派遣労働の現状と労働者派遣法改正案の概要について
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。
6月19日、労働者派遣法改正案が衆議院本会議で可決、参議院に送られ、今国会で成立する公算が大きくなりました。
厚生労働省が平成24年に行った調査では、派遣労働者のうち「正社員として働きたい」人が43.2%に上った一方、「派遣労働者として働きたい」人も43.1%に上りました。改正案は、このような派遣労働者の多様な働き方のニーズを勘案し、派遣労働者の正社員化を後押しする一方で、派遣を希望する者の待遇の改善を図る内容も盛り込まれています。
今回は、派遣労働の現状をまじえ、労働者派遣法改正案の概要について述べたいと思います。
1.26業務か否かに関わりなく適用される共通ルールへ
現行の派遣規制において、政令で定められている通訳や秘書などの専門26業務については、派遣受入期間の制限がなく、それ以外のいわゆる自由化業務については原則1年、最長3年の期間制限が設定されています。従来から26業務かどうかで異なる現行制度はわかりにくく、現場が混乱していると指摘がありました。改正案では、26業務の区分を廃止し、26業務か否かに関わりなく適用される共通ルールを提案しています。一つは個人単位の期間制限、もう一つは派遣先単位の期間制限です。
ア. 個人単位の期間制限
現行法は、専門性のある26業務は派遣受入期間の制限がない一方、自由化業務については、正社員の雇用確保等の観点から最長3年の期間制限が設定されています。これまでの期間制限は、派遣受入期間に対して通算で3年を上限として設定され、同一業務において最初の派遣労働者が1年働いていた場合、次の派遣労働者は2年しか働けないという規制があります。改正案では、派遣労働者個人単位の期間(同一の派遣労働者が派遣先の同一の組織単位(課)に就業できる期間は上限3年)という考え方に移行されます。一方で、現行の26業務においては3年の期間制限がなかったため、改正後は失業の可能性もあります。そのため、派遣元は上限3年に達する派遣労働者に雇用安定措置(派遣先への直接雇用の依頼、新たな派遣先の提供、派遣元での無期雇用等)を講ずることが義務化されます。
イ. 派遣先単位の期間制限
上記3年の期間制限は、同一の派遣労働者が同じ事業所で働くには、3年ごとに業務が異なる別の課に異動する必要があります。また、課を変えても、派遣先事業所全体の派遣労働者の受入については3年を上限とされます。ただし、過半数労働組合(過半数労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)から意見聴取することを条件に、3年ごとに派遣労働者を別の派遣労働者に交代させれば同一業務につき継続して受け入れることが可能になります。
※上記ア、イの期間制限は有期雇用の派遣労働者が対象となり、無期雇用契約を結んだ派遣労働者について期間制限は適用されません。
2.すべての労働者派遣事業を許可制へ
現行法では、派遣事業には一般労働者派遣事業(許可制)と特定労働者派遣事業(届出制)の2種類があります。一般労働者派遣事業は登録型や臨時・日雇の労働者を派遣する事業がこれに該当します。派遣先が見つかった時だけ雇用契約を結ぶため雇用が不安定であることから、事業認可は一定の規制が適用される許可制となり、事業所の規模や財政状況などが審査されます。一方で、特定労働者派遣事業は、派遣元に「常時雇用される労働者」を対象とする派遣であり、派遣期間が終了後も雇用関係が継続することから、規制が比較的緩やかで、事業認可は届出制となっています。ただ、実態として、一般労働者派遣事業の許可要件を満たさないため特定労働者派遣事業と偽って一般労働者派遣事業を実施している悪質な事業者も存在しています。このため、改正案では、業界の健全化を図り、全ての労働者派遣事業を許可制としました。また、派遣元が義務規定(雇用安定措置やキャリアアップ支援等)に違反した場合は、許可の取消を含め厳しく指導されることになります。ただし、改正法施行日時点で特定労働者派遣労働事業の届出をしている事業主は、暫定措置として、施行日から3年間は引き続き特定労働者派遣事業を行うことができます。
3.派遣労働者の均衡待遇の推進
派遣元と派遣先双方において、現行の規定に加え、派遣労働者と派遣先の労働者の均衡待遇確保のための措置が強化されます。
4.派遣労働者のキャリアアップ支援の義務化
改正案では派遣元に対し、計画的な教育訓練やキャリア・コンサルティングが義務付けされます。また、労働者派遣事業の許可要件に、「キャリア支援制度を有する」ことが追加されます。
以上、今回の改正案は、長年続いた26業務の廃止や派遣受入期間の抜本的な見直し、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区分の廃止、派遣労働者のキャリアアップ支援など、従来の改正に比べ大きく変わったものになっており、派遣事業のあり方や派遣労働者の働き方に大きく影響していくものと思われます。
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