判例上確立しています(大日本印刷事件 最高裁二小 昭54.7.20判決)。
「始期付」とあるのは、内定の時期から実際に入社し就労するまでは一定の期間があるためで、また「解約権留保付」とは、入社までにやむをえない事由が発生した場合には内定を取り消しすることがあるから、いわば条件付きの労働契約であるのです。

それでは、内定を取り消しするに至るやむを得ない事由とは、どのようなものでしょうか。前述の大日本印刷事件では、「採用内定の取り消し事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるものに限られる」としています。
つまり、採用内定時に知っていたら採用することがなかったであろう客観的に合理的で社会通念上相当と認められるような重大な事由でなければ、採用内定の取り消しは本来認められないのです。具体的には、健康状態や経歴詐称などの虚偽申告等が挙げられますが、これをもって直ちに内定取消が可能かというとそうではなく、「客観的に合理的で社会通念上相当」であるか、がポイントになり、健康状態が理由であっても客観的に判断して短期間で復帰でき、その後は確実に就労できる状態であれば、業務への影響はさして大きくなく、内定取消は難しいと判断されるでしょうし、経歴詐称の場合も、それだけで合理的な理由となるわけではなく、その内容や程度により従業員としての適格性が判断されることになります。以上のことから、内定者の印象が採用選考時とは異なって見えたとしても、それのみで内定取消をするには難しく、むしろ、入社後の教育・研修等企業の人材育成により変化を期待することが望まれます。

なお、職業安定法施行規則の改正(平成21年1月)により、採用内定取消の防止のため下記の取組みが実施されています。

・新規学卒者に対して内定取消しを行う場合、所轄のハローワークの所長または学校長等へ通知すること。

・上記の通知内容は内定取消者数、内定取消を行わなければならない理由、内定取消の回避のために行われた事項、対象学生等への説明状況、対象学生への支援の内容等であり、所定の様式によって行うこと。

・厚生労働大臣は、内定取消しを行った企業名を公表することができること(2年度以上連続して行われた場合や同一年度内において10名以上の者に対して行われた場合等)。

余談ですが、内定取消が法的に強い制約がある一方、内定者から行う内定の辞退はほとんど制約がありません。民法の規定により、2週間前までに申し出れば内定辞退が認められます。採用にかかった経費の損害賠償を請求することもできません。やっとの思いで採用したのに内定辞退をされた際には、人事担当者はやるせない気持ちで一杯でしょう。しかし内定辞退者への企業の対応は慎重に行うべきです。インターネット等で発信され企業イメージを大きく損なってしまう危険性もあるためです。現実的には、定期的な面談や社員との交流の機会を増やしたりSNSを活用したりと、早期に帰属意識を高め、内定辞退を防止する策を強化するのが得策でしょう。

著者プロフィール(溝口知実氏)

溝口知実 氏

特定社会保険労務士。溝口労務サポートオフィス代表。千葉県出身。大学卒業後、IT企業の人事労務経理業務、公的年金相談のスーパーバイザー、社会保険労務士事務所勤務等を経て、平成26年溝口労務サポートオフィスを開業。主な業務は中小企業の労務管理全般にわたる相談、コンサルティング、就業規則の作成・改訂等。社会保険労務士10年以上のキャリアを活かし、お客様の発展のために、生き生きと元気なヒトと会社、社会づくりに貢献することを目指し奮闘中。
http://www.mizoguchi-sr-office.jp/

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