日本の人事部掲載コラム バックナンバー
第36回  投稿:2017.03.07 / 最終更新:2019.07.18

最低賃金の仕組み

わが国では、毎年秋(10月前後)に「最低賃金」の引き上げが行われています。近年では、最低賃金の増額幅が大きいため、パートタイマーやアルバイトの時給や、固定残業代(みなし残業代、定額残業代等)制度を導入している場合などで、「会社が知らぬ間に最低賃金を下回っていた」といったケースもあるようです。

今回は、最低賃金の仕組みについてみていきたいと思います。

最低賃金とは

最低賃金とは、最低賃金法にもとづき、国が定めた賃金の最低限度の金額のことです。当然ですが、会社は最低賃金以上の賃金を支払う義務があります。

最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。地域別最低賃金は、産業や職種に関係なく、すべての労働者に対して適用される都道府県ごとの最低賃金です。

一方で、特定(産業別)最低賃金は、それぞれの都道府県で決められた特定の産業の基幹的社員に対して適用されます。そのため、地域によって特定(産業別)最低賃金が適用される業種や業務も異なります。

なお、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が同時に適用される場合には、いずれか高い方の金額が最低賃金になります。

また、都道府県をまたいで派遣される派遣社員の場合は、派遣先の所在地の最低賃金が適用されます。たとえば、東京の派遣会社に登録(就労)している派遣社員が、千葉県の会社に派遣されている場合は、千葉県の最低賃金が適用されるということです。

最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の計算に含まれる賃金は、実際に毎月支払われる賃金から以下の6つを除いた金額です。

1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
2)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
4)所定労働日以外の日に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
5)午後10時から午前5時までの間に対して支払われる割増賃金(深夜割増賃金など)
6)精皆勤手当、通勤手当、家族手当

固定残業代制度を導入している場合は、「所定内労働に対する賃金部分」と「残業代に対する賃金部分」に賃金が分けられるはずです。このような場合、最低賃金の対象となるのは、給与から「残業代に対する賃金部分(固定残業代部分)」を控除した金額です。

みなし残業時間が増えれば増えるほど、最低賃金の対象となる賃金単価は下がります。基本給の中に固定残業代を含んでいる制度になっている場合など、固定残業部分が不明瞭な賃金制度を導入している企業の場合は、最低賃金を下回っていることがないか、特に注意して計算をしてみてください。

最低賃金をクリアできているかを確認する方法

最低賃金は、時間によって定められています。しかし、正社員など月額で給与を定められている従業員も多く存在します。

実際の賃金が最低賃金以上になっているかを確認するためには、すべての賃金をいったん時給に換算しないとなりません。

なお、一人に対して複数の賃金の形態がある場合(月給の従業員に歩合給=出来高払いがあるケース、時給のパートタイマーに通勤費だけは日額×出勤日数で支給しているケースなど)はそれぞれの形態ごとに時給に換算して合算します。

支払っている賃金の形態(月給、時間給、日給等)ごとの換算方法は次の通りです。

賃金の形態 換算方法
1)時間給制 時間給(そのまま)
2)日給制 日給 ÷ 1日の所定労働時間
3)月給制 月給 ÷ 1ヶ月の所定労働時間
4)出来高払い制その他の請負制によって定められた賃金(賃金総額A) 賃金総額A ÷ 当該賃金計算期間に賃金総額Aを得るために労働した総労働時間

 

もし、最低賃金以下の賃金しか支払われていなければ、不足していた金額は遡及して支払う必要があります。それよりも大事なのは、「最低賃金法違反」であることが露見すると、従業員の会社に対する信頼が大きく損なわれることです。

本年(平成29年)も、おそらく最低賃金は引き上げられると思います。そろそろ、昇給やパートタイマーの契約更改をする会社が増える時期です。

あらかじめ最低賃金の引き上げも念頭に入れて、昇給額その他を検討するようにしましょう。

 

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