2以上事業所勤務者の社会保険料
ここ最近、副業や兼業を行う方が増加しています。職種が多様になってきたことが要因の一つですが、新型コロナウィルス感染拡大の影響も少なからずあるようです。
副業や兼業を行っている理由には、「収入を増やしたい、1つの仕事だけでは生活できない、自分が活躍できる場を広げたい、他分野の人とつながりを持ちたい、現在の仕事で必要な能力を活用・向上させたい」などといったさまざまなものがあるようです。また、副業・兼業の形態も、「正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による個人事業主」など多種多様です。今後も、さらに副業や兼業を行う方は増えていくことが考えられます。
今回は、複数の事業所で働いている場合の社会保険の取り扱いと保険料の計算方法についてみていきたいと思います。
社会保険の加入要件
社会保険については、社会保険の適用事業所に就職をして加入要件に該当すると健康保険や厚生年金保険の被保険者となります。ただし、適用事業所に就職したからといって必ず社会保険に加入できるとは限りません。
加入するか否かについては、労働日数や労働時間により判断します。具体的には、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上であれば社会保険に加入することになります。(従業員数501人以上の企業では、週20時間以上で加入対象になることがあります。)
社会保険に加入できる年齢には特段制約がありません。一般的には、中学を卒業して就職する方であれば、最短で15歳で社会保険に加入することになります。
複数の事業所で勤務する場合には、それぞれの会社での労働時間や労働日数を基準に照らして判断します。例えば、A社では、1週間の所定労働時間や1か月の所定労働日数が一般正社員の4分の3以上ある一方で、B社ではどちらかでも4分の3未満だった場合は、A社でのみ社会保険に加入することになります。
一般の従業員では複数の事業所で加入資格を満たすことはなかなかありませんが、注意が必要なのが、複数の会社で役員をしている場合です。複数の会社で役員に就任しており、かつ役員報酬を受け取っている場合は、両方の会社で社会保険の加入資格を満たすことがあります。この場合、いずれの会社でも社会保険に加入しなければなりません。これが「二以上事業所勤務者」です。
標準報酬月額について
健康保険・厚生年金保険では、被保険者が会社から受ける毎月の給料などの報酬を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額に換算して、保険料の額と保険給付の額を計算します。健康保険制度の標準報酬月額は、第1等級の5万8千円から第50等級の139万円までの全50等級に区分されています。全国健康保険協会に加入をしている会社については、都道府県ごとに保険料率は異なりますが、等級の区分は全国共通です。
一方で、厚生年金保険制度の標準報酬月額は、第1等級の8万8千円から第32等級の65万円までの全32等級に区分をされています。厚生年金保険料率については、全国共通となります。
複数の事業所で社会保険に加入する際の保険料の計算について
複数の事業所で社会保険に加入している場合の社会保険料の計算は、各事業所のすべての報酬の合計により決定された標準報酬月額により算出された保険料を、各事業所の報酬で按分して計算をすることになっています。
文章だと少しわかりにくいので、
A事業所の報酬:500,000円
B事業所の報酬:410,000円
と仮定をして考えていきたいと思います。
まず、A事業所とB事業所の報酬を合算します。合算した報酬は910,000円になるので、標準報酬月額表で換算すると、健康保険の標準報酬月額は930,000円になります。
厚生年金の等級は650,000円が上限のため、それぞれの標準報酬月額は次のように決定されます。
健康保険の標準報酬月額 :930,000円
厚生年金保険の標準報酬月額:650,000円
次に各事業所で負担すべき保険料を計算してみましょう。算定方法は、A事業所とB事業所で按分計算を行います。この按分された保険料を、さらに各事業所と被保険者が折半することになります。
A事業所の保険料の計算方法
健康保険料=930,000円×保険料率×500,000/910,000
厚生年金保険料=650,000円×保険料率×500,000/910,000
B事業所の保険料の計算方法
健康保険料=930,000円×保険料率×410,000/910,000
厚生年金保険料=650,000円×保険料率×410,000/910,000
給与計算ソフト等を使用している場合でも、按分計算を自動的に行えるものと自分で設定しなければならないソフトがあります。片側の事業所の報酬が変動して月額変更に該当すると、報酬の変動していないもう片方の事業所の保険料も連動して変わります。
2以上事業所勤務者の保険料の計算を誤っているケースがときどき見受けられますので、該当者がいる場合は注意するようにしましょう。
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