日本の人事部掲載コラム バックナンバー
第28回  投稿:2016.07.04 / 最終更新:2019.07.18

企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方

これまで数回に分けて、変形労働時間制や裁量労働制などの特殊な労働時間制について紹介してきました。

その中の一つである「企画業務型裁量労働制」は前々回の「専門業務型裁量労働制」の中で触れるだけにとどめましたが、「きちんと説明してほしい。」との声が寄せられましたので、このシリーズのしめくくりに紹介させていただきます。

「企画業務型裁量労働制」は実施要件が厳しいため、あまり利用されていないようです。しかし、考え方によっては、要件さえ整えば労使共にメリットを受けることができる制度です。

会社の組織形態や業務内容がこの制度にマッチしている会社は、企画業務型裁量労働制の導入を検討してみてもよいかもしれません。

企画業務型裁量労働制とは?

経済社会の構造変化や労働者の就業意識の変化などが進む中、自らの知識、技術や創造的な能力などを活かし、仕事の進め方や時間配分に関して主体性をもって働きたいという労働者が増えてきました。

これらの状況を踏まえて、2000年(平成12年)に施行されたのが「企画業務型裁量労働制」です。

対象となる労働者は、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、「企画、立案、調査及び分析」を行っている方になります。

この制度を導入すると、対象者は業務の遂行手段や時間配分を自分自身の裁量で決定し、使用者(会社)から具体的な指示を受けずに仕事をすることが可能になります。

企画業務型裁量労働制を導入できる企業とは?

企画業務型裁量労働制は、前述の「対象業務」が存在する事業所でのみ導入することができます。すべての事業所が対象になっているわけではないという点に、注意が必要です。

具体的には、以下の1)または2)のいずれかに該当する事業所だけが、制度の導入をすることができます。

1)当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
2)本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場

つまり、同じ会社で似たような業務を行っている従業員であっても、勤務する事業所によっては、制度の対象になる場合と対象外になってしまう場合があるということです。

企画業務型裁量労働制の導入方法

企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会を設置して、その委員の5分4以上の多数による議決により、次の1)~7)の項目を決議して、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

制度を導入するためには、まずは使用者と労働者代表で構成される「労使委員会」を設置する必要があります。労使委員会は、形式上のものでは認められず、また、その設置自体を労働基準監督署へ届け出なければなりません。

さらに労働者代表の選任方法や任期などの要件もあり、この設置自体が企画業務型裁量労働制導入のための第一のハードルになります。労使委員会の詳細は、「独立行政法人労働政策研究・研修機構」のホームページに詳しい記述がありますので、参考にしてみてください。

企画業務型裁量労働制を導入するために労使委員会で決議しなければならない項目は、次の通りです。

1)対象となる業務の具体的な範囲
2)対象労働者の具体的な範囲
3)労働したものとみなす時間
4)対象労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容(たとえば「代償休日や特別な休暇を付与すること」など)
5)苦情の処理のため措置の具体的内容
6)本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと、及び不同意の労働者に対し不利益取扱いをしてはならないこと
7)決議の有効期間(「3年以内」とすることが望ましいとされています)

企画業務型裁量労働制における割増賃金

前述のように企画業務型裁量労働制を導入するには、労使委員会で1日あたりの労働時間(労働したとみなす時間)を決議することになります。

たとえば、1日あたりの労働時間を8時間と設定したとすると、実際の労働時間が8時間より短くても長くても、その日に労働した時間は8時間ということになります。

そのため、1日あたりの労働時間を8時間以下に設定しているのであれば、日々の残業という概念そのものがありませんので、実際の労働時間が8時間より長かった日でも割増賃金の支払いをする必要はありません。

注意が必要なのが、休日と深夜時間帯に労働した場合です。裁量労働制は1日の労働時間の長さを決めているにすぎません。

そのため、企画業務型裁量労働制を導入したとしても、「休憩」「深夜勤務」「休日」に関する規定は一般的な定時で勤務している労働者と同様に適用されます。

したがって、深夜時間帯や休日に労働した場合は、当然に割増賃金の支払いをする必要が出てきます。

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割増賃金の具体的な考え方は、前々回紹介した「専門業務型裁量労働制」と同じです。

「裁量労働制だから賃金はすべて固定になる」と勘違いされている場合もあるようですが、裁量労働制であっても、時間外手当や深夜手当、休日手当の支払いがまったくなくなるわけではありません。

すでに制度を導入されている会社の担当者は、とくに休日出勤や深夜勤務の割増賃金が適正に支払われているか、一度確認してみましょう。

 

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