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第107回  投稿:2025.02.19 / 最終更新:2025.02.10

賃金請求権の消滅時効の延長

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2020年4月1日以降、賃金請求権の消滅時効が延長されています。2023年3月以降は、法改正により延長された消滅時効がすべて反映されます。

賃金請求権の消滅時効が延長されたことにより、賃金台帳等の記録の保存期間や付加金の請求期間も延長されています。

今回は、それらの改正について改めて説明していきたいと思います。

賃金請求権の消滅時効期間の延長

2020年3月31日以前は、賃金請求権の消滅時効期間は2年間となっていました。法改正により、2020年4月1日以降はその期間が5年に延長されています。ただし、2年から5年にすぐになったわけではなく、当分の間は「3年間」で賃金債権は時効により消滅します。

なお、退職金請求権の消滅時効期間などは、これまでの5年のまま変更されていません。

時効期間が延長される対象は、次の通りです。


・金品の返還(労基法23条、賃金の請求に限る)
・賃金の支払(労基法24条)
・非常時払(労基法25条)
・休業手当(労基法26条)
・出来高払制の保障給(労基法27条)
・時間外・休日労働等に対する割増賃金(労基法37条)
・年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)
・未成年者の賃金(労基法59条)

この中で一番気になるのは、未払い残業代など賃金の請求に関する部分だと思います。

賃金の請求権の時効の起算日は、賃金の支払日になります。2020年3月31日までに支払日を迎えていた賃金については、従前の「2年」の消滅時効が適用されていましたので、2022年3月までにすべて消滅しています。

2020年4月1日以降に支払日を迎えた賃金は「3年」の消滅時効になっているので、2023年3月以降は、まるまる3年の請求ができることになります。

さらに、労働基準法第37条に定める時間外・休日労働等に対する割増賃金は、2023年4月から中小企業であったとしても1ヶ月の時間外労働が60時間を超えると、割増賃金率が変わります。

 割増賃金を支払う場合割増賃金率
1時間外労働2割5分以上
2休日労働3割5分以上
3法定労働時間内の深夜労働2割5分以上
4法定労働時間外の深夜労働5割以上(1+3)
5休日深夜労働6割以上(2+3)
660時間を超えた時間外労働5割以上
7法定労働時間外(60時間を超える)の深夜労働7割5分以上(3+6)

これまでは、60時間を超える残業を行ったとしても、2割5分以上の割増賃金率で計算すれば問題はありませんでした。2023年4月以降は、時間外労働が60時間を超えてしまうと、割増賃金率を5割以上で計算する必要があります。さらにそれが深夜時間帯におよぶと7割5分以上での計算となります。割増賃金の金額は、飛躍的に大きくなっていきます。

万が一、割増賃金を支払っていないとすると、労働者から請求があった場合、最大で3年間の割増賃金を支払う必要がでてきます。時間外労働や休日労働時間数にもよりますが、支払う金額が高額になる可能性が高いと考えられます。

これからはより一層、残業時間を適正に把握して毎月清算していくことが重要になります。未払いの割増賃金は、労働者に対する負債となります。負債は積み上げてないという意識を持つ必要があります。

賃金台帳などの記録の保存期間

賃金台帳などの記録の保存期間については、2020年3月31日以前は3年間となっていました。この保存期間も、2020年4月1日以降は5年に延長されています。

ただし、3年から5年にすぐに延長されるのではなく、当分の間はこれまでと同様に3年間で良いことになっています。

保存期間延長の対象となっている記録は、次の通りです。


・労働者名簿
・賃金台帳
・雇入れに関する書類:雇入決定関係書類、契約書、労働条件通知書、履歴書など
・解雇に関する書類:解雇決定関係書類、予告手当または退職手当の領収書など
・災害補償に関する書類:診断書、補償の支払、領収関係書類など
・賃金に関する書類:賃金決定関係書類、昇給減給関係書類など
・その他の労働関係に関する重要な書類:出勤簿、タイムカードなどの記録、労使協定の協定書、各種許認可書、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類、退職関係書類など
・労働基準法施行規則、労働時間等設定改善法施行規則で保存期間が定められている記録
・金品の返還(労基法23条、賃金の請求に限る)
・賃金の支払(労基法24条)
・非常時払(労基法25条)
・休業手当(労基法26条)
・出来高払制の保障給(労基法27条)
・時間外・休日労働等に対する割増賃金(労基法37条)
・年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)
・未成年者の賃金(労基法59条)

賃金の支払いに関する書類についても、支払日が記録の保存期間の起算日となります。たとえば、給与の計算期間が4月1日から4月30日で給与支払日が5月15日だった場合は、4月の賃金支払期日である5月15日が記録保存の起算日になります。

付加金の請求期間の延長

2020年4月1日以前については、付加金の請求期間は2年間となっていました。その期間が、2020年4月1日以降は5年に延長されています。ただし、2年から5年にすぐに延長されるのではなく、賃金の請求権の消滅時効に合わせ、当分の間は3年間とされています。

付加金制度の対象は、次の通りです。


・解雇予告手当(労基法20条1項)
・休業手当(労基法26条)
・割増賃金(労基法37条)
・年次有給休暇中の賃金(労基法39条9項)

付加金という言葉が聞きなれない方もいらっしゃると思います。付加金は、解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年次有給休暇中の賃金を支払ってもらえなかった労働者が、裁判所に請求を行うことができる制度です。

労働者の請求を受けた裁判所は、使用者に対して、未払金と付加金の支払いを命令することができます。

付加金の金額は、労働者が受け取るべき金額(未払金)と同一額の支払いを裁判所は命じることができます。つまり、支払うべき金額が2倍になる可能性があるということです。

今回は、賃金請求権の消滅時効期間の延長等を説明しました。

後でまとめた金額を支払うことになりかねませんので、しっかりとした適正な時間管理を行った上で、割増賃金などはきちんと清算していくことがより一層重要になります。


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