雇用保険料と介護保険料の免除
目次
さまざまな企業の給与計算業務をチェックしていると、雇用保険料と介護保険料の誤徴収がたまに見受けられます。誤って徴収する金額は、1か月分であれば少額かもしれませんが、これらの誤りは発見されるまでの期間が長くなりがちです。気が付いた時には、誤りが積み重なり、結果的に大きな金額になっていることもあるようです。
それ以前の問題として、給与計算業務はたとえ一度のミスであったとしても、従業員の信頼を損なうことにつながります。担当者は正しい知識を持たなければなりません。
今回は、雇用保険料と介護保険料の徴収が不要になるケースについてみていきます。
雇用保険料が免除になるケース
4月1日の時点で64歳に達している労働者は、雇用保険料が免除になります。しかし、高齢者が少ない会社では、そのまま雇用保険料を徴収しているケースがあるようです。この雇用保険料の免除は、64歳の誕生日の月からではないことに注意が必要です。
なぜ誕生日の月から免除にならないのかというと、労働保険料(労災保険料と雇用保険料)の申告が「年度(4月1日~翌年3月31日まで)」で行われることになっているからです。どうも「年度の途中から免除になると、申告業務が煩雑になってしまう」というのが理由の一つのようです。
ただし、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者は免除の対象にはなりませんので、64歳を超えていたとしても雇用保険料は継続して徴収してください。
それでは、雇用保険料の免除について、具体的にみていきましょう。
平成28年4月30日で満64歳になる方の場合だと、平成28年4月1日時点では満64歳に到達していないので、本年度中は雇用保険料をそのまま徴収します。この方の雇用保険料が免除になるのは、平成29年4月分からになります。
なお、4月1日生まれの方は3月31日時点で「64歳に達した」と判断されます。たとえば、平成28年4月1日生まれの方であれば、誕生日の属する平成28年度から雇用保険料は免除となります。
また、今年は雇用保険法の法改正がありました。
平成29年1月1日以降、現行は雇用保険の適用除外となっている65歳以上の雇用者についても、雇用保険の適用の対象になります。この方たちは雇用保険の被保険者にはなりますが、すでに64歳に達していますので、保険料は免除になります。
ただし、今回の法改正により、平成32年度より高年齢者の雇用保険料の免除がなくなり、64歳以上の方についても雇用保険料を徴収するようになります。
実務的にどのような対応になるのか、まだ厚生労働省から発表されていませんので、給与計算の担当者は、今後の動向について注視していく必要があります。
介護保険料を徴収しないケース
40歳以上になると、65歳に達するまでの間、健康保険と併せて介護保険料の徴収が開始されます。こちらは、雇用保険料と違い、40歳の誕生日の「前日」が属する月から徴収が始まり、65歳の誕生日の「前日」が属する月の「前月まで」保険料を徴収します。
前日や前月などややこしいですが、特に「1日生まれ」の方は注意が必要です。
上記の期間であっても、一定の要件に該当すると、介護保険料を徴収しなくて良い場合があります。あまり知られていない制度ですが、下記のいずれかに該当する従業員がいる会社の実務担当者は、しっかりと確認された方が良いでしょう。
1)転勤により日本国内から外国へ転居した場合
2)介護保険施設、特定施設等に入所した場合
3)入管法の規定による3か月を超える在留期間が決定等されていない場合
このいずれかに該当したとしても行政は把握することができないため、介護保険料の請求を止めるには届出をする必要があります。
年金事務所に提出する書類の名称は、「介護保険適用除外等該当・非該当届」になります。添付の書類等も必要になりますので、実際に手続きを行う際は年金事務所等に問い合わせをしてから進めた方が良いでしょう。
*******************************
給与計算ソフトを使うことによって、年齢による保険料の徴収漏れや誤徴収はある程度防ぐことが可能です。
しかし、法律的な知識や法改正の情報等が必要になる場合もありますので、給与計算担当者はつねに情報収集に努めるように心がけましょう。
-
第99回社会保険の定時決定~その2
-
第101回振替休日と代休の違い
-
第100回産後パパ休暇と給与計算
-
第98回社会保険の定時決定~その1
-
第97回雇用保険の料率変更
-
第96回定年延長と退職金
-
第95回夜勤シフトの割増賃金
-
第94回休業補償と休業手当
-
第93回社会保険の適用拡大について
-
第92回令和3年の年末調整
-
第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
-
第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
-
第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
-
第88回感染対策費用の課税・非課税
-
第87回兼業、副業の時間外手当
-
第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
-
第85回有給休暇と残業手当
-
第84回在宅勤務手当の非課税計算
-
第83回延長された社会保険の特例改定
-
第82回育児・介護休業法の改正
-
第81回年末調整のイレギュラー対応
-
第80回年末調整の変更点~その2
-
第79回年末調整の変更点~その1
-
第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
-
第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
-
第76回寡婦控除の見直し
-
第75回住民税の特別徴収
-
第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
-
第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
-
第72回休業手当の計算方法
-
第71回源泉所得税の仕組み
-
第70回時間単位の有給休暇付与
-
第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
-
第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
-
第67回フレックスタイム制の改正と残業代
-
第66回健康保険の加入資格と保険料
-
第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
-
第64回介護保険料を徴収するタイミング
-
第63回社会保険における賃金とは
-
第62回労働保険における賃金とは
-
第61回労働基準法における賃金とは
-
第60回出来高払い制の残業代
-
第59回休業手当の計算方法
-
第58回賞与における所得税の計算
-
第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
-
第56回年末調整の変更点
-
第55回社宅制度と労働保険料
-
第54回社宅制度と社会保険料
-
第53回住宅手当と社宅貸与の違い
-
第52回退職金の税務計算
-
第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
-
第50回賃金支払いの5原則~その3
-
第49回賃金支払いの5原則~その2
-
第48回賃金支払いの5原則~その1
-
第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
-
第46回割増賃金の基礎となる賃金
-
第45回年末調整の留意点~その2
-
第44回年末調整の留意点~その1
-
第43回退職者の住民税
-
第42回労働時間の端数処理
-
第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
-
第40回賃金から控除できる項目と労使協定
-
第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
-
第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
-
第36回最低賃金の仕組み
-
第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
-
第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
-
第33回今年の年末調整の留意点
-
第32回年末調整における海外居住の扶養家族
-
第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
-
第30回従業員が死亡したとき
-
第29回雇用保険料と介護保険料の免除
-
第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
-
第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第25回1週間単位の変形労時間制度
-
第24回フレックスタイム制の労働時間制度
-
第23回1年単位の変形労時間制度
-
第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
-
第21回管理職への残業代の支払い
-
第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
-
第19回社会保険料の仕組みと変更時期
-
第18回通勤費の決め方と非課税限度額
-
第17回報奨金の現金支給や現物給与
-
第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
-
第15回有給休暇の付与と消滅
-
第14回給与の支給日の決め方やその変更
-
第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
-
第12回標準報酬月額の随時改定
-
第11回年間の給与計算の流れ
-
第10回年末調整の後の諸手続き
-
第09回離婚時の年金の分割制度
-
第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
-
第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
-
第06回就業規則と給与計算の関係
-
第05回給与から引かれるものは?
-
第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
-
第03回賞与の支給と給与計算
-
第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
-
第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料