一億総活躍社会―企業における影響は?
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。11月26日、安倍政権が掲げる一億総活躍社会実現に向けた国民会議は、「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策- 成長と分配の好循環の形成に向けて-」をとりまとめました。今回は、その中で、今後企業に期待される人事労務施策に関わる部分を取り上げてみました。
安倍内閣は新たな「三本の矢」の政策で全ての人が活躍できる「一億総活躍社会」を目指すと表明しました。第一の矢「希望を生み出す強い経済」、第二の矢「夢をつむぐ子育て支援」、第三の矢「安心につなぐ社会保障」を新たな三本の矢とし、それぞれ「名目GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」という目標を掲げています。
以下、目標達成のための「緊急に実施すべき課題」から、企業の人事労務管理に関連する事項を抽出しました。
■最低賃金・賃金引上げを通じた消費の喚起
○最低賃金について、年率3%程度を目途として、名目GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1,000円となることを目指す。
○賃上げについての環境を整備する。
■女性・若者・高齢者・障害者等の活躍促進
○就労促進の観点から、いわゆる103万円、130万円の壁の原因となっている税・社会保険、配偶者手当の制度の在り方に関し、国民の間の公平性等を踏まえた対応方針を検討する。
○長時間労働の是正や公共調達の活用等により、ワーク・ライフ・バランスの実現を加速する。
○障害者等の就労支援体制を拡充する。
○企業の採用基準等や学校の入学者資格が、障害や難病のある方が一律排除されているかのような表現になっていないか総点検を呼びかけ、改善を促す。
■結婚・子育ての希望実現の基盤となる若者の雇用安定・待遇改善
○不安定な雇用と低所得のために結婚に踏み切れない若者の希望を実現するため、既卒者・中退者の雇用機会の確保などを通じ若者の円滑な就職を支援するとともに、非正規雇用労働者の正社員転換・待遇改善を推進する。
○非正規雇用労働者が育児休業を取得し、継続就業しやすくするための制度見直しを検討する。
○妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取扱い等を防止するため、法制度を含めて対応を検討する。
○自営業者・短時間労働者等の産前産後期間の経済的負担を軽減するため、国民年金の保険料の免除等の検討を行う。
○中小企業に被用者保険の適用拡大の途を開く制度的措置を講ずる。
■出産後・子育て中も就業が可能な多様な保育サービスの充実
○企業側の取組として、子育て支援への事業主拠出金制度の拡充により、事業所内保育所など企業主導型の保育所の整備・運営等を推進することについて、平成28年度予算編成過程において検討する。
■介護に取り組む家族が介護休業・介護休暇を取得しやすい職場環境の整備
○介護休業を利用しやすくするため、対象家族1人につき93日取得することが可能な休業を、分割取得できるよう制度の見直しを検討する。また、介護休暇について、より柔軟な取得が可能となるよう検討する。
○介護休業の前後で所得を安定させるため、介護休業給付の給付水準(40%)について、育児休業給付の水準(67%)を念頭に引上げを検討する。
以上、賃上げ、税・社会保険の扶養範囲の適用拡大、長時間労働の是正、非正規雇用から正規雇用への転換・待遇改善、妊娠・出産・育児等を理由とする不利益取扱い(いわゆるマタハラ)の防止、介護休業制度の見直し等がキーワードとなっています。また現在、育児・介護休業法の改正も検討されており、企業としては、今後の動向を見据え対策を講じることが必須となります。
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第69回健康保険証の廃止とマイナ保険証への移行準備について
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第68回令和7年4月施行 「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」の創設について
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第67回令和7年4月1日施行 育児休業給付金延長申請手続きの厳格化について
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第66回本年10月からの社会保険の適用拡大について
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第65回令和6年4月施行 障害者法定雇用率の引上げと障害者雇用促進法の改正について
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第64回キャリアアップ助成金「正社員化コース」の拡充について
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第63回2023年9月改正「心理的負荷による精神障害の認定基準」について
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第62回解雇の種類とその要件について
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第61回自動車運転業務における時間外労働の上限規制の適用と2024年問題について
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第60回令和6年4月施行 労働条件明示のルール変更及び裁量労働制の新たな手続きについて
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第59回本年4月に中小企業に適用される月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引上げについて
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第58回キャリアアップ助成金正社員化コース 令和4年10月からの変更点
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第57回育児介護休業制度10月1日改正内容と社会保険料の免除について
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第56回令和4年10月以降の地域別最低賃金額について
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第55回複数の事業所で社会保険に加入する場合の取扱いについて
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第54回令和4年10月 社会保険適用拡大に向けての企業の対応について
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第53回令和4年4月 人事労務関連の法改正情報
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第52回複数の事業主に雇用される65歳以上の雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
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第51回脳・心臓疾患の労災認定基準の改定について
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第50回本年6月に公布された改正育児・介護休業法の概要について
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第49回夫婦共働きの場合の健康保険被扶養者認定基準の改定について
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第48回短期在留外国人に支給される「脱退一時金」の支給上限の引上げについて
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第47回障害者の法定雇用率の引上げと障害者雇用のための支援制度について
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第46回新型コロナウイルスに感染した場合は労災保険の対象となるか
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第45回「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定について
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第44回雇用保険の被保険者期間算定方法の変更、基本手当の給付制限期間の短縮について
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第43回雇用調整助成金その2 雇用調整助成金の拡充(助成額上限の引上げ等)について
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第42回新型コロナウイルス感染拡大防止のための雇用調整助成金の特例措置について
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第41回同一労働同一賃金の基本的考え方
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第40回歩合給制運用の留意事項について
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第39回パワハラ防止法成立~企業に義務付けられる防止対策~
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第38回社会保障協定の概要について
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第37回新在留資格「特定技能」の創設に伴う外国人雇用の今後
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第36回副業・兼業を適正に運用するための留意点
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第35回年次有給休暇の取得義務化に向けた対応策
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第34回過労死ラインの長時間労働と働き方改革関連法
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第33回健康保険の被扶養者認定の厳格化について
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第32回夏休みの労務管理上の留意点について
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第31回改正労働契約法と改正労働者派遣法による2018年問題とは
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第30回割増賃金の計算を正しく行うための留意点
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第29回年次有給休暇の基準日を設ける場合の留意点
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第28回出向と転籍の相違点とその運用について
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第27回平成29年10月改正の育児・介護休業法の概要について
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第26回年金受給資格期間の短縮による外国人従業員への影響について
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第25回就業規則に休職制度を規定する際の留意点
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