インボイス制度の実務②インボイス制度における税額計算
目次
今回は、インボイス制度における税額計算の留意点について解説いたします。
免税事業者からの課税仕入れと経理処理(消費税経理通達)が今回のテーマです。
1.免税事業者等からの課税仕入れに係る仕入税額控除の経過措置
期間 | 控除割合 |
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80%控除 |
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50%控除 |
上記の期間においては、経過措置として、免税事業者からの課税仕入れに関しても、控除割合に応じた仕入税額控除を受けることが可能になっています。
経過措置の期間中には、消費税等の仕訳の計上方法が通常とは異なることとなりますので、以下で具体的に解説いたします。
2.消費税の経理方法
《税抜経理方式の場合》
税抜経理方式を採用している場合、消費税等の額とその取引に係る対価の額とを区分して経理することとなります。
具体的には、課税仕入れにかかる支払対価の額に、110分の10(軽減税率対象課税仕入れの場合は108分の8)を乗じて算出した金額を仮払消費税等として計上します。
〈例〉備品を1,100,000円(うち消費税等100,000円)で購入した。
備品 | 1,000,000 | / | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税等 | 100,000* |
*1,100,000×10/110=100,000
通常の場合は上記のような仕訳となりますが、経過措置の期間においては以下のような仕訳が必要となります。
〈例〉インボイス発行事業者以外の者から備品を1,100,000円で取得した。
① 令和5年10月から令和8年9月までの間の場合
備品 | 1,020,000 | / | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税等 | 80,000* |
*1,100,000×10/110×80%=80,000
この場合、仕入税額控除の対象にならない20%分の消費税額等(20,000円)は、仮払消費税等として計上出来ないので、資産の取得原価を構成することとなります。そのため、この備品については、1,020,000円を基礎として減価償却を行います。
もしくは以下のような仕訳となります。
備品 | 1,000,000 | / | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税等 | 80,000* | |||
雑損失 | 20,000 |
ただし、税務上の資産の取得価額は、どちらの経理処理であっても1,020,000円であるため、この価額を基礎として減価償却限度額の計算を行います。雑損失とした20,000円は、償却費として損金経理をした金額として取り扱われるため、減価償却費の計上の際に加味して計算する必要があります(法基本通7-5-2)。
② 令和8年10月から令和11年9月までの間の場合
備品 | 1,050,000 | / | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税等 | 50,000* |
*1,100,000×10/110×50%=50,000
もしくは
備品 | 1,000,000 | / | 現金預金 | 1,100,000 |
仮払消費税等 | 50,000* | |||
雑損失 | 50,000 |
税務上の資産の取得価額及び減価償却の基礎についての考え方は①の例と変わりません。
③ 令和11年10月以後の場合
備品 | 1,100,000 | / | 現金預金 | 1,100,000 |
経過措置終了後に関しては消費税等課税対象外として処理することとなりますので、仮払消費税等などの科目は使用しません。
《税込経理方式の場合》
税込経理方式の場合は、消費税等の額とその取引に係る対価の額とを区分しないで経理するため、経過措置による直接的な経理処理への影響はありません。
〈参考資料〉「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A」(令和3年2月国税庁)
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