専門業務型裁量労働制の法改正
2024年4月1日より、専門業務型裁量労働制のルールが改正されます。この改正によって、制度を新たに導入する会社だけでなく、これまで専門業務型裁量労働制を利用していた会社も、新たに準備をする必要があります。
今回は、専門業務型裁量労働制の法改正と割増賃金の計算方法を見ていきます。
専門業務型裁量労働制とは
専門業務型裁量労働制とは、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を労働者の裁量にゆだねることができる業務であれば、残業代の削減効果も期待できます。ただし、すべての業務で適用できるわけではなく、法令等により定められた業務だけが適用することができます。
専門業務型裁量労働制を導入するためには、労使協定を締結して事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出ることが必要になります。
法令で定める業務とは
現行の制度では、専門業務型裁量労働制を導入できる業種は「19業種」ですが、2024年4月以降については「20業種」となります。新たに加えられる業種は、「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)」です。
2024年4月以降に専門業務型裁量労働制を導入することができる業務は、以下のようになります。
1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務 2)情報処理システムの分析又は設計の業務 3)新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務 4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務 6)コピーライターの業務 7)システムコンサルタントの業務 8)インテリアコーディネーターの業務 9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 10)証券アナリストの業務 11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 12)学校教育法に規定する大学における教授研究の業務 13)銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づ く合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務) 14)公認会計士の業務 15)弁護士の業務 16)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務 17)不動産鑑定士の業務 18)弁理士の業務 19)税理士の業務 20)中小企業診断士の業務 |
これらの業務については部署などの名称や本人の保有資格だけではなく、対象者が実際にその業務を行っているかの実態で判断されます。したがって、これから導入を検討する会社は、対象者になるか否かを専門家や行政機関に確認してから検討した方が良いでしょう。
新たに加えられる手続きについて
法改正により、専門業務型裁量労働制を導入、あるいは継続する場合は「労働者本人の同意を得る」ことが追加されました。
そのため、労使協定で締結する項目が現行制度と比べて増えることとなります。
2024年4月以降に労使協定で締結する必要がある項目は、次のとおりです。
1)制度の対象とする業務(省令・告示により定められた20業務) 2)1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間) 3)対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が適用労働者に具体的な指示をしないこと 4)適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容 5)適用労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容 6)制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと 7)制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと 8)制度の適用に関する同意の撤回の手続 9)労使協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましいとされています。) 10)労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること |
割増賃金の計算方法
専門業務型裁量労働制を導入する際に、労使協定で1日あたりの労働時間を定めることになります。たとえば、1日あたりの労働時間を8時間と設定したとすると、8時間より短い労働時間でも長い労働時間でも、その日に労働した時間は8時間ということになります。
したがって、1日あたりの労働時間を8時間以下に設定しているのであれば割増賃金の支払いをする必要はありません。
ただし、休日出勤をした場合は注意が必要です。
たとえば、1日の労働時間を8時間と協定している会社で月曜日から金曜日まで出勤して、さらに土曜日も出勤してしまうと、週の労働時間が48時間になります。週の法定労働時間は40時間なので、この場合、専門業務型裁量労働制を導入していたとしても土曜日出勤分の8時間については割増賃金の支払いが必要になります。
また、深夜業や、休日に関する規定は排除されないため、法定休日に労働した場合や深夜に労働した場合はそれぞれ割増賃金を支払う必要があります。
専門業務型裁量労働制を導入すると、割増賃金の支払いは必要なくなると認識されている方がいらっしゃいますが、時間外手当や深夜手当の支払いがすべて不要になるわけではありません。
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