所定外労働と法定時間外労働の違い
目次
「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」が国会で可決・成立し、2024年5月31日に公布されました。
改正の趣旨は、「男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる。」となっています。
この改正の中で、所定外労働の制限の対象拡大も含まれています。2025年4月1日以降については、所定外労働の制限 (残業免除) の対象となる労働者の範囲が、小学校就学前の子 (現行は3歳になるまでの子) を養育する労働者まで拡大されます。
今回は、意外と混同している方も多い「所定外労働」と「法定時間外労働」の違いについて、説明していきます。
労働時間と休日の原則について
まず最初に、労働時間と休日の原則についてみていきます。
労働基準法では1日(8時間)と1週(40時間)の労働時間、休日日数(毎週少なくとも1回、4週に4日の例外があります。)を定めています。原則は、この時間数や休日に従業員を労働させてはならないというルールになります。
しかし、現実的に繁忙期等で労働時間が伸びてしまうこともあるので、時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)が作られました。36協定を締結して労働基準監督署長に届け出れば、法定労働時間を超える時間外労働と法定休日における休日労働が認められます。
36協定は、労働基準監督署長に届け出ないと、その効力が発生しない点には注意が必要です。
この「1日8時間、週40時間」を超えた時間が原則として法定時間外労働になります。
また、法定休日である「毎週1回(変形週休制の場合は4週に4日)」に労働した場合は、法定休日労働になります。
割増賃金率について
法定時間外労働と法定休日労働に対して、事業主は割増賃金を支払う必要があります。割増賃金率については次のように定められています。
・時間外労働・・・2割5分以上(1か月について60時間を超える場合は5割以上) ・休日労働・・・・3割5分以上 ・法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上 ・時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上(1か月について60時間を超える場合は7割5分以上) ・休日労働が深夜に及んだ場合・・・(6割以上) |
ここに出てくる「時間外労働」「休日労働」は、それぞれ法定の時間外労働と休日労働のことを指します。
法定の時間外労働と法定休日の労働に当たらない時間外労働と休日労働は、上の割増賃金率は適用されません。ただし、法定休日に当たらない休日労働であっても、週40時間を超えていれば、法定時間外労働には該当しますので、注意しましょう。
以前は賃金請求権の消滅時効期間は2年間でしたが、その期間が、2020年4月1日以降は5年に延長されています。ただし、2年から5年にすぐに延長されたのではなく、当分の間は3年間が消滅時効期間とされています。なお、退職金請求権(現行5年)などの消滅時効期間などは変更されていません。
残業代の未払いがあると、まとまった金額の支払いが必要になる可能性があります。残業時間や休日労働のカウント方法について、念のためチェックをした方がよいでしょう。

所定外労働について
次に、所定外労働についてみていきます。所定外労働とは、簡単にいってしまうと、会社が定めた所定労働時間を超えた労働時間となります。
そのため、所定労働時間が7時間30分と設定している会社であれば、7時間30分を超えた時間から8時間までの時間(30分)が所定外労働ということになります。
所定労働時間については、割増賃金は発生しませんが、通常の賃金を支払う必要があります。
今回の法改正では、所定外労働の制限 (残業免除) の対象となる労働者の範囲が、小学校就学前の子(現行は3歳になるまでの子) を養育する労働者まで拡大されることになります。
法定時間外労働ではなく、所定外労働の制限である点は注意が必要です。仮に、1日の所定労働時間が7時間30分の会社の場合は、労働者から請求があった場合は、7時間30分以降の労働をさせることは不可となります。
今回は、所定外労働と法定時間外労働の違いについてみてきました。1日の所定労働時間が8時間より短い会社は混同しないように注意しましょう。
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