年末調整における海外居住の扶養家族
目次
前回に引き続き、今回も年末調整の変更点をみていきます。
今年の年末調整から変更になった点は、海外に居住している扶養家族の認定が厳格になった点です。
日本国内で就業している外国人(居住者)が、海外に在住している家族や親族(国外居住親族)を扶養にしているケースがあります。昨年の年末調整までは、提出された扶養控除等(異動)申告書をもとに「口頭での確認」により扶養家族としてカウントし、従業員本人の所得税の年税額を計算していました。
今回の改正により、国外居住親族に係る扶養控除、配偶者控除、障害者控除または配偶者特別控除の適用を受ける居住者は、その国外居住親族に係る「親族関係書類」や「送金関係書類」を、会社に提出・提示しなければならないことになりました。
したがって、これらの書類の提出・提示がないときは、その国外居住親族は扶養家族としてカウントできません。
この改正は、平成 28 年1月1日以後に支払を受けるべき給与について適用され、実務的には、遅くとも今回の年末調整までに必要書類を提出・提示させる必要があります。
親族関係書類とは?
「親族関係書類」とは、次のいずれかの書類で、国外居住親族が居住者の親族であることが証明できるものをいいます。
1)戸籍の附票の写しその他の国または地方公共団体が発行した書類および国外居住親族のパスポートの写し
2)外国政府または外国の地方公共団体が発行した書類(戸籍謄本・出生証明書・婚姻証明書等)
会社が書類の確認をするにあたり、注意する点が2つあります。
ひとつ目は、2)の外国政府等が発行した書類の場合、国外居住親族の氏名、生年月日と住所の記載が必ず必要になる点です。どれかひとつの書類のみですべての項目が記載されていない場合は、複数の書類を組み合わせて証明する必要があります。
ふたつ目は、パスポート以外の書類で証明する場合は、原本の提出または提示が必要になるということです。
年末調整の際には、提出された要件を満たしているか、十分注意して確認するようにしましょう。
送金関係書類とは?
「送金関係書類」とは、居住者が平成28年中に国外居住親族の生活費等に充てるために送金等を行ったことを証明できる書類のことです。具体的には、次のいずれかの書類です。
1)外国送金依頼書の控え(その年において送金をした外国送金依頼書の控えである必要があります。
2)クレジットカードの利用明細書の写し(注)
(注)クレジットカードの利用明細書とは、居住者(本人)がクレジットカード発行会社と契約を締結し、国外居住親族が使用するために発行されたクレジットカード(いわゆる「家族カード」)で、その利用代金を居住者が支払うこととしているものに係る利用明細書をいいます。この場合、その利用明細書は家族カードの名義人となっている国外居住親族の送金関係書類として取り扱います。
なお、クレジットカードの利用明細書は、実際の利用日により、どの年の送金関係書類に該当するかを判断します。引き落とし日ではありませんのでご注意ください。
送金関係書類の注意点は、国外居住親族が複数いる場合には、送金関係書類は扶養控除等を適用する国外居住親族ごとに必要となるということです。
例えば、国外に居住する妻と子がいる場合で、妻に対してまとめて送金している場合には、その送金に係る送金関係書類は、妻(送金の相手方)のみに対する送金関係書類として取り扱い、子の送金関係書類として取り扱うことはできないということになります。
もし、複数の被扶養者がいる場合は、それぞれについて書類を提出してもらうようにしましょう。
いつまでに親族関係書類と送金関係書類の提出を受ければよいか?
親族関係書類は、従業員である居住者が、給与所得者の扶養控除等申告書を会社に提出する際に提出または提示する必要があります。したがって、本来は今年の1月の時点で提出または提示されていなければならなかったことになります。
一方で、送金関係書類については、会社が年末調整を行う際に会社へ提出または提示する必要があります。
少なくとも、今回の年末調整時までに両方のいずれかが提出されていない場合は、扶養家族としてカウントせずに年末調整を行ってください。
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年末年始は、どの会社でも繁忙期になりがちです。給与計算業務では、通常の給与に加え、賞与や年末調整が加わります。
今回の書類については、海外から取り寄せる必要が出てくることも想定され、ぎりぎりにアナウンスすると年末調整業務に間に合わない可能性があります。また、提出された書類が外国語で作成されている場合は、その翻訳文も必要です。
国外居住親族がいる従業員は、昨年までの年末調整等である程度把握できていると思います。早めにアナウンスし、あらかじめ必要書類を準備しておいてもらうようにしましょう。
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