60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
働き方改革関連法の一環で、中小企業の月間60時間を超える残業に対しての割増賃金率の猶予措置が廃止されることになりました。この猶予措置の廃止は、ここ数年話題にはなっていましたが、今回の法改正により2023年3月末日で廃止されることが正式に決まりました。
これまで適用を猶予されていた中小企業にとっては、割増賃金の計算方法が変わることになります。それよりも、月間60時間を超える残業が発生している会社では、人件費の増加が見込まれます。施行はまだ先ですが、今回は、月間の残業時間が60時間を超えた場合の考え方についてみていきたいと思います。
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率について
時間外労働の割増賃金率は、2010年4月の労働基準法改正により、1か月の時間外労働が60時間を超えた場合の割増率を5割以上とすることに改正されました。しかし、成立当時の社会情勢を考慮して大企業だけの実施にとどめ、中小企業はそれまで通り、60時間以下の残業と同じ2割5分以上の割増率が適用されていました。
適用が猶予されていた中小企業の条件は、以下の通りです。
1)資本金の額または出資の総額が
小売業 5000万円以下
サービス業 5000万円以下
卸売業 1億円以下
上記以外 3億円以下
「または」
2)常時使用する労働者が
小売業 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業 100人以下
上記以外 300人以下
1)と2)は「または」なので、「資本金」と「常時使用する労働者数」のどちらか片方が上の基準に該当していれば、猶予される「中小企業」ということになります。
今回の法改正では、この猶予措置が、2023年4月1日より廃止されることになったわけです。
割増賃金率について
それでは、あらためて時間外労働等の割増賃金率を確認してみましょう。
労働基準法上定められている労働時間は、1日8時間、1週40時間です。この労働時間を超えた場合には事業主は割増賃金を支払う必要があります。
法律で定める割増賃金率は、次の通りです。
1)時間外労働・・・2割5分以上(1か月について60時間を超える場合は5割以上)
2)休日労働・・・・3割5分以上
3)法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上
4)時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上(1か月について60時間を超える場合は7割5分以上)
5)休日労働が深夜に及んだ場合・・・6割以上
( )書きで記した部分の猶予措置がなくなりますので、すべての企業が月間60時間を超える残業に対して、5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなります。
給与計算の方法は、1か月の起算日(例:末締めの場合は1日)から残業時間を積み上げていき、60時間を超えた時点で、それ以降の割増賃金率を5割以上で計算します。
この60時間には、所定休日に労働した時間は含めますが、法定休日(注)に労働した時間は含めないという点には注意が必要です。
(注)労働基準法で定められた休日のことをいい、「週1日」または「4週を通じて4日」の休日を指します。なお、就業規則で特段定めていなければ、必ずしも日曜日が法定休日になるわけではありません。
法律上の考え方でいくと、「深夜残業で、かつ月間60時間を超えている残業の場合」の割増率は、なんと「7割5分以上の率」で計算しなければならないことになります。ただでさえ、60時間を超えた場合の割増率の5割以上でも、中小企業にとっては厳しい率です。しかし、これらは法律で決まっている割増率なので、少なともこの率は厳守しなければなりません。
現実的には、月間60時間を超える残業をしていると、深夜時間帯に及ぶケースも多いようです。深夜残業をしている業務が、「7割5分以上」の割増率を支払うに値する業務なのかを確認した方が良さそうです。
最初にも述べましたが、猶予措置の廃止までは多少の時間があります。今から残業時間を削減する方法や、会社によっては早出残業の活用なども検討しておきましょう。
鈴与シンワート株式会社が提供する人事・給与・勤怠業務と財務・会計業務ソリューションはこちらからご覧ください。
-
第99回社会保険の定時決定~その2
-
第101回振替休日と代休の違い
-
第100回産後パパ休暇と給与計算
-
第98回社会保険の定時決定~その1
-
第97回雇用保険の料率変更
-
第96回定年延長と退職金
-
第95回夜勤シフトの割増賃金
-
第94回休業補償と休業手当
-
第93回社会保険の適用拡大について
-
第92回令和3年の年末調整
-
第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
-
第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
-
第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
-
第88回感染対策費用の課税・非課税
-
第87回兼業、副業の時間外手当
-
第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
-
第85回有給休暇と残業手当
-
第84回在宅勤務手当の非課税計算
-
第83回延長された社会保険の特例改定
-
第82回育児・介護休業法の改正
-
第81回年末調整のイレギュラー対応
-
第80回年末調整の変更点~その2
-
第79回年末調整の変更点~その1
-
第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
-
第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
-
第76回寡婦控除の見直し
-
第75回住民税の特別徴収
-
第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
-
第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
-
第72回休業手当の計算方法
-
第71回源泉所得税の仕組み
-
第70回時間単位の有給休暇付与
-
第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
-
第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
-
第67回フレックスタイム制の改正と残業代
-
第66回健康保険の加入資格と保険料
-
第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
-
第64回介護保険料を徴収するタイミング
-
第63回社会保険における賃金とは
-
第62回労働保険における賃金とは
-
第61回労働基準法における賃金とは
-
第60回出来高払い制の残業代
-
第59回休業手当の計算方法
-
第58回賞与における所得税の計算
-
第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
-
第56回年末調整の変更点
-
第55回社宅制度と労働保険料
-
第54回社宅制度と社会保険料
-
第53回住宅手当と社宅貸与の違い
-
第52回退職金の税務計算
-
第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
-
第50回賃金支払いの5原則~その3
-
第49回賃金支払いの5原則~その2
-
第48回賃金支払いの5原則~その1
-
第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
-
第46回割増賃金の基礎となる賃金
-
第45回年末調整の留意点~その2
-
第44回年末調整の留意点~その1
-
第43回退職者の住民税
-
第42回労働時間の端数処理
-
第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
-
第40回賃金から控除できる項目と労使協定
-
第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
-
第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
-
第36回最低賃金の仕組み
-
第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
-
第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
-
第33回今年の年末調整の留意点
-
第32回年末調整における海外居住の扶養家族
-
第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
-
第30回従業員が死亡したとき
-
第29回雇用保険料と介護保険料の免除
-
第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
-
第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第25回1週間単位の変形労時間制度
-
第24回フレックスタイム制の労働時間制度
-
第23回1年単位の変形労時間制度
-
第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
-
第21回管理職への残業代の支払い
-
第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
-
第19回社会保険料の仕組みと変更時期
-
第18回通勤費の決め方と非課税限度額
-
第17回報奨金の現金支給や現物給与
-
第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
-
第15回有給休暇の付与と消滅
-
第14回給与の支給日の決め方やその変更
-
第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
-
第12回標準報酬月額の随時改定
-
第11回年間の給与計算の流れ
-
第10回年末調整の後の諸手続き
-
第09回離婚時の年金の分割制度
-
第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
-
第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
-
第06回就業規則と給与計算の関係
-
第05回給与から引かれるものは?
-
第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
-
第03回賞与の支給と給与計算
-
第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
-
第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料