労働基準法大改正の検討内容と今後の動向
目次
こんにちは。特定社会保険労務士の溝口知実です。労働基準法の40年ぶりともいえる大幅な改正が2026年の施行を目標に検討が進められてきましたが、高市新政権下で「労働時間規制緩和」が打ち出されたことを背景に、一旦見送りとなりました。日本成長戦略会議に労働市場改革の分科会が設けられ、引き続き議論を深めていく方針です。
今回は、議論されていた改正の内容を確認し、改正の方向性を探ります。

議論されていた労働基準法の改正の内容
議論されていた労働基準法の改正の内容は以下の通りです。
1.連続勤務の規制
現行制度では、4週間に4日の休日を設ける変形休日制が認められており、48日連続勤務が可能となっています。労災保険における精神障害の認定基準では2週間以上休日のない連続勤務を行ったことによる心理的負荷が具体的出来事の一つとして評価されていることから、「13日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の連続勤務の上限規制の導入が検討されていました。
2.法定休日の特定
現行法では週1回または4週4日の法定休日が確保されていればよく、法定休日の特定は求められていません。週休2日制が普及してきている現状では、1週の中に法定休日と所定休日が混在している場合が多く、いずれの休日が法定休日なのかが不明確であることから、あらかじめ特定した法定休日が確保されることを義務化する案が検討されていました。
3.勤務間インターバル
勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組みのことです。労働時間等設定改善法の施行により、2019年4月よりその導入は事業主の努力義務となっていますが、抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討されていました。
4.つながらない権利
スマートフォンやタブレット端末等の普及により、常時アクセス可能な環境が整っているために、勤務時間外に対応を余儀なくされ、私生活と業務との切り分けが曖昧になることが課題とされています。勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ルールを労使で検討していくためのガイドラインの策定等が検討されていました。
5.年次有給休暇の賃金の算定方法
現行法では、有給休暇を取得した際の賃金について、
(1)平均賃金
(2)所定時間労働した場合に支払われる通常の賃金
(3)健康保険法上の標準報酬日額
のいずれかを支払わなければならないとされています。
月給制の場合は、(2)の方法により月給から減算しないという手法がとられることが多い一方、日給制・時給制は、(1)や(3)の手法がとられてしまうと、計算式上賃金が大きく減額されてしまう恐れがあります。そのため、日給制・時給制であっても、原則として(2)の手法をとるようにしていくべきではないかと検討されていました。

6.副業・兼業の場合の割増賃金
現行制度では、副業や兼業を行っている場合、労働契約の締結順で所定労働時間を通算するなどして割増賃金を支払う取扱いとなっており、複雑な制度運用が求められるものとなっています。このことが、副業促進の妨げとなっているとの指摘もあります。こうした現状を踏まえ、労働者の健康確保のための労働時間の通算は維持しつつ、割増賃金の支払いについては、通算を要しない制度への改正が検討されていました。
7.過半数代表者の選出手続きの見直し
労使協定の締結等を行う過半数代表者について、選出方法が適切に行われていないことやその役割を果たすことが労働者にとって負担であることなどの課題が指摘されています。「過半数代表」や「過半数代表者」の定義や過半数代表者の選出手続き等を明確にし、また使用者から過半数代表者に情報提供を行うなど、実質的で効果的な労使コミュニケーションの在り方が検討されていました。
8.企業による労働時間の情報開示
労働時間を企業内外に情報開示する取り組みを進めることが検討されていました。求職者にとっては各企業の労働時間や休日の取りやすさなどの情報を得ることができ、時間外・休日労働の短縮や、労働環境の改善につなげる効果などが期待されます。
9.部分フレックスタイム制の導入
現行制度ではフレックスタイム制を部分的に適用することはできず、テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にフレックスタイム制を活用しづらい状況となっています。そこで、テレワーク日と通常勤務日が混在するような場合にも活用しやすいよう、部分フレックスタイム制度の導入が検討されていました。これにより、特定の日については就業規則等で定められた始業・終業時刻どおり出退勤し、それ以外の日は労働者が部分的にフレックスタイム制度を活用できるようになります。
10.テレワーク時のみなし労働時間制
仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて、労働者が選択できる制度として、実効的な健康確保措置を設けた上で、在宅勤務に限定した新たなみなし労働時間制の導入が検討されていました。
11.週44時間の特例措置の撤廃
法定労働時間を週44時間とする特例措置の対象事業場について、87.2%の事業場がこの特例措置を使っていない現状から、概ねその役割を終えていると考えられます。業種による労働時間の実態を踏まえ、状況の違いを把握しつつ特例措置の撤廃の方向で検討されていました。
12.管理監督者等の見直し
管理監督者等について、労働安全衛生法では労働時間の状況の把握が義務化され、長時間労働者への医師による面接指導の対象とされてはいるものの、労働基準法では特別な健康・福祉確保措置は設けられていません。
この点につき、管理監督者等に関する健康・福祉確保措置についての見直しが検討されていました。
また、本来は管理監督者等に該当しない労働者が管理監督者等と扱われている場合があることから、その要件の明確化が検討されていました。
今後の動向
今回の改正案は、多様な働き方の推進や労働時間法制の基盤を抜本的に見直すことを軸に議論され、2026年通常国会への提出が予定されていましたが、2025年12月、高市内閣の方針により、労働時間規制緩和が打ち出され、労働基準法改正案には一旦見送りとなり、検討の継続が発表されました。
高市総理は昨年10月の就任時、上野賢一郎厚生労働大臣に「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討を行うこと」を指示しており、今後は「心身の健康維持と選択を前提にした緩和」という条件のもと、新たな検討項目も加え議論の仕切り直しを行うものと思われます。労働時間法制の多角的な検討や、2月20日の施政方針演説にて言及された「裁量労働制」の見直しも議論に加わるものと思われます。
労働基準法の改正に向けた議論は更に深まることとなります。企業担当者としては、今後の政策動向を注視していきましょう。
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