年収の壁・支援強化パッケージ
目次
前回お伝えした通り、2023年9月27日には厚生労働省から「年収の壁・支援強化パッケージ」が発表されました。今回の措置の内容は、これまでの制度を大きく変えるものではなく、特例の措置を積み上げることにより、年収の壁を緩和しようとするものです。
今回は、特例措置の内容をみていきたいと思います。
1.106万円の壁への対応
106万円の壁への対応は、「キャリアアップ助成金の拡充」と「社会保険適用促進手当の標準報酬からの除外」の2点になります。
前回も説明したように、106万円の壁が発生するのは、社会保険の被保険者数が101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業です。
対応策を簡単にまとめると、社会保険に加入することによって減ってしまう手取りを補填するため、「企業に助成金を出して賃上げさせる」「手当で賃上げした分は社会保険の保険料の算定対象にしない」という内容になっています。
1)キャリアアップ助成金のコースの新設
106万円の壁への対応として、キャリアアップ助成金が拡充されることになりました。
拡充の内容は、短時間労働者が新たに被用者保険の適用となる際に、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対して、一定期間、労働者1人当たり最大 50万円を助成するというものです。
助成対象となる労働者の収入を増加させる取り組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険の保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることになっています。
また、助成金の支給申請の際は、提出書類の簡素化など事務負担も軽減される予定になっています。
2)社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
短時間労働者への被用者保険の適用を促進する観点から、被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合に、事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができることになりました。
「社会保険適用促進手当」は、労使双方の社会保険料負担を軽減する観点から、労働者本人負担分の保険料相当額を上限として最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないことになりました。
また、「社会保険適用促進手当」によって、標準報酬月額・標準賞与額の一定割合を追加支給した場合、1)のキャリアアップ助成金の対象にもなります。
2.130 万円の壁への対応
130万円の壁への対応として、「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」が図られました。
これまでのルールでも、一時的に収入が増加し、直近の収入に基づく年収の見込みが 130 万円以上となってしまっても、すぐに被扶養者認定を取り消されずに、総合的に将来収入の見込みを判断することになっています。
しかし、実際には直近の収入が多いと被扶養者認定が取り消されるケースもあったようです。今回の対策では、この部分が明確になったということになります。
これまでは、収入を証明するために提出する書類は、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等を、保険者に提出していました。
これからはこれらの添付書類に加えて、一時的な収入の増加である場合には、「人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である」旨の事業主の証明を添付することで被扶養者の認定を受けられることになりました。
この認定は、あくまでも「一時的な事情」として認定が行われますので、同一の者については原則として連続2回までが上限になります。したがって、一時的な収入変動の場合、おおむね2年間は扶養家族でいられるということになります。
3.配偶者手当への対応
106万円の壁、130万円の壁への対応とは別に、企業における配偶者手当の見直し促進も図られます。
企業によって配偶者手当や家族手当など名称や支給要件はそれぞれですが、配偶者に対する手当は配偶者の収入に制限を設けていることが一般的です。そのため、配偶者手当等の収入要件が、社会保障制度とともに、就業調整の要因となっていると考えられています。
そのため、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むように、厚生労働省が見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成し、公表することになりました。
配偶者手当等を見直す場合は、就業規則や給与規程等も変更する必要があります。ケースによっては、「労働条件の不利益変更」に当たる可能性もあります。
こちらは、今後見直し手順等が公表された場合に、随時紹介をしたいと思います。
今回は、「年収の壁・支援強化パッケージ」について説明してきました。今回は、行政が民間企業の施策である配偶者手当にも言及したことに大きな特徴があります。
また、被扶養者認定は行政だけでなく、健康保険組合に加入している企業ではその組合が実務を担うことになります。
今後の厚生労働省や健康保険組合の対応や詳細を注視するようにしましょう。
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第116回年収の壁・支援強化パッケージ
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第115回社会保険の扶養家族の年収の壁
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第114回令和5年度の最低賃金
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第113回平均賃金の計算方法
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第112回有給休暇の買上げ
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第111回運賃改定と社会保険
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第110回現物給与の価額変更
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第109回賃金のデジタル通貨払い
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第108回令和5年度の雇用保険の料率
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第107回賃金請求権の消滅時効の延長
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第106回月60時間超の残業の割増率と代替休暇
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第105回令和5年からの源泉徴収事務の変更点
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第104回育児休業の社会保険料免除
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第103回デジタル通貨での給与の支払い
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第102回2022年10月からの給与計算の注意点
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第101回振替休日と代休の違い
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第100回産後パパ休暇と給与計算
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第99回社会保険の定時決定~その2
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第98回社会保険の定時決定~その1
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第97回雇用保険の料率変更
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第96回定年延長と退職金
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第95回夜勤シフトの割増賃金
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第94回休業補償と休業手当
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第93回社会保険の適用拡大について
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第92回令和3年の年末調整
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第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
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第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
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第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
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第88回感染対策費用の課税・非課税
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第87回兼業、副業の時間外手当
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第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
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第85回有給休暇と残業手当
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第84回在宅勤務手当の非課税計算
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第83回延長された社会保険の特例改定
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第82回育児・介護休業法の改正
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第81回年末調整のイレギュラー対応
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第80回年末調整の変更点~その2
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第79回年末調整の変更点~その1
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第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
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第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
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第76回寡婦控除の見直し
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第75回住民税の特別徴収
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第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
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第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
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第72回休業手当の計算方法
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第71回源泉所得税の仕組み
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第70回時間単位の有給休暇付与
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第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
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第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
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第67回フレックスタイム制の改正と残業代
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第66回健康保険の加入資格と保険料
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第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
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第64回介護保険料を徴収するタイミング
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第63回社会保険における賃金とは
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第62回労働保険における賃金とは
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第61回労働基準法における賃金とは
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第60回出来高払い制の残業代
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第59回休業手当の計算方法
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第58回賞与における所得税の計算
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第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
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第56回年末調整の変更点
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第55回社宅制度と労働保険料
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第54回社宅制度と社会保険料
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第53回住宅手当と社宅貸与の違い
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第52回退職金の税務計算
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第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
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第50回賃金支払いの5原則~その3
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第49回賃金支払いの5原則~その2
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第48回賃金支払いの5原則~その1
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第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
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第46回割増賃金の基礎となる賃金
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第45回年末調整の留意点~その2
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第44回年末調整の留意点~その1
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第43回退職者の住民税
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第42回労働時間の端数処理
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第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
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第40回賃金から控除できる項目と労使協定
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第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
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第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
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第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
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第36回最低賃金の仕組み
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第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
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第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
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第33回今年の年末調整の留意点
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第32回年末調整における海外居住の扶養家族
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第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
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第30回従業員が死亡したとき
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第29回雇用保険料と介護保険料の免除
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第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
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第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
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第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
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第25回1週間単位の変形労時間制度
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第24回フレックスタイム制の労働時間制度
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第23回1年単位の変形労時間制度
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第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
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第21回管理職への残業代の支払い
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第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
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第19回社会保険料の仕組みと変更時期
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第18回通勤費の決め方と非課税限度額
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第17回報奨金の現金支給や現物給与
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第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
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第15回有給休暇の付与と消滅
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第14回給与の支給日の決め方やその変更
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第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
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第12回標準報酬月額の随時改定
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第11回年間の給与計算の流れ
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第10回年末調整の後の諸手続き
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第09回離婚時の年金の分割制度
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第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
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第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
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第06回就業規則と給与計算の関係
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第05回給与から引かれるものは?
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第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
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第03回賞与の支給と給与計算
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第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
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第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料