令和6年分所得税の定額減税月次減税事務
目次
2023年12月22日に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」で示された定額減税について、2024年3月28日に税制改正関連法が成立しました。これにより、2024年分の所得税と住民税について定額の特別控除(定額減税)が実施されます。
住民税の減税は市区町村で行いますが、給与所得者の所得税の定額減税は会社が実施します。今回の所得税の定額減税は、これまでになく複雑な制度です。実際の所得税の減税は、6月1日以降に支払われる給与や賞与で行います。

月次減税額の控除について
給与や賞与支払い時における、減税方法は以下のように行っていきます。
減税のタイミングは、2024年6月1日以後に支払う給与や賞与のうち、支給日が早いものからとなります。
1)控除前税額の計算
2024年6月1日以後に支払う給与や賞与について、現行の所得税法の規定等により控除前税額を求めます。
2)実際に源泉徴収する税額の計算
控除前税額と減税額を比較して、実際に源泉徴収する額を算出します。控除前税額で算出した税額が、定額減税額より多い場合と少ない場合で対応方法が変わります。
それぞれの対応方法をみていきましょう。
減税額が、控除前税額以下の場合(月次減税額の金額≦控除前税額の金額)
この場合には、月次減税額の全額が控除できるので、控除前税額から月次減税額を控除した差額が実際に源泉徴収する税額となります。 そして、その差額となる税額を源泉徴収して、月次減税事務が終了します。
したがって、差額が0円の場合は、その月の給与から実際に源泉徴収する税額はないことになります。
例:控除前税額50,000円で扶養者なしだった場合(定額減税額30,000円) 50,000円-30,000円=20,000円となり、20,000円を源泉徴収することになります。 |
減税額が、控除前税額を超える場合(月次減税額の金額>控除前税額の金額)
この場合には、月次減税額の一部については控除しきれないことになります。初回については、実際に源泉徴収する税額はありません。2回目以降の給与等の支払時においては、初回で控除しきれなかった部分の金額を限度として、その控除しきれない金額がなくなるまで、以後に支払う2024年分の給与や賞与に係る控除前税額から、順次控除することになります
例:控除前税額が20,000円で扶養者なしだった場合 初回で20,000円を控除するため、税額は0円となります。控除しきれなかった金額が10,000円残っている状態のため、2回目以降の給与や賞与で、残りの10,000円を控除します。 その後、全額を控除できるまで、これを繰り返します。 |
2024年中に控除しきれなかった場合の対応方法ですが、年末調整を行った上で、給与所得者の年調所得税額から控除しきれなかった年調減税額については、源泉徴収票(給与支払報告書)に年調減税額の控除外額として記載します。
2025年1月以降に支給される給与等に係る源泉徴収税額からは控除しませんので、ご注意ください。

給与支払明細書への控除額の表示について
給与支払者が月次減税額の控除を行った場合には、従業員の方へ交付する給与支払明細書の適宜の箇所に、月次減税額のうち実際に控除した金額を「定額減税額(所得税)×××円」または「定額減税××円」などと表示します。
なお、年末調整を行って支払う給与等に係る給与支払明細書については、源泉徴収票で定額減税額を把握することが可能であるため、定額減税額のうち実際に控除した金額の記載をする必要はありません。
納付書の記載と納付等
会社は、各月の月次減税事務の終了後、納付書(給与所得・退職所得等の所得税 徴収高計算書)に所要事項を記載した上で、納付すべき源泉徴収税額がある場合には法定納期限までに納付することになります。
この場合、納付書の「俸給・給料等」、「賞与(役員賞与を除く。)」、または「役員賞与」の「税額」欄には、各人毎の「控除前税額から月次減税額の控除を行った後の金額(その給与等から源泉徴収すべき税額)」を集計し、その金額を記入します。
前回の「 令和6年分所得税の定額減税の概要」と今回の2回にわたって、定額減税の月次減税事務について説明してきました。年末調整で行う定額減税の方法については、秋口に詳細が発表される予定です。
定額減税については報道も多くされているので、従業員の方も関心が高いと考えられます。間違った計算をしないように、しっかりと準備をする必要があります。
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第122回令和6年分所得税の定額減税月次減税事務
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第121回令和6年分所得税の定額減税の概要
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第120回社会保険、雇用保険の料率と社会保険適用拡大
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第119回企画業務型裁量労働制の法改正
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第118回専門業務型裁量労働制の法改正
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第117回雇用保険の加入要件
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第116回年収の壁・支援強化パッケージ
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第115回社会保険の扶養家族の年収の壁
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第114回令和5年度の最低賃金
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第113回平均賃金の計算方法
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第112回有給休暇の買上げ
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第111回運賃改定と社会保険
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第110回現物給与の価額変更
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第109回賃金のデジタル通貨払い
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第108回令和5年度の雇用保険料率
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第107回賃金請求権の消滅時効の延長
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第106回月60時間超の残業の割増率と代替休暇
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第105回令和5年からの源泉徴収事務の変更点
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第104回育児休業の社会保険料免除
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第103回デジタル通貨での給与の支払い
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第102回2022年10月からの給与計算の注意点
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第101回振替休日と代休の違い
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第100回産後パパ休暇と給与計算
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第99回社会保険の定時決定~その2
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第98回社会保険の定時決定~その1
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第97回雇用保険の料率変更
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第96回定年延長と退職金
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第95回夜勤シフトの割増賃金
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第94回休業補償と休業手当
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第93回社会保険の適用拡大について
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第92回令和3年の年末調整
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第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
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第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
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第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
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第88回感染対策費用の課税・非課税
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第87回兼業、副業の時間外手当
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第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
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第85回有給休暇と残業手当
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第84回在宅勤務手当の非課税計算
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第83回延長された社会保険の特例改定
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第82回育児・介護休業法の改正
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第81回年末調整のイレギュラー対応
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第80回年末調整の変更点~その2
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第79回年末調整の変更点~その1
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第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
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第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
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第76回寡婦控除の見直し
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第75回住民税の特別徴収
