パワーハラスメントの防止策-コミュニケーション環境を整える
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。
都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーに寄せられる相談件数は、平成26年度では7年連続で100万件を超え、相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が62,191件と、3年連続で最多となっています。また、職場でのいじめ・嫌がらせ、暴行や職場内のトラブルにより、うつ病などの精神障害を発病し、労災補償を受ける件数も年々増加しています。パワーハラスメント、いわゆるパワハラという言葉は日常の中に定着してきました。パワハラ防止策に積極的に取り組む企業も増えています。今回は、パワハラに該当する行為とその防止策について述べたいと思います。
パワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、職場環境を悪化させる行為」と定義されています(厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」)。
厚生労働省が公表した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によると、具体的なパワハラの内容としては、下記の行為が挙げられています。
・精神的な攻撃(ミスを皆の前で大声で言われる、人格を否定されるようなことを言われる等)
・過大な要求(終業間際に過大な仕事を毎回押し付ける、一人では無理だと分かっている仕事を一人でやらせる等)
・人間関係からの切り離し(報告した業務への返答がない。部署の食事会に誘われない等)
・個の侵害(交際相手の有無について聞かれ、過度に結婚を推奨された等)
・過小な要求(従業員全員に聞こえるように程度の低い仕事を名指しで命じられた等)
・身体的な攻撃(足をけられる、胸ぐらをつかむ、髪を引っ張る、火の付いたたばこを投げる等)
また、同報告書によると、パワーハラスメントに関連する相談がある職場に共通する特徴として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」が51.1%と最も多くなっており、パワハラと職場内のコミュニケーション不足は関連深いことがうかがえます。
さらに、パワーハラスメントの予防・解決のための取組を進めるに当たっての課題として最も比率が高かったのは「パワハラかどうかの判断が難しい」で、回答企業全体の72.7%が課題としてあげています。職場内で、この行為はパワハラにあたるのか、あるいは指導の範囲なのか、判断がつかないという声も多く聞きます。
以上のことから、パワハラを防止するには、職場内でのコミュニケーション環境を整えるとともに、職場の一人ひとりが、それぞれの価値観、立場、能力などといった違いを認め合うことが大切であることが求められます。
コミュニケーション環境を整える具体的な防止策として、職場内で自己点検を行うことからはじめてみます。
上司として
・指導や注意は「事柄」を中心に行っているか(「人格」攻撃に陥っていないか)
・自分のやり方を押し付けていないか
・部下の立場・尊厳を尊重しているか
・過剰な要求をしていないか
・部下の能力を上げるために普段から取り組んでいるか 等
部下として
・普段から仕事の進め方について疑問があれば上司に適切に伝えているか
・叱責された理由が何であるか(自分の成長の為に叱責されたか)を考えてみる
・普段の勤務態度、仕事への取り組み方について問題はないか 等
上記と並行して職場内での研修(人権問題やコンプライアンス、コミュニケーションスキル、マネジメントスキル、パワーハラスメント研修)も効果的です。
企業全体としての取組としては、パワーハラスメントを放置しないと会社の方針を明確にし、周知します。また、パワーハラスメント防止ためのルール作りを今一度点検してみます。就業規則等に具体的なパワハラの行為や相談窓口、罰則規定、再発防止に向けた取組等は規定されているか、等を見直してみます。
パワーハラスメントは、職場の生産性の低下、業績の悪化、訴訟への発展、人材の流出、企業イメージの失墜等のリスクをはらんでいます。パワーハラスメントの予防に取り組む意義は、このようなリスクへの対策はもとより、職場の活力や生産性の向上にもつながるため、積極的に推進していくことが求められます。
-
第69回健康保険証の廃止とマイナ保険証への移行準備について
-
第68回令和7年4月施行 「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」の創設について
-
第67回令和7年4月1日施行 育児休業給付金延長申請手続きの厳格化について
-
第66回本年10月からの社会保険の適用拡大について
