雇用保険の加入要件
目次
2023年11月21日に、政府は雇用保険の加入要件である週の労働時間を2028年までに「20時間以上」から「10時間以上」に引き下げる方向で検討しているとの報道がありました。
これが実現した場合には、週の労働時間の引き下げによって約500万人が新たに加入をする見込みです。まだ検討を始める段階なので、実現するかはなんとも言えませんが、今回は、雇用保険の加入要件について整理していきます。
雇用保険の適用要件について
雇用保険の適用要件は、次の2つの要件を両方とも満たす必要があります。
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
報道によると、この条件を2028年までに「10時間以上」に引き下げる方向で検討されています。
2)31日以上継続して雇用することが見込まれること
次のようなケースでは、雇用契約期間が31日未満であっても、原則として、31日以上の雇用が見込まれるものとして、雇用保険が適用されます。
・雇用契約に更新する場合がある旨の規定があり31日未満での雇止めの明示がないとき
・雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用 された実績があるとき
基本的に、31日以上雇用が継続しないことが明確である場合以外は、「31日以上の雇用見込みがあること」に該当することになります。加入手続きや給与計算を行う際は、雇用契約の内容をしっかりと把握しておく必要があります。
この適用要件については、雇用形態(正社員やアルバイト等)や年齢に関係なく適用されます。複数の会社で就労する場合は、それぞれの事業所ごとに適用要件を判断します。
したがって、複数の会社で働いていたとしても、後で述べる65歳以上のダブルワーカー以外は、労働時間の合算は行いません。
雇用保険の被保険者とならない場合
次のいずれかに該当する場合は、雇用保険の被保険者となることはできません。
1)1週間の所定労働時間が 20 時間未満である者 2)同一の事業主の適用事業に継続して 31 日以上雇用されることが見込まれない者 3)季節的に雇用される者であって、4か月以内の期間を定めて雇用される者、 もしくは、1週間の所定労働時間が30時間未満の者 4)学校教育法第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校 または同法第134条に規定する各種学校の学生または生徒 ※ただし、卒業見込証明書を有する者であって卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一の事業主に 勤務することが予定され、一般労働者と同様に勤務し得ると認められる場合は被保険者となります。 また、通信教育、夜間、定時制の学生は被保険者となります。 5)船員であって、特定漁船以外の漁船に乗り組むために雇用される者 (1年を通じて船員として雇用される場合を除く) 6)国、都道府県、市区町村等の事業に雇用される者のうち、離職した場合に、 他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、 雇用保険の求職者給付および就職促進給付の内容を超えると認められる者 |
65歳以上でダブルワークをしている場合について
先ほど記したように、原則として、複数の会社で働いていたとしても労働時間の合算は行われません。そのため、複数の会社で短時間労働を行っている方だと、場合によっては雇用保険に加入できないといったケースが生じる可能性があります。
2022年1月1日から「65歳以上」の労働者に限って、2つの事業所の労働時間を合算して20時間以上となる場合は、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができます。
このの申出をできるのは、次のすべてを満たした労働者です。
1)複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること 2)2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の 労働時間を合計して、1週間の所定労働時間が20時間以上であること 3)2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること |
仮に、マルチ高年齢被保険者が失業した場合には、一定の要件を満たせば、高年齢求職者給付金を一時金で受給することができます。
今回は、雇用保険の加入要件について説明しました。
雇用保険の適用要件の一つである、「31日以上継続して雇用することが見込まれること」については、正しく運用されていないケースがあります。手続きが漏れていたり、給与から雇用保険料が徴収できていないといったことがないように、しっかりと確認をする必要があります。
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