溝口知実
第73回  投稿:2025.07.17 / 最終更新:2025.07.17

令和7年6月成立 年金制度改正法のポイント

人事給与統合システム×人事給与アウトソーシング

こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。

本年6月13日、「年金制度改正法」(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)が成立しました。

改正の意義としては、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度の構築と、所得再分配機能の強化や私的年金制度の拡充等により高齢期における生活の安定を図るためのものです。働き方の多様化や家族の在り方の変化に対応した内容となっており、個人にとっても企業にとっても大きな影響を及ぼすものと思われます。

年金制度改正法のポイント

今回は、年金制度改正法のポイントを確認していきたいと思います。

1.主な改正事項

(1)社会保険の適用拡大

①短時間労働者に係る賃金要件の撤廃、企業規模要件の撤廃

現行制度では、パートタイマー等の短時間労働者は1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上であれば社会保険に加入することになっています。また、週所定労働時間等が正社員の4分の3未満であっても、50人を超える適用事業所に勤務し、以下の要件を満たす人は、社会保険に加入することになっています。

 a.週の所定労働時間が20時間以上
 b.賃金月額8.8万円以上(年収換算で106万円以上)
 c.学生でない

改正では、このうち、b.の賃金要件(いわゆる「年収106万円の壁」)が撤廃されます(実施時期は公布から3年以内)。

さらに、「50人を超える適用事業所」という企業規模要件について、10年かけて段階的に撤廃されます。

現在の企業規模51人以上→令和9年10月36人以上→令和11年10月21人以上→令和14年10月11人以上→令和17年10月撤廃

②個人事業所における非適用事業所の解消

これまで社会保険の適用対象外であった常時5人以上雇用する個人事業所(農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等)が、適用事業所となります(実施時期は令和11年10月)。ただし、施行日前から開業している既存事業所は、当分の間適用除外のままとなります。

(2)在職老齢年金制度の見直し

 老齢厚生年金を受給しながら働く場合、「在職老齢年金制度」の仕組みにより、老齢厚生年金と賃金の合計額が一定の基準額を超えると老齢厚生年金が減額となる仕組みとなっています。現行では、この基準額は月51万円となっていますが、改正により月62万円に引き上がります。これにより年金を受給しながら働く高齢者が、より年金を受給しやすくなります。

(3)遺族年金の見直し

現行の年金制度では、遺族年金の受給要件に男女による差が生じています。例えば夫が死亡した時に妻が30歳以上で、その妻に18歳未満の子のいない場合、遺族年金が生涯受給されるのに対し、夫については妻が死亡時に夫が55歳以上でないと遺族年金自体を受け取れません。こういった男女差を解消するため、男女ともに、配偶者と死別した時に18歳未満の子のいない60歳未満の妻・夫は原則5年の有期給付とし、60歳以降で死別した場合は無期給付とします。男性は令和10年4月から、女性は令和10年4月から20年かけて段階的に実施される予定です。

これに伴う配慮措置等として、5年経過後の給付の継続、死亡分割制度及び有期給付加算の新設、収入要件の廃止、中高齢寡婦加算の段階的見直しが行われます。

(4)厚生年金保険等の標準報酬月額の段階的引き上げ

厚生年金保険の標準報酬月額の上限額について、負担能力に応じた負担を求め、将来の年金給付を充実する観点から、現行の65万円から令和9年9月から68万円、令和10年9月から71万円、令和11年9月から75万円と、3年間にわたり段階的に引き上げられます。

(5)私的年金制度の見直し

①私的年金制度であるiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入対象者について、現行では原則65歳未満の国民年金被保険者とされていましたが、改正後は、70歳未満に引き上げられることになります。ただし老齢基礎年金やiDeCo老齢給付金を受給している人は対象から除かれます(実施時期は公布から3年以内)。

②企業型DC(確定拠出年金)について、事業主の拠出に上乗せして掛金を拠出する従業員のマッチング拠出額が事業主掛金を超えてはならないという制限があるところ、改正後はその制限が撤廃されます(実施時期は公布から3年以内)。これにより、老後資産形成の自由度がさらに高まることが期待されます。

(6)将来の基礎年金の給付水準の底上げ

賃金や物価が伸びるときに、年金給付の伸びを一定期間抑えるしくみ(マクロ経済スライド)が実施されています。少子高齢化が進む中にあっても持続可能性を確保するために必要な仕組みですが、経済が好調に推移せず、基礎年金のマクロ経済スライドが長期化する場合は厚生年金受給者を含む所得の低い受給者の給付水準が低下してしまうことになります。

そのため、次期財政検証(令和11年の予定)において、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に、給付と負担の均衡をとりつつ、厚生年金受給者も含む将来の基礎年金の給付水準を向上させるため、基礎年金のマクロ経済スライドの調整を早く終わらせるように必要な法制上の措置を講じることとされました。

今回の改正は、働き方やライフスタイル、家族構成の多様化への対応、不公平感のあったルールの見直し、高齢化社会へ備えた制度の持続可能性強化などを盛り込んだ大幅な改正となりました。多岐に渡り、実施が複数年にわたっています。働く個人や受給者のみでなく、企業にとっても大きな影響を受けることとなりますので、企業の担当者の方は改正に関する最新情報を今後も確認していきましょう。

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