溝口知実
第35回  投稿:2019.02.22 / 最終更新:2019.02.22

年次有給休暇の取得義務化に向けた対応策

こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。いよいよ4月に働き方改革法が施行されます。改革法のうち年次有給休暇の取得義務化は全企業が対象になることから、対応は待ったなし、です。今回は、年次有給休暇の取得義務化に向けた対応策についてお伝えします。

1.年次有給休暇の取得義務化とは

長時間労働の原因の一つとして、年次有給休暇の取得率が低いことが挙げられます。また年次有給休暇は、原則労働者からの申請により取得するものですが、なかなか申請しづらいという現状があります。こうした状況を改善し年次有給休暇の取得を促進させるために、使用者側が労働者に年次有給休暇の取得を働きかけるよう(使用者の時季指定による取得)法律で義務づけられました。

使用者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、年5日以上取得させることが義務付けられます。10日以上付与される労働者とは、フルタイム勤務の他にも、パート・アルバイトなど労働日数が少ない労働者でも勤続年数や労働日数に応じて10日以上付与されれば対象となります。ただし、あくまで当年度の付与日数が10日以上の労働者が対象となるため、前年分に付与した年次有給休暇が未消化で繰越している分を含め残日数が10日以上になる労働者は対象となりません。

使用者の時季指定による取得の際は、まず使用者側が労働者に取得時季の意見を聴き、使用者は労働者の意見を尊重し、取得の時季を指定します。年次有給休暇を付与する時季は、労働者ごとに付与日(基準日)から1年以内となります。例えば労働基準法通り付与する企業の場合、入社日が4月1日とすると6カ月経過後の10月1日(基準日)に年次有給休暇を10日付与します。この10月1日から翌年の9月30日までの1年間に5日、取得時季を指定する必要があります。この取得させる義務のある5日に関しては、労働者が自ら申し出て取得した日数や、労使協定で取得時季を定めて与えた日数(計画的付与)については、5日のうちから控除することができます。例えば、既に年次有給休暇を5日以上取得済みの労働者に対しては、使用者による時季指定は不要です。

年5日の年次有給休暇の取得が達成できなかった場合は、労働基準法により罰則が設けられています(30万円以下の罰金)。労働者に年次有給休暇を取得させるためには、労働者ごとに年次有給休暇の残日数や使用者の時季指定日数を把握する必要があります。今回の改正に伴い、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存することが義務付けられました。

2.企業の対応策は

法施行後は、企業は労働者ごとに年次有給休暇の取得状況の管理・把握し消化日数を達成させなければならなくなります。自社の年次有給休暇取得状況を把握したうえで、自社にふさわしい対策を講じておく必要があります。年次有給休暇の取得を促進させるために、下記の方法を検討してみます。

①労働者からの申請による取得
現状の年次有給休暇の取得日数が年5日以上の労働者が多数を占める企業には、従来通り労働者からの申請による取得方法がふさわしいでしょう。労働者の希望に沿い取得させることができ、従業員の満足度も高まりますが、従業員ごとに有給休暇の取得状況を個別管理、把握する手間がかかります。

②計画的付与
企業が労働者代表との労使協定により、年次有給休暇のうち5日を超える部分について取得時季を定める「計画的付与」は、全社一斉に休業させたり部署ごとに有給休暇取得日を設定したり、個人ごとに有給休暇取得日を決定することができるため、①に比べ有給休暇の取得状況を管理する手間が省けます。現状「計画的付与」を導入している企業では、引き続き計画的付与によりスムーズに運用できるかと思いますが、今回の改正により新たにこの方法を導入するかは、自社に適応する方法か一旦検討した方がよいでしょう。というのは、計画的付与は労使協定によることや、年次有給休暇のうち「5日を超える部分について」付与する等、運用において一定の制約があるためです。

③使用者の時季指定による取得
今回の改正により新たに導入される方法です。現状の年次有給休暇の取得日数が年5日未満の労働者が多数を占める企業で、上記①②の方法でも5日に足りないと見込まれる場合は、使用者によりあらかじめ年次有給休暇の取得時季を指定する方法を採ることになります。労働者の取得時季の意見を聴いたうえで、業務スケジュールを確認しつつ取得時季を指定します。

有給休暇の取得義務化はすべての企業が対象になります。対策がまだの企業は、早めに検討し、スムーズに運用できるよう準備しておきましょう。

 

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