「ワーク・ライフ・バランス」が経営戦略と言われる理由とは?
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。
ここ数年、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、現実にはワーク・ライフ・バランスを実践している企業はさほど多くはなく、またワーク・ライフ・バランスに対する固定観念も根強くあるのが実情です。たとえば、仕事と生活の「バランス」を同じような配分で釣り合わせることであるとか、仕事はほどほどにやればよいと推奨する概念であるとか、主として育児中の女性を支援するものであるとか、コストがかかるので一部の大企業向けで中小企業には導入が難しい、などという声をよく聞きます。しかし一方で、ワーク・ライフ・バランスを推進している企業の多くは、ワーク・ライフ・バランスを経営戦略として位置づけています。今回は、ワーク・ライフ・バランスとは何か、また経営戦略と言われる理由について考えていきたいと思います。
「ワーク・ライフ・バランス」とは、下記のように定義されています。
・仕事と生活の調和が実現した社会は、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」(「ワーク・ライフ・バランス憲章」)
・老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態である。(「「ワーク・ライフ・バランス」推進の基本的方向報告」(平成19年7月男女共同参画会議 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会)
人生のステージにおいて、出産、育児、自身の病気や親族の介護など置かれた状況は変化します。そのステージごとに、また個人によっても、仕事と生活のバランスは多様に変化します。そのような変化を柔軟に受け入れながら仕事の責任を果たしていくことがワーク・ライフ・バランスの概念です。
企業側でも、労働者人口の減少や労働生産性の低下などに伴い、人的資源の有効活用が経営課題として挙げられています。長時間労働の抑制、生産性・業績の向上、優秀な人材の確保を図るために、ワーク・ライフ・バランスを「経営戦略」と捉え活用していこうという流れが起きています。
ワーク・ライフ・バランスというと、育児や介護など仕事をする上で制約のある従業員に対して仕事と家庭の両立を支援することが中心であると考えられがちですが、そのような制約を抱えない従業員であっても、仕事と生活に満足しながら働くことができ、いずれなんらかの事情で制約を抱えるようになったとしても働き方を大きく変えずに責任を果たすことができるよう、取り組みの対象は全従業員となります。
取り組みは、「限られた時間の中でいかに効率的に仕事を進めて終わらせるか」を意識しつつ「働き方の見直し」を行います。具体的な手法として、業務の洗い出しや漫然とした会議の見直し、従業員同士のスキルや知識の伝達、パソコン等ツールの活用による作業効率化などが挙げられます。従業員が効率的な業務遂行能力を身につけることにより労働生産性が高まり、また恒常的な長時間労働を是正することができます。長時間労働が慢性化している職場では、ミスの多発、人件費や光熱費等の経費の負担、うつ病などの精神疾患に罹患する確率の増大などのリスクを抱えています。働き方の見直しをすることで、このようなリスクを軽減することができ、また、定時退社、ノー残業デーや有給休暇の取得等が促進され、従業員は家族とのコミュニケーション、地域活動、趣味、自己啓発などに積極的に取り組むことができます。
企業にとっても、従業員の充実した生き方を支援することにより、従業員のモチベーションアップ、離職率の低下、高業績従業員の定着、優秀な人材の確保、人件費等のコスト削減、生産性と企業業績の向上、企業価値の向上など様々なメリットがあります。ワーク・ライフ・バランスが「経営戦略」と言われるのはこのためです。
ワーク・ライフ・バランスの施策内容は、企業の規模、業種、従業員の属性(年齢や性別構成、職種、勤務形態等)、企業風土等により多種多様です。同業他社が導入し成功した施策を実行したとしても、成功するとは限りません。自社にとっての経営課題、経営戦略から落とし込み、人材活用戦略を明確にしながら無理のない範囲で実践することが成功のカギとなります。
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