平均賃金の計算方法
目次
休業手当の計算や休業補償給付金の申請をするときなどは、平均賃金を計算する必要があります。平均賃金が1ヶ月の給与額や基本給と同じと思われている方もいらっしゃるようですが、平均賃金は給与の額面とは異なります。
平均賃金の計算が正しく行われないと、休業手当や休業補償給付金の金額が誤ってしまいます。今回は、平均賃金の基礎について説明していきます。
平均賃金とは
平均賃金は、従業員の生活を保障するために存在をしています。そのため、事由が発生した直近の給与金額を反映する仕組みとなっています。
原則的な平均賃金は、事由の発生した日以前3ヶ月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額です。
暦日数で計算するため、パートタイマーのように時給や日給、あるいは出来高や歩合で賃金が支払われている場合は、労働日数が少ないと金額が小さくなります。そのため、極端に平均賃金が低くならないように最低保障額も設定されています。
最低保障額は、給与総額を労働日数で除した金額の60%に当たる額です。この最低補償額が通常の方法で計算をした額よりも高い場合は、最低補償額が適用されます。
賃金の総額には、通勤手当、精皆勤手当、年次有給休暇の賃金、通勤定期券代、昼食料補助等も含まれます。また現実に支払われた賃金だけでなく、まだ支給日が来ていなくても、平均賃金を計算する事由が発生した日より前の賃金は支給したものとして計算します。
ベースアップがすでに確定している場合も差額を算入し、6ヶ月通勤定期なども1ヶ月ごとに支払われたものとみなして計算します。
ただし、次の賃金については賃金総額から控除します。
・臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、加療見舞金、退職金等)
・3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(四半期ごとに支払われる賞与など、賞与であっても3ヶ月以内ごとに支払われる場合は算入されます。)
・労働協約で定められていない現物給与(なお、労働協約によらない現物給与は違法です。)
平均賃金を使用するケース
平均賃金を用いて計算するのは、以下の場合となります。これらは、労働基準法や労働者災害補償保険法に根拠があります。
1)労働者を解雇する場合の予告に代わる解雇予告手当:平均賃金の30日分以上
2)使用者の都合により休業させる場合に支払う休業手当:1日につき平均賃金の6割以上
3)年次有給休暇を取得した日について平均賃金で支払う場合の賃金
4)労働者が業務上負傷し、もしくは疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償等
*休業補償給付など労災保険給付の額の基礎として用いられる給付基礎日額も原則として平均賃金に相当する額とされています。
5)減給制裁の制限額:1回の額は平均賃金の半額まで、複数回制裁する際は支払賃金総額の10%まで
算定事由発生日とは
算定事由発生日とは、簡単に言ってしまうと平均賃金の計算をする必要がある事由が発生した日となります。それぞれ以下のように定められています。
1)解雇予告手当の場合は、労働者に解雇の通告をした日
2)休業手当・年次有給休暇の賃金の場合は、休業日・年休日(2日以上の期間にわたる場合は、その最初の日)
3)災害補償の場合は、事故の起きた日または、診断によって疾病が確定した日
4)減給の制裁の場合は、制裁の意思表示が相手方に到達した日
実際の計算では算定事由発生日から3ヶ月間を計算するのではなく、賃金締切日がある場合は、算定事由発生日の直前の賃金締切日から遡って3ヶ月で計算をします。
賃金締切日に算定事由が発生した場合は、その前の締切日から遡ることになります。
平均賃金の計算
それでは、実際に例を使って平均賃金の計算を行ってみましょう。
(ケース1 月給の場合)
給与の締日:末日、給与総額:300,000円(月給)、算定事由発生日:8月2日 算定事由発生日が8月2日のため、7月31日の給与締切分から3ヶ月間を遡ることになります。 ・7月1日から7月31日:給与総額:300,000円:暦日数31日 ・6月1日から6月30日:給与総額:300,000円:暦日数30日 ・5月1日から5月31日:給与総額:300,000円:暦日数31日 この3ヶ月の給与総額は、900,000円で、暦日数は92日です。したがって、このケースの場合の平均賃金は次の金額になります。 900,000円÷92日= 9,782.60円 (銭未満切捨て) |
(ケース2 日給や時給の場合)
給与の締日:末日、給与総額:10,000円(日給)、算定事由発生日:8月31日 算定事由発生日が8月31日の賃金締切日当日のため、7月31日の給与締切分から3ヶ月間を遡ることになります。 ・7月1日から7月31日:給与総額:220,000円:暦日数31日:労働日数22日 ・6月1日から6月30日:給与総額:230,000円:暦日数30日:労働日数23日 ・5月1日から5月31日:給与総額:210,000円:暦日数31日:労働日数31日 先ほども触れたように、時給や日給等の場合は、原則の計算と、最低補償額の2通りの計算を行う必要があります。 まず、原則の方法で計算を行います。 この3ヶ月の給与総額は、660,000円で、暦日数は92日です。したがって、このケースの場合の原則の方法での平均賃金は次の金額になります。 660,000円÷92日= 7,173.91円 (銭未満切捨て) 次に最低保障額の計算を行います。最低保障額を計算する場合は、暦日数ではなく労働日数で計算をします。また、60%を乗じて計算をしますので、注意しましょう。 この3ヶ月の給与総額は、660,000円で、労働日数は66日です。したがって、このケースの場合の最低補償額は次の金額になります。 660,000円÷66日×60%= 6,000.00円(銭未満切捨て) 原則の方法で計算した 7,173.91円と 最低補償の 6,000.00円を比較すると、通常通りに計算をした金額が高くなるため、7,173.91円がこのケースの平均賃金になります。 |
今回は、平均賃金について説明しました。平均賃金という言葉を聞く機会はあっても、実際に計算するとなると、自信がないという方もいらっしゃると思います。
最低補償は、計算の最後で60%を乗じることから、おおむね労働日数が暦日数の6割以下のパートタイマーなどが対象になります。また、平均賃金の算出は、銭未満を切り捨てますが、休業日数等を乗じて最終の金額(休業なら休業手当)を計算する場合には、支給額は円未満を四捨五入します。
今回説明した内容は、基礎的な計算方法です。入社3ヶ月になる前に事由が発生するなど、特殊な計算をするケースもありますので、実際に計算する場合は確認してから行うようにしましょう。
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