パワハラ防止法成立~企業に義務付けられる防止対策~
目次
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。改正労働施策総合推進法が2019年5月29日に成立し、企業に対し、職場におけるパワーハラスメント防止対策が義務付けられました。施行日は6月5日の公布後1年以内(中小企業は3年以内)と設定され、早ければ大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月の見込みです。今回は、法施行に向け、企業に義務付けられるパワーハラスメント防止対策を中心に述べたいと思います。
パワーハラスメントとは
これまで、セクシュアルハラスメントやマタニティーハラスメントについてはすでに男女雇用機会均等法や育児介護休業法等により企業に防止措置を講じる義務が法制化されていましたが、パワーハラスメントについては法制化されていませんでした。この改正法においてはじめてパワーハラスメントの定義が明文化され、企業に対しパワーハラスメント防止措置を講じる義務が規定されました。改正労働施策総合推進法30条の2第1項において、
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と規定しています。
ここで規定されているように、パワーハラスメントの定義としては、
職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
雇用する労働者の就業環境が害される
のすべての要素を満たすものになります。
「職場」はどこまでを含むのか、「優越的な関係」はどのような関係か、「業務上必要かつ相当な範囲」とはどこまでか等詳細については、今後検討が加えられ、指針において示される予定です。
企業が講ずるべき対策
上記にあるように、企業はパワーハラスメントの防止のために、
①労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
②その他の雇用管理上必要な措置
を取ることが義務付けられます。
雇用管理上必要な措置の具体的内容等については、今後指針において示される予定です。
3.労働者への不利益な取扱いを禁止
改正法30条の2第2項において、「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と規定し、パワーハラスメントについて相談を行った労働者への不利益な取扱いを禁止しています。
4.研修の実施その他の必要な配慮
改正法30条の3第2項では「事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。」と規定し、企業に対しパワーハラスメントに関する研修の実施やその他必要な配慮をするよう努力義務が定められています。
5.事業主(企業の役員)自身も関心理解を深めるよう努力義務
改正法30条の3第3項では、「事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。」と規定し、事業主(企業の役員)自身に対しても努力義務を課しています。
6.企業が適切な措置を講じていない場合
以上見てきました通り、今回の法改正では、企業に対しパワーハラスメントの防止措置を義務づけはしていますが、パワーハラスメントの行為そのものを禁止する規定は設けておらず、罰則規定もありません。そのため、実効性が担保されないといった問題点も指摘されています。しかし、企業が適切な措置を講じていない場合には是正指導の対象となることや、行政指導をしても改善がなければ企業名を公表する場合があること、紛争が生じた場合、調停など個別紛争解決援助の申出を行うことができるようになることなど、一定の抑止力にはなりえると思われます。今後公表される指針に注視し、社内の体制整備を万全にしておきたいものです。
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