溝口知実
第59回  投稿:2023.02.28 / 最終更新:2023.02.27

本年4月に中小企業に適用される月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引上げについて

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こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。本年4月1日から、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、中小企業に対しても引き上げられます。今回は、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率に関する改正の概要とその対応策について述べたいと思います。

 

1.改正の概要

労働基準法では、週40時間、1日8時間を超える時間外労働をさせた場合には、時間外労働に対して、使用者は25%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定めています。2010年4月の法改正において、特に長い時間外労働を強力に抑制することを目的として、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間の労働について、法定割増賃金率を25%以上の率から50%以上の率に引き上げとなりました。

ただし、中小企業に対しては、この引き上げが2023年3月まで猶予されていました。いよいよ猶予期間あけの本年2023年4月1日からは、中小企業に対しても、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が、25%以上の率から50%以上の率に引き上げられることとなります。

 

2.深夜労働の取扱い

深夜(22時から朝の5時まで)の時間帯に行った労働に対しては、使用者は、25%以上の率の深夜割増率で賃金を支払う必要があります。

月60時間を超える時間外労働を深夜の時間帯に行わせる場合は、

深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%の割増賃金を支払うこととなります。

割増賃金率の引き上げ

3.休日労働の扱い

1週間に1回または4週間に4回の付与が義務付けられている法定休日(たとえば日曜日)に行った労働に対しては、35%以上の率の割増率で賃金を支払う必要があります。

月60時間の時間外労働時間の計算には、法定休日に行う労働時間は含まれません。ただし、法定休日以外の休日(たとえば土曜日)に行った法定時間外労働は、月60時間の時間外労働時間の計算に含みますので、注意が必要です。

 

4.代替休暇の付与

月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与することができます。

代替休暇の時間数は、1か月60時間超の時間外労働時間に対する割増賃金率の引上げ分(50%以上-25%以上)の割増賃金額に対応する時間数となります。

代替休暇の制度を設ける場合は、労使協定を締結する必要があります。労使協定で定める事項は下記の4項目です。

①代替休暇の時間数の具体的な算定方法

②代替休暇の単位

③代替休暇を与えることができる期間

④代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

労使協定の締結により代替休暇の制度を設けることが可能になりますが、労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではありません。そのため、労働者が実際に代替休暇を取得するか賃金として受け取るかは、労働者が決定することとなります。

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5.就業規則の変更

割増賃金率の引き上げにより、割増賃金の計算方法を変更する必要があるため、1か月60時間を超える時間外労働が見込まれており、常時10人以上の労働者を使用している事業場では、就業規則を変更して、所轄労働基準監督長に届け出る必要があります。

また、代替休暇を導入する場合は、労使協定と合わせて、就業規則にも記載(賃金の決定、計算及び支払の方法、休暇について)する必要があります。

 

6.改正に向けての対応策

改正への対応としては、まずは労働時間を正確に把握すること、そして正しく割増賃金を計算する必要があります。労働時間が月60時間を超える場合は50%以上の割増賃金を正確に支払うこと、労使協定を締結し代替休暇を導入する場合は代替休暇の管理も不可欠です。

その上で、月60時間を超える時間外労働が発生しない取り組みを検討しましょう。勤怠管理システムに備わっている、時間外労働が一定のラインを超えると、アラートで通知される機能や、勤務時間をリアルタイムに集計する機能などを、効率的に利用しましょう。

今回の改正は、特に長い時間外労働を強力に抑制することを目的としています。これを機に、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう取り組みを進めていきましょう。

 

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