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第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
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第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
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第72回休業手当の計算方法
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第71回源泉所得税の仕組み
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第70回時間単位の有給休暇付与
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第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
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第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
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第67回フレックスタイム制の改正と残業代
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第66回健康保険の加入資格と保険料
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第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
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第64回介護保険料を徴収するタイミング
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第63回社会保険における賃金とは
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第62回労働保険における賃金とは
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第61回労働基準法における賃金とは
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第60回出来高払い制の残業代
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第59回休業手当の計算方法
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第58回賞与における所得税の計算
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第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
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第55回社宅制度と労働保険料
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第53回住宅手当と社宅貸与の違い
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第52回退職金の税務計算
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第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
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第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
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第45回年末調整の留意点~その2
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第44回年末調整の留意点~その1
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第43回退職者の住民税
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第42回労働時間の端数処理
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第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
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第40回賃金から控除できる項目と労使協定
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第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
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第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
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第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
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第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
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第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
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第32回年末調整における海外居住の扶養家族
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第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
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第30回従業員が死亡したとき
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第29回雇用保険料と介護保険料の免除
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第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
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第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
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第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
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第25回1週間単位の変形労時間制度
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第24回フレックスタイム制の労働時間制度
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第23回1年単位の変形労時間制度
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第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
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第21回管理職への残業代の支払い
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第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
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第19回社会保険料の仕組みと変更時期
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第18回通勤費の決め方と非課税限度額
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第17回報奨金の現金支給や現物給与
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第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
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第15回有給休暇の付与と消滅
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第14回給与の支給日の決め方やその変更
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第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
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第12回標準報酬月額の随時改定
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第11回年間の給与計算の流れ
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第10回年末調整の後の諸手続き
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第09回離婚時の年金の分割制度
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第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
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第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
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第06回就業規則と給与計算の関係
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第05回給与から引かれるものは?
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第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
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第03回賞与の支給と給与計算
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第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
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第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料