-
第65回令和6年4月施行 障害者法定雇用率の引上げと障害者雇用促進法の改正について
-
第64回キャリアアップ助成金「正社員化コース」の拡充について
-
第63回2023年9月改正「心理的負荷による精神障害の認定基準」について
-
第62回解雇の種類とその要件について
-
第61回自動車運転業務における時間外労働の上限規制の適用と2024年問題について
-
第60回令和6年4月施行 労働条件明示のルール変更及び裁量労働制の新たな手続きについて
-
第59回本年4月に中小企業に適用される月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引上げについて
-
第58回キャリアアップ助成金正社員化コース 令和4年10月からの変更点
-
第57回育児介護休業制度10月1日改正内容と社会保険料の免除について
-
第56回令和4年10月以降の地域別最低賃金額について
-
第55回複数の事業所で社会保険に加入する場合の取扱いについて
-
第54回令和4年10月 社会保険適用拡大に向けての企業の対応について
-
第53回令和4年4月 人事労務関連の法改正情報
-
第52回複数の事業主に雇用される65歳以上の雇用保険マルチジョブホルダー制度とは
-
第51回脳・心臓疾患の労災認定基準の改定について
-
第50回本年6月に公布された改正育児・介護休業法の概要について
-
第49回夫婦共働きの場合の健康保険被扶養者認定基準の改定について
-
第48回短期在留外国人に支給される「脱退一時金」の支給上限の引上げについて
-
第47回障害者の法定雇用率の引上げと障害者雇用のための支援制度について
-
第46回新型コロナウイルスに感染した場合は労災保険の対象となるか
-
第45回「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定について
-
第44回雇用保険の被保険者期間算定方法の変更、基本手当の給付制限期間の短縮について
-
第43回雇用調整助成金その2 雇用調整助成金の拡充(助成額上限の引上げ等)について
-
第42回新型コロナウイルス感染拡大防止のための雇用調整助成金の特例措置について
-
第41回同一労働同一賃金の基本的考え方
-
第40回歩合給制運用の留意事項について
-
第39回パワハラ防止法成立~企業に義務付けられる防止対策~
-
第38回社会保障協定の概要について
-
第37回新在留資格「特定技能」の創設に伴う外国人雇用の今後
-
第36回副業・兼業を適正に運用するための留意点
-
第35回年次有給休暇の取得義務化に向けた対応策
-
第34回過労死ラインの長時間労働と働き方改革関連法
-
第33回健康保険の被扶養者認定の厳格化について
-
第32回夏休みの労務管理上の留意点について
-
第31回改正労働契約法と改正労働者派遣法による2018年問題とは
-
第30回割増賃金の計算を正しく行うための留意点
-
第29回年次有給休暇の基準日を設ける場合の留意点
-
第28回出向と転籍の相違点とその運用について
-
第27回平成29年10月改正の育児・介護休業法の概要について
-
第26回年金受給資格期間の短縮による外国人従業員への影響について
-
第25回就業規則に休職制度を規定する際の留意点
-
第24回定額残業代 運用上の留意点
-
第23回離職票作成をめぐるトラブルと留意点
-
第22回2017年の労働関連・社会保険関連の主な動きについて
-
第21回「夫に先立たれた9年間を幸せに生きる妻の本」人事担当者の方向け 活用のポイント
-
第20回長時間労働の抑制を目指す「勤務間インターバル規制」とは
-
第19回来年1月施行予定の介護休業制度の改正について
-
第18回雇用保険関連の法改正(保険料率の変更と高齢者の適用拡大)
-
第17回今後企業に求められる障害者雇用対策
-
第16回短時間労働者に対する社会保険の適用拡大について
-
第15回パワーハラスメントの防止策-コミュニケーション環境を整える
-
第14回一億総活躍社会―企業における影響は?
-
第13回女性活躍推進法の成立の背景と概要について
-
第12回二重派遣と偽装請負の問題点
-
第11回派遣と請負・業務委託―適正な活用のための留意点
-
第10回派遣労働の現状と労働者派遣法改正案の概要について
-
第09回雇用関係の助成金 申請のメリットと留意点
-
第08回育児期間中の短時間勤務 労務管理上のポイント
-
第07回「ワーク・ライフ・バランス」が経営戦略と言われる理由とは?
-
第06回労働者から労災請求された場合の会社の対応について
-
第05回労働時間の判断基準とは
-
第04回採用内定の法的な性格「始期付解約権留保付労働契約」とは
-
第03回人事担当者が知っておきたいマタニティハラスメントへの対応策
-
第02回高年齢者雇用活用の留意点
-
第01回職場における熱中症対策と労災認定