社会保険料の仕組みと変更時期
目次
給与計算を行う上でミスがおきやすいもののひとつに、社会保険料の徴収額があります。その月の社会保険料の本人負担分を翌月の給与で徴収(翌月徴収)している会社では、毎年10月支給分の給与より社会保険料が変更になります。
社会保険料は料率が高いため、万が一、徴収漏れ等があって後からまとめて精算しようとしても比較的高額になりやすく、従業員の負担感は大きなものになります。
このようなミスをなくすためにも、今回は、社会保険料の仕組みについてみていきたいと思います。
健康保険料と厚生年金保険料
社会保険料とは、健康保険(介護保険を含む)と厚生年金保険の総称です。社会保険料は、労働保険料と異なり、被保険者ごとに決められた「標準報酬月額」に「保険料率」を乗じて毎月の保険料を決定します。
そのため、社会保険料を正確に計算するためには、被保険者ごとの標準報酬月額と、それぞれの保険料率の2つが正しいものであることが必須です。
標準報酬月額の決定
被保険者ごとの標準報酬月額は、残業代や通勤費なども含めた1か月の給与額を「標準報酬月額表」に当てはめて決定します。この標準報酬月額表は、健康保険ならば1級から47級、厚生年金保険料は1級から30級に区分けされています。
たとえば、毎月の給与総額が25万円以上27万円未満の場合の標準報酬月額は26万円となります。
各人の標準報酬月額は、毎年4月から6月までの3か月間の給与額に応じて、9月分の保険料から見直しになります。これを「定時決定」と呼びます。
雇用保険の場合は、その月の総支給額に保険料率を乗じて算出しますので、残業代の変動などにより給与の支給額が増減すれば、保険料もそれに合わせて毎月増減します。
しかし、社会保険の場合は、残業代などで給与額が変動しても、一度決まった標準報酬月額は変わらないため、毎月の保険料は同じままです。
原則として年1回しか見直しをしない標準報酬月額ですが、給与額が大幅に変動したときなど、特別に変更(随時改定)することもあります。随時改定をするのは、次のどちらにも該当したときです。担当者は、随時改定に該当する従業員がいた場合は、年金事務所や健康保険組合に「標準報酬月額変更届」を提出しましょう。
1)基本給や通勤手当などの固定的賃金が上がった(下がった)とき
2)固定的賃金の変動があってから3か月の給与の平均が、従前の等級より2等級以上上がった(下がった)とき
毎年上がり続ける厚生年金保険料率
厚生年金保険の保険料率は、平成27年9月1日適用の料率で、1,000分の178.28になりました。社会保険の保険料は、会社と被保険者で折半して負担します。したがって、給与で徴収する厚生年金保険料は、「各人の標準報酬月額×89.14/1000」になります。
厚生年金の保険料率は、平成29年9月まで毎年9月分の保険料から引き上げられることになっています。そのため、毎年10月の給与計算をするときは、各人の標準報酬月額の変更とともに、厚生年金の保険料率も変更しなければなりません。
健康保険の保険料率は組合で異なる
健康保険には、国が行っている「協会けんぽ」と、企業グループが独自に行っている「健康保険組合」があります。協会けんぽは都道府県支部ごとに保険料率が異なり、おおむね毎年3月に保険料率が見直されます。
健康保険組合は、法律の範囲内で独自に保険料率を決定することができるため、協会けんぽの保険料率とは異なります。健康保険組合も組合ごとの財政状況などを勘案して保険料率が見直されますが、やはり3月分の保険料から見直す健康保険組合が多いようです。
健康保険の料率が変更になる場合は、協会けんぽや各健康保険組合からの案内があるはずですので、忘れずに料率を変更しましょう。
また、40歳以上の従業員については、健康保険料とともに介護保険料も徴収します。介護保険料率は、協会けんぽは全国一律、健康保険組合は組合ごとに異なります。健康保険の料率は同じでも、介護保険の料率だけが変更される年もありますので、注意が必要です。
厚生年保険は全国同一の料率ですが、健康保険の場合は、協会けんぽであれば都道府県ごと、健康保険組合に加入している場合はそれぞれの組合ごとに保険料率が異なります。
給与計算をする場合は、会社を管轄する都道府県支部あるいは加入している健康保険組合の標準報酬月額表を必ず使用してください。
-
第99回社会保険の定時決定~その2
-
第101回振替休日と代休の違い
-
第100回産後パパ休暇と給与計算
-
第98回社会保険の定時決定~その1
-
第97回雇用保険の料率変更
-
第96回定年延長と退職金
-
第95回夜勤シフトの割増賃金
-
第94回休業補償と休業手当
-
第93回社会保険の適用拡大について
-
第92回令和3年の年末調整
-
第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
-
第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
-
第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
-
第88回感染対策費用の課税・非課税
-
第87回兼業、副業の時間外手当
-
第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
-
第85回有給休暇と残業手当
-
第84回在宅勤務手当の非課税計算
-
第83回延長された社会保険の特例改定
-
第82回育児・介護休業法の改正
-
第81回年末調整のイレギュラー対応
-
第80回年末調整の変更点~その2
-
第79回年末調整の変更点~その1
-
第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
-
第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
-
第76回寡婦控除の見直し
-
第75回住民税の特別徴収
-
第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
-
第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
-
第72回休業手当の計算方法
-
第71回源泉所得税の仕組み
-
第70回時間単位の有給休暇付与
-
第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
-
第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
-
第67回フレックスタイム制の改正と残業代
-
第66回健康保険の加入資格と保険料
-
第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
-
第64回介護保険料を徴収するタイミング
-
第63回社会保険における賃金とは
-
第62回労働保険における賃金とは
-
第61回労働基準法における賃金とは
-
第60回出来高払い制の残業代
-
第59回休業手当の計算方法
-
第58回賞与における所得税の計算
-
第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
-
第56回年末調整の変更点
-
第55回社宅制度と労働保険料
-
第54回社宅制度と社会保険料
-
第53回住宅手当と社宅貸与の違い
-
第52回退職金の税務計算
-
第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
-
第50回賃金支払いの5原則~その3
-
第49回賃金支払いの5原則~その2
-
第48回賃金支払いの5原則~その1
-
第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
-
第46回割増賃金の基礎となる賃金
-
第45回年末調整の留意点~その2
-
第44回年末調整の留意点~その1
-
第43回退職者の住民税
-
第42回労働時間の端数処理
-
第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
-
第40回賃金から控除できる項目と労使協定
-
第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
-
第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
-
第36回最低賃金の仕組み
-
第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
-
第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
-
第33回今年の年末調整の留意点
-
第32回年末調整における海外居住の扶養家族
-
第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
-
第30回従業員が死亡したとき
-
第29回雇用保険料と介護保険料の免除
-
第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
-
第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第25回1週間単位の変形労時間制度
-
第24回フレックスタイム制の労働時間制度
-
第23回1年単位の変形労時間制度
-
第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
-
第21回管理職への残業代の支払い
-
第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
-
第19回社会保険料の仕組みと変更時期
-
第18回通勤費の決め方と非課税限度額
-
第17回報奨金の現金支給や現物給与
-
第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
-
第15回有給休暇の付与と消滅
-
第14回給与の支給日の決め方やその変更
-
第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
-
第12回標準報酬月額の随時改定
-
第11回年間の給与計算の流れ
-
第10回年末調整の後の諸手続き
-
第09回離婚時の年金の分割制度
-
第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
-
第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
-
第06回就業規則と給与計算の関係
-
第05回給与から引かれるものは?
-
第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
-
第03回賞与の支給と給与計算
-
第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
-
第